辺野古・大浦湾の埋立て米軍基地建設工事に対する要望
2018/08/31
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
防衛大臣 小野寺 五典 殿
内閣府特命担当大臣(沖縄政策)福井 照 殿
沖縄防衛局長 中嶋 浩一郎 殿
拝啓 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
2018年8月9日、沖縄県は防衛省に対し、沖縄県辺野古・大浦湾で進められている米軍基地建設工事について、その埋め立て承認の見直し検討に関連した聴聞を行いました。この結果、沖縄県として承認取り消しの判断に至ったことは、各報道のとおりです。
一方工事の進捗状況は、7月19日までに工区の堤防N3が、8月2日には堤防K4の堤防が接続されたことが確認されています。これにより、太平洋に面した埋め立て区域②及び区域②-1を合わせたおよそ40haの沿岸の海は、周辺海域との海水の移動が失われ、土砂投入を待たずにその環境は完全に失われる状況に至っています。
辺野古沿岸の自然環境の価値
南西諸島(琉球列島)の島々は、1500万年前に大陸の辺縁から次第に分離し、島としての形成過程を経てきました。その自然は、亜熱帯林やマングローブ林、サンゴ礁や干潟など多種多様な生き物が織りなす、世界的にも類を見ない貴重な生態系を有しています。
WWFが2003年に作成した、地球上の自然を代表する地域を選定した「グローバル200」においても、世界的に保全を優先すべき地域とされたほか、世界自然遺産の候補地としてその価値が認められた琉球・奄美の生態系の重要な一角をなしています。
特に辺野古・大浦湾地域は、環境省のレッドリストで絶滅危惧種IA類に指定されたジュゴンの生息地であり、2000年アンマン、2004年バンコク、2008年バルセロナでそれぞれ開催されたIUCN世界会議において、この周辺地域の保全と個体群の存続を確実にするための適切な対策を講じることが公式に求められました。
この周辺海岸や沿岸ではジュゴンのみならずここだけに地域に生息する固有種も確認されており、基地建設工事は周辺の生物多様性を不可逆的に失う結果となることが懸念されます。そのため、WWFでは工事の即時停止と計画の根本的な見直しを、1990年代から求めてきました。
また、沖縄では地域の自然環境を基盤とした生活や文化が育まれてきました。それら人間活動による自然資源の生産や消費のつながりもまた、自然および景観の保全も、日本における重要な課題の一つと認識しております。
基地建設計画における問題・具体的指摘事項
今回の工事計画及びその実施主体である国に対し、WWFがこれまで指摘してきた問題を踏まえた内容は主に以下の3点です。
- 事業の内容及び規模について環境への十分な配慮を優先事項と位置づけること
- 住民のみならず多様な関係者の意見を取り入れ、十分な合意形成を図るとともに順応的に事業実施に反映すること
- 対象地域の自然環境とその資源的価値を、既得権益者に限らず世界の恒久的価値の視点から評価すること
これら3点の内容について、詳しくは以下のとおりです。
1.事業の内容及び規模について環境への十分な配慮を優先事項と位置づけること
環境影響評価報告書では、周辺の生物多様性豊かな沿岸環境のシンボルともいえるジュゴンについて、この海域を利用する可能性は小さいとした後に多数の食痕が確認されました。また事前に行われた環境影響評価書での調査段階で想定していなかった垂直離着陸機MV22オスプレイの配備(米国では、オスプレイ配備については、それだけで環境アセスが義務づけられている)がなされるなど、環境影響の評価の内容には大きな過誤があると考えます。
またWWFが2012年2月に提出した意見書で指摘した、環境影響評価書の調査、予測、評価の手法や環境保全措置についての不足や不備についても、何ら改善がなされておりません。国際的かつ多様な立場の視点や要望を踏まえた事業計画段階での環境影響の公正・中立な検討。我が国の環境影響評価の制度において、環境省が取りまとめた「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」をもとに、諸外国同様に事業計画の段階から市民が検討に参加する戦略的環境アセスメント(SEA)や、着工中における方法書に立ち返り、環境アセスメント手続きを適正にやり直すことが求められます。
2.住民のみならず多様な関係者の意見を取り入れ、十分な合意形成を図るとともに順応的に事業実施に反映すること
環境影響評価書に対し、県が当初「知事意見」として提出した内容に、「同計画が沖縄の自然環境と人々の生活環境に多大なる影響を与 える」や「沖縄防衛局の保全措置では自然環境と生活環境の保全は不可能である」との 見解が示されました。
また工事着工から現在に至るまで、公示に反対する住民や世論への十分な説明の実施と、それら意見を取り入れた中止を含む見直しがなされないまま、半ば強引に工事は継続されており、前述の防波堤の完成による海域の閉め切りに続き、土砂の投入を行う段階となっています。
辺野古・大浦湾周辺は地域住民にとって、生活の糧を得る場としてだけでなくサンゴ礁のクチや岩にも伝統的な呼称が付けられています。つまり自然環境を基盤として生活や文化が育まれた文化的な遺産といえます。計画に対する住民や環境保全団体の意見を継続的に取り入れ、手続きや工事を急ぐことなく、徹底して合意形成を図ることが重要と考えます。
対象となる自然環境とその生態系サービスの価値について専門的及び国際的視点を導入すること
過去に行なわれた生物調査の結果、辺野古・大浦湾沿岸の海域では30種類以上の甲殻類の新種が見つかっています。したがって、前述のIUCN等の国際的な視点からの評価も踏まえ、この海域は、世界的にも重要な生物多様性を有する、優先的に保全されるべき環境であると考えられます。
自然環境の大規模改変は地域社会、住民および次の世代にとっての、地域の価値観や文化の消失につながるものであり、取り戻すことのできない日本国の国民の財産であるだけでなく、世界共通の宝の損失です。
日本が世界に誇る、豊かな自然であるだけでなく、将来にわたって地域の人々がその生態系サービスの恩恵を受け続けられるよう、保全する政策をとることが必要です。
これら内容を踏まえ、WWFジャパンは辺野古・大浦湾沿岸で進めている米軍基地の建設事業について改めての中止・見直しを行なうとともに、今後の国による施策や開発事業の計画と実施においても、計画の段階から十分検討・考慮し、関係する制度の見直しを行なうよう求めます。
なお、本状の写しは、下記にも送付させていただきます。
知事公室(秘書課)
〒900-8570 沖縄県那覇市泉崎1-2-2 行政棟6階
電話番号:098-866-2080
FAX番号:098-860-1453
知事公室基地対策課(代表)
金城典和課長
〒900-8570 沖縄県那覇市泉崎1-2-2 行政棟6階
電話番号:098-866-2460
FAX番号:098-869-8979