国際オリンピック委員会(IOC)に対し要望書を提出
2020/01/20
持続可能とはいえない「調達コード」
2020年にいよいよ開かれる、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)は、近年の開催例にもれず、環境や社会に配慮した「持続可能な大会」として実施されることが、国際的にも期待され、また注目されています。
しかし、その実現のカギとなる、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が作成した「調達コード」には多くの問題があります。
掲げられた持続可能性の原則自体は、おおむね適切といえるものになっていますが、具体的に基準を確認する方法が不適切であるため、実際かつ根本的に持続可能性を担保することができない内容になっているのです。
特に、重大な欠陥が認められるのは、大会で使用される木材、紙、水産物、パーム油の個別の調達基準です。
この問題となる物品の調達は、いずれも国内のみならず海外の森林や海洋の自然環境の保全に深くかかわるものであり、日本が国際的な責任を問われる重要な点になります。
また、「持続可能な調達に関するオリンピック競技のガイド」には、オリンピック競技が持続可能性分野において「最先端」である旨が明記されていますが、現在の調達コードの内容では、東京2020大会を「持続可能な大会」として実現するのが不可能な状況です。
活かされなかった検討
こうした懸念は、調達コードが検討、策定される時点から、すでに明らかにされてきました。
大会の組織委員会の諮問機関である、環境、人権、労働、その他、各分野の専門家で構成された持続可能な調達ワーキンググループでは、調達コードの基準にみられる弱点を再三にわたり指摘。
専門家の一員として、このワーキンググループに参加してきたWWFジャパンの気候エネルギー専門家も、持続可能性のコンセプトを担保したものとするよう、繰り返し改善を求めてきました。
しかし、組織委員会が最終的に発表した調達コードは、検討会の中で不十分な内容を多く残したまま、ただ追認する形で策定が進められてしまいました。
WWFの評価とIOCに対する要望
東京2020大会の調達コードが、なぜ重要なのか。
その理由は、この調達コードが、単に大会の期間中にとどまらず、今後の日本の企業や、地方自治体、政府による調達の指針として、長期にわたり大きな影響力を発揮するためです。
つまり、ここで十分な内容の調達コードが成立しなかった場合、日本では今後、国内外の環境や社会に負の影響を及ぼす不十分な調達コードが、長く採用され続ける危険がある、ということです。
何より、この調達コードを持続可能なものにすることの必要性、重要性を認識し、実現する意思が、組織委員会に欠如していると見受けられたことは、非常に深刻な問題です。
この現状を受け、WWFは深刻な懸念を表明。
2020年1月16日には、国際オリンピック委員会(IOC)に対し、下記の2点について実施を強く求める要望書を提出しました。
1)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に、調達結果の情報開示を要求すること。具体的には、東京2020大会で調達された全物品の生産地域と、各認証の内訳を含む認証製品の比率の開示を要求すること。
2)組織委員会の調達コードと、その運用実績に関する外部レビューを実施し、2020年12月31日までにその報告書を公表すること。
価値ある「オリンピック・レガシー」を残すために
その一方でWWFは、東京2020大会の脱炭素化(地球温暖化対策)の取り組みについては、高く評価できる内容であることもIOCに伝えました。
この内容で定められた省エネルギー対策や、再生可能エネルギーの100%使用、オフセットのガイドラインの採用などは、近年のオリンピック・パラリンピック大会でもトップレベルの水準にあるといえるものです。
とりわけ、「鉄リサイクル」を具体的な二酸化炭素(CO2)の削減策として位置づけたことは、大会の持続可能性を追求する取り組みでは史上初の事例であり、高い評価に値します。
WWFジャパンは世界の中で大消費国のひとつである日本が、社会全体として責任ある調達を実施して行くべきと考えています。
ですが、その指針となる東京2020大会の調達方針が現状の内容のままでは、持続可能な社会に向けた変革を導く「オリンピック・レガシー」を未来に向けてのこすことができません。
東京2020大会を歴史に残る、そして真に未来に貢献する大会とするためにも、今後の改善に向けた取り組みの実施が求められます。