WWFによる国際オリンピック委員会(IOC)トーマス・バッハ会長あて要望書(日本語訳・英語原文)
2020/01/20
日本語訳
国際オリンピック委員会(IOC)トーマス・バッハ会長
以下の事項について要望いたします。
国際オリンピック委員会(IOC)が、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)で調達される物品の情報開示と第三者評価を行うよう、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下組織委員会)に要求することに関して
WWF ジャパンは IOC に対して、以下2つの主な理由から、東京 2020 大会の持続可能性、および情報の透明性に関する問題に、十分な注意を払うよう要請します。まず、WWF ジャパンは、組織委員会が作成した調達コードのうち、特に木材、紙、水産物、パーム油(*1)の個別基準に重大な欠陥があると見ています。これらの調達コードは、国際的なベストプラクティスを大幅に下回るものであり、オリンピックやパラリンピックのような国際的なイベントには適していません。次に、この調達コードを持続可能なものにするという、そもそもの意思の欠如が組織委員会に見受けられたことに、私たちは深刻な懸念を覚えています。
組織委員会の持続可能な調達ワーキンググループは、環境、人権、労働、またその他の分野における専門家で構成されており、WWF ジャパンの気候変動・エネルギーグループの専門家の一人はそこに参画しています。このワーキンググループメンバーとして、私たちはこれまで開催された検討会の大半に参加し、上記の調達コードの個別基準における弱点について、繰り返し指摘してきました。しかし残念ながら、WWF を含む数人のワーキンググループメンバーによる意見やコメントにもかかわらず、最終的に発表された調達コードには、持続可能性のコンセプトが担保されておらず、検討会では現状のコードをただ確認するのみといった傾向が見られました。メンバーからの重要な指摘に関して、組織委員会から納得のいく返答はありませんでした。
「持続可能な調達に関するオリンピック競技のガイド」には、オリンピック競技が持続可能性分野において「最先端」である旨が、明確に記されています(*2)。実際に東京 2020 大会では、持続可能性におけるさまざまな取り組みが実施されています。東京 2020 大会における脱炭素化への取り組みについては、省エネルギー対策、再生可能エネルギー100%使用、オフセットのためのしっかりとしたガイドラインの採用など、過去のオリンピック・パラリンピック大会と比較してもトップレベルであると、WWF ジャパンは評価しています。なかでも鉄リサイクルを CO2 削減策として位置づけたことは、オリンピック・パラリンピックの持続可能性の取り組みでは史上初めてであり、高く評価されます。
しかし、欠点を残した調達コードと、説明責任を果たさない組織委員会については、オリンピック競技と IOC における信頼性を損なう可能性があるため、WWF ジャパンは深刻な懸念を表明します。上記の理由から、私たちは、IOC へ以下の実施を強く要望します。
1)組織委員会に調達結果の開示を要求すること(*3)。具体的には、東京 2020 大会で調達された全物品の生産地域と、各認証の内訳を含む認証製品の比率の開示を要求。
2)組織委員会の調達コードと、その運用実績に関する外部レビューを実施し、2020 年 12 月31 日までにその報告書を公表。
調達コードに見られる数々の欠点の中でも、WWF ジャパンが特に懸念している点を以下に記載します。調達コードに掲げられた持続可能性の原則自体はおおむね適切といえるものの、基準を確認する方法が不適切であるため、根本的に持続可能性を担保することができなくなっているのです。
木材と紙
木材と紙の調達コードは不十分であるため、責任ある調達を追及することができず、森林破壊や人権侵害のリスクを低減することは困難です。この調達コードでは、第三者認証を取得していない木材や紙であっても、事業者にデューデリジェンスを義務付けることもなければ、外部監査を要求することもありません。特に、認証されていない木材と紙のリスクを最小限に抑えるには、適切な監査メカニズムが不可欠であると、私たちは考えています。
水産物
水産物調達コードは、必ずしも持続可能性が担保されていない認証を取得した水産物の調達を認めています。さらに、認証取得していない水産物であっても、生産者が地方自治体等に資源管理/漁場改善計画を提出さえしていれば、その計画が生物多様性への配慮が不十分なものであろうとも、調達が認められてしまいます。結果として、資源が枯渇傾向にあるものも含め、約 90%の国産水産物が提供され得ることになります。したがって持続可能性を担保した調達コードだとは到底考えられません。
パーム油
「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」という名称自体が、調達コードが持続可能ではないことを明確に示しています。組織委員会は、国際的には合法性しか担保していない手段と見なされている ISPO や MSPO を、持続可能な認証だと認識しています。
(*1)持続可能性に配慮した木材の調達基準、持続可能性に配慮した水産物の調達基準、持続可能性に配慮した紙の調達基準、持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準
(*2)OLYMPIC GAMES GUIDE ON Sustainable Sourcing (15 ページ)
(*3)特に東京 2020 大会のために建設された施設に使用された木材を含む、全ての物品の原産国と量 、そして認証製品の比率と、各認証と非認証の内訳比率の開示。
WWFインターナショナル 局長 マルコ・ランベルティーニ
WWFジャパン 局長 筒井隆司