東京オリパラ大会:不十分な持続可能性 ~調達結果を具体的な数値で開示せよ~
2021/07/19
未曽有のコロナ禍の中、開催にこぎつけた東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、無観客で開催されるかなどが焦点となり、SDGs時代の国際スポーツ大会に欠かせない「持続可能性」の取り組みについては国内ニュースではほとんど話題にはなっていない。しかしその陰で、東京大会は不十分な持続可能性の取り組みであるとの改善点の指摘を繰り返し受けながらも、なんら向上させることなく開催に至っていることをWWFジャパンは強く憂える。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、環境や社会に配慮した「持続可能な大会」として実施されることになっている。しかし東京大会の脱炭素に対する取り組みは高評価に値するものの、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が作成した「調達コード」には多くの課題があることを、WWFジャパンは繰り返し指摘してきた。
特に、問題が多いのは、大会で使用される木材、紙、水産物、パーム油の個別の調達基準である。この問題となる物品の調達は、いずれも国内はもちろんのこと海外の森林や海洋の自然環境・生物多様性の保全に深くかかわるものであり、日本が国際的に責任を問われる重要な点である。これらの調達基準を担保する方法が緩くなってしまったために、たとえば木材の調達では、東南アジアの原産地において、東京大会の建築物のための調達で現地の人権や生物多様性が損なわれたとの訴えが相次いだ。水産物に至っては、資源管理や生態系保全へ配慮して定められた調達基準を満たさなくとも、資源管理等の“計画”を策定するだけで実質的にOKとなるという大きな抜け穴が残された。
さらに調達コードの基本原則にある「資源の有効活用を重視する」については、本来最優先されるべき、廃棄物の「発生抑制 (リデュース)」や「再使用(リユース)」の取り組みはほとんど見られず、「再生利用(リサイクル)」の推進に大きく偏ってしまっている。これでは、地球規模の問題になっている海洋プラスチック汚染の根絶を目指すサーキュラー・エコノミーの模範事例となり得るかという点からも不十分である。
これらの調達コードが不十分なものになったのは、国内の持続可能性の取り組みが進んでいないためとされており、東京大会直前の2021年7月に公表された「持続可能性大会前報告書 追補版」にも、「一般の消費者にとって、持続可能な消費活動や認証制度はまだなじみのないものです」そのために組織委員会は、この東京大会を契機に消費者の意識や取り組み向上を促していくと述べられている。
しかし消費者の意識が低いから、持続可能性の取り組みの基準を緩める、とするのは本末転倒であることは、WWFは繰り返し述べてきた。東京大会の持続可能性の基準作りは、2016年から始まり、コロナ禍での延期もあってすでに5年が経過している。本来は高い持続可能性が担保できる調達基準を示してこそ、調達する当該企業の意識も向上し、ひいては消費者にも届くことになるのではないか。
持続可能性の取り組みは、少なくとも東京大会によって認知が進んだと組織委員会は報告している。ならば、どの程度、各企業の取り組みが進んだのか、そしてどの程度持続可能性を担保できる認証取得が進んだのか、そして調達物品の中で認証品が占めた割合などを具体的に数値で明示し、公開することが必須である。持続可能性の取り組みは、今やきれいごとではなく、欧州を中心に持続可能な調達が主流化する中、ビジネスの必然となっている。日本企業の国際競争力向上のためにこそ、持続可能な調達の取り組みは加速しなければならない。そのために東京大会が果たした役割を、大会後に数値を示して公開し、世界からの検証に応えてもらいたい。
東京大会の開催を前に、WWFジャパンは以下の2点を改めて強く訴えたい。
1) 組織委員会は大会後に調達結果の開示をすること。具体的には、調達方針の対象となった全物品の生産地域と、各認証の内訳を含む認証製品の比率の開示をすること。
水産物について:認証水産物については、認証スキーム毎の魚種および調達量。非認証水産物については、該当する調達基準(4~7)と調達量を明示されたい
木材について:大会で調達された全物品の生産地域と、各認証の内訳を含む認証製品の比率の開示を明示されたい
パーム油について:認証スキーム毎の調達量、および非認証製品については調達量と共に、調達基準4に沿って実施されているはずの第三者確認の実施有無を開示されたい
紙について:本調達方針の対象となった紙製品の量、再生紙の占める割合やバージンパルプの生産国(地域)、各認証の内訳を含む認証製品の比率、認証以外の方法で持続可能性を確認した場合の確認方法など、運用実績に関わる情報を開示されたい
2) 組織委員会の調達コードと、その運用実績に関する外部レビューを実施し、2021年12月31日までに大会後の報告書で公表すること
なお、「持続可能性大会前報告書 追補版」には「東京2020大会の調達基準で採用している認証制度を紹介する資料を作成し、ウェブサイトに掲載」とあるが、消費者の意識や取り組みの向上について具体的にどのような施策を講じ、その結果どのような成果が上がったのか、因果関係が分かる形で大会後の報告書で報告いただきたい。また、パーム油と持続可能性の取り組み確認の手段として有効な認証について、あたかも大会の成果として取得企業の増加が紹介されているが、パーム油に限らずその他産品も含め、企業の意識や取り組みの向上についても具体的にどのような施策を講じ、その結果増加したのであれば、こちらも因果関係が分かる形で大会後の報告書で示していただきたい。
最後に、東京大会は脱炭素の取り組みに関しては過去のオリパラ大会の中でも進んでいるとWWFは評価する。まず省エネを旨とし、その後に再生可能エネルギー100%の大会運営を果たし、残りの排出は厳格な基準で選んだオフセットクレジットで相殺し、オリパラ史上初めての脱炭素大会を実現することとなった。気候エネルギー政策導入に出遅れた日本にとって、東京大会の取り組みが国内の脱炭素化および再エネ推進を後押しすることを期待したい。さらに既存の会場建物に関する電気の契約についても、再エネ100%へ向けて切り替えが進んだのか、などの具体的な数値を挙げての結果報告を期待する。