国際的な野生生物犯罪の摘発へ~タイ・ミャンマー国境地帯における3か年のIWT(違法な野生生物取引)対策支援
2025/02/05
- この記事のポイント
- 世界の生物多様性を損なう大きな要因の一つとなっている、野生生物の乱獲や過剰な採取。さらに国境を越えた違法な取引が、その被害を大きくしています。この問題への取り組みとして、WWFジャパンはWWFタイの活動を支援。約3か年にわたりタイ・ミャンマー国境地帯におけるIWT(Illegal Wildlife Trade, 違法な野生生物取引)対策を推進してきました。その取り組みを、実際に成果として摘発された国際的な野生生物密輸事件の内容と共に、報告します。
タイ・ミャンマー国境地帯で起こっていること
2024年12月、WWFジャパンが2021年から支援してきたタイにおけるプロジェクト“Fighting IWT in Dan Singkhon”が、約3か年の活動を完了しました。
プロジェクトの実施場所は、タイ・ミャンマー国境地帯であるDawna Tenasserim Landscape(DTL)内の森林地帯Western Forest Complexに位置するタイ側の国境の町ダーン・シンコン(Dan Singkhon)です。
ダーン・シンコンは、3つの国立公園(タイ側のクイブリ国立公園とナムトック・ホゥアイヤーン国立公園、ミャンマー側のレニヤ国立公園)に囲まれています。
これらの国立公園には、アジアゾウ、センザンコウ、ガウルなど、絶滅危惧種を含むさまざまな野生生物が生息しています。
しかし、こうした多種多様な野生生物が生息地の開発などにより、その数を減らしています。
そこに拍車をかけているのが、密猟や違法な取引です。
さらに、タイは国内外で密猟された野生生物の重要な取引経由地にもなっており、特にタイ・ミャンマー国境地帯では、トラや象牙の密猟や密売が繰り返し発生していました。
プロジェクトを実施したダーン・シンコン周辺は、「世界一密猟されている哺乳類」と言われるセンザンコウの密輸ルートであることが報告されています。
野生生物犯罪を防ぐための奮闘~各方面の連携
このような野生生物の密猟・密輸問題におけるタイの重要性から、WWFは、タイ国内の国境周辺や輸送拠点となる複数の地域において、官民連携の対策を進めてきました。
その活動の柱が、各地域におけるP-WEN(Provincial Wildlife Enforcement Network,野生生物事犯に対する執行に関する地域ネットワーク)です。
タイ国内のP-WENは、始めにタイ・ミャンマー・ラオス3か国が国境を接する、タイ北部で設立され、2021年までにタイ国内において合計3つのP-WEN(Chiang Rai,Nong Khai,Songkhlaにて設立)が始動しました。
2021年からWWFジャパンの支援で始まったプロジェクト“Fighting IWT in Dan Singkhon”では、タイで4番目となるP-WENの設立をダーン・シンコンで支援。
タイ・ミャンマー国境地帯で野生生物の輸送拠点となっていたこの地域で、タイを経由する野生生物の密猟・密輸を防ぐことを目指しました。
そして2023年3月には、WWFの働きかけにより、県知事令(Provincial Order)が発令され、これに基づきダーン・シンコンで新たなP-WENが正式に設立されました。
また同年6月には、タイ国立公園当局と連携して、3日間のトレーニング・ワークショップを開催し、警察、税関、自治体、その他関連部局から約40名の職員が参加しました。
ワークショップでは、ワシントン条約や国内法の規制状況、実例に基づく実務的なノウハウ等が共有され、さらに国境地帯に位置する実際のマーケットを会場に国立公園職員が密売者に扮したロール・プレイイング講習も実施されました。
こうしたさまざまな工夫を凝らしたプログラムを通じて、各機関のP-WENメンバーが、それぞれの持ち場で活用し、野生生物関連の犯罪に対する執行力を高めることが期待されました。
またプロジェクトでは、密猟や野生生物取引に対する地域コミュニティの監視能力向上を目指し、地域住民に対する普及活動も併せて実施しました。
国際的な野生生物犯罪の摘発へ
こうした取り組みが奏功し、2024年5月、ダーン・シンコンのP-WENメンバーによる地域間で連携した合同執行(Transnational cooperative enforcement action)が実施され、大型の国際的な野生動物密輸事犯が摘発されました。
この事件では、インドネシア・スマトラ経由でタイ南部から野生生物を輸送していた密輸業者6名と、その協力者である飼養施設運営者1名が逮捕されました。
その際に押収・保護された野生動物は、いずれもマダガスカル産のホウシャガメ1,076頭・キツネザル48頭など多数に及びました。
今後の展望
大型の国際的な野生生物密輸事犯が摘発されたのは大きな成果ですが、これは氷山の一角であると考えられています。
密猟・密輸・違法販売は、野生生物、特に絶滅のおそれのある種にとって、生息地の破壊に次いで、大きな脅威であり続けています。
そして多くの野生動物種をペットとして取引している日本も、その一大輸入国・消費国として責任を負っています。
WWFジャパンは、引き続き各国メンバーと連携し、生物多様性の回復を目指す「ネイチャー・ポジティブ」の一環として、国内外でのIWTに対する取り組みを進めていきます。
本活動をご支援くださった、WWFサポーターの皆さまに、この場をお借りして心より感謝を申し上げます。引き続き、活動へのご理解とご支援を、よろしくお願いいたします。