知っておきたい、COP15で決定されるべき重要事項
2022/12/02
- この記事のポイント
- 2022年12月に開催される国連生物多様性条約締約国会議(CBD-COP15)で、ポスト2020生物多様性枠組(GBF)が、ついに決定します。現在、その22の国際目標がドラフトされていますが、地球環境の深刻な危機を避けるため、より意欲的な目標が枠組の中に組み込まれることが期待されています。具体的に、「何がGBFが含まれるべきなのか」、について、WWFは2022年11月に提言書『Nature Positive By 2030: Securing A Global Plan To Save Our Life Support Systems』を発表しました。
生物多様性国際交渉は、いよいよ大詰めです!
2022年12月7日からカナダのモントリオールで、国連生物多様性条約の第15回締約国会議(CBD-COP15)第2部が開催され、ポスト2020生物多様性枠組(GBF:Global Biodiversity Framework)を策定する、最後の大詰めの議論が開始されます。
国連生物多様性条約の国際会議では、生物多様性保全の取り組みにおける水準を達成できるように、各国が交渉をしながら国際目標の作成を進めています。
今回の交渉では、2030年までの国際目標を定めたGBFが、ついに決定されるため、非常に注目されています。現在は、GBFの中に22の目標がドラフトされています。
https://www.env.go.jp/council/12nature/y128-01b.html
※目標22は上記イメージに記載がありませんが、「目標22:生物多様性保全と利用に生じる利益を助成へ公正かつ公平に分配」となる見込みです。
そこでWWFでは、生物多様性の喪失にともなう地球環境の深刻な危機を避けるために、GBFがより意欲的な目標を含めた形で完成されることを求め、そのために「何がGBFが含まれるべきなのか」をまとめた提言書『Nature Positive By 2030: Securing A Global Plan To Save Our Life Support Systems』を、2022年11月に発表しました。
CBD COP15に向けたWWF提言書『Nature Positive By 2030: Securing A Global Plan To Save Our Life Support Systems』(英語)
https://4783129.fs1.hubspotusercontent-na1.net/hubfs/4783129/NDNP/PDFs/COP15%20WWF%20Expectations%20Paper.pdf
ココが足りない、5項目!
このWWFの提言書『Nature Positive By 2030: Securing A Global Plan To Save Our Life Support Systems』では、生物多様性の損失を食い止め、回復傾向へ向かわせる、「ネイチャー・ポジティブ」を2030年までに達成するために、より野心的な目標設定を各国政府に対して求めています。
2030年までに2020年よりも多くの自然が存在するような、ネイチャー・ポジティブな世界を確保することが、GBFに含まれることを提言しています。
また、GBFにおいてさらに強化すべき5つの分野を特定しています。
1. 保全の規模拡大と回復
生物多様性を回復させ、ネイチャー・ポジティブを達成するためには、生物多様性が保全されるための活動を行うことが、大前提となります。具体的には、以下の点がGBFに含まれるよう提言しています。
- 2030 年までに陸域、内陸水域、海洋・沿岸域を含む地球の30%を保全するという世界的な目標を掲げること。
- 生物多様性重点地域(KBAs:Key Biodivercity Areas)と生物学的に重要な海洋地域(EBSAs:Ecologically or Biologically Significant Marine Areas)に焦点を当て、権利が完全に尊重され、確保しつつ、これらの地域のすべてが保全、効果的に管理され、衡平に統治されること。
- 自然および半自然の生態系の回復について、既存の公約を上回る野心的な目標を設定すること。
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html
2.持続可能な生産と消費
2030年までに生産と消費のフットプリント(人による環境への負荷)を半減させる、という成果が国際目標に含まれることも、重要です。特に、持続可能でない消費と生産が、生物多様性の損失の主要な原因となっていることを考慮し、以下の点を提言しています。
- 自然への影響を認識し、2030年までに生産と消費のフットプリントを半減させること
- 2030年までに主要な生産部門とビジネスを変革すること (主要セクター:農業とフードシステム、漁業と養殖業、林業、農業と水産業、林業、インフラストラクチャー、鉱業、その他の採鉱活動)
- 2030年までに世界全体の消費を減らし、プラネタリーバウンダリー範囲内に戻すこと
- プラスチック汚染と危険度の高い農薬を排除すること
3.取り組みの加速と拡大
愛知目標の未達成という失敗を繰り返さないためにも、以下のような、計画、モニタリング、報告、レビューのメカニズムを含む、野心の引き上げを段階的に行っていく仕組みを確立することにも、期待がされています。
- 報告:すべてのグローバル目標を各国の状況に落とし込んで対策が取られる必要があることから、既存の生物多様性国家戦略を改善し、各国はGBFに沿った計画を提出すること。
- 評価:グローバルレベルで進捗状況を評価すること
- 段階的強化:グローバル目標を達成するために、適切な時期に野心引き上げをめざすこと
4.適切な資金と投資
GBF内の国際目標を達成するための、生物多様性保全に関する具体策を実行するには、適切な資金と投資が必要です。以下のような、包括的な資源動員戦略が、GBFに含まれることが必要です。
- 生物多様性の資金ギャップを埋めるための、公的機関・民間機関を含めた資金動員を強化すること
- すべての金融事業者・機関が生物多様性への負の影響を回避し、正の影響を増大させること
- 補助金を含むすべての有害な誘因を特定し、見直しを行うこと
- 生物多様性が意図せず他の有害な支出によって相殺されないように、セクター間の政策一貫性を達成すること
https://portals.iucn.org/library/sites/library/files/documents/2020-020-Ja.pdf
5.自然に根ざした解決策
自然に根ざした解決策(以下NbS)には、例えば、荒廃地の再生や海岸の堤防などを自然を利用して行うことなどが含まれます。NbSによって、各地の地域社会に収入だけではなく、健康と幸福のようなメリットをもたらすことも、分かっています。そのため、その地域に住む住民、コミュニティの人々、先住民の人々の権利がきちんと保障されつつ、NbSを実践していくことが、GBFにおいても強調されるべきです。
また、健康面のメリット、という観点からは、土地の劣化、野生生物の搾取、資源採掘などによる自然環境の悪化が、人獣共通感染症の増加などにつながっていることにも注意が必要です。
そのため、人間の健康、野生生物と環境が相互に関連しており、人と動物の健康と環境の健全性は一体不可分である、というワンヘルスの考え方に基づいた、生物多様性保全対策の実施についてもGBFにコミットメントが含められるべき、と言えます。
世界と日本に必要なものは
昆明宣言、G7・2030年自然協約、G20ローマ首脳宣言など、多くの公約に示された2030年までに生物多様性の損失を反転させるという首脳の約束に合致させるためには、ポスト2020生物多様性枠組が掲げる国際目標を、より野心的なものにしていかなければなりません。
これまでの対策のままでは、自然の損失の流れを変えることはできません。
日本も世界の環境に与えている負の影響を与えている国の一つであり、これまでのような環境行政だけでは対応しきれません。
ポスト2020生物多様性枠組において、国際公約、宣言、決定での内容を担保し、さらに目標の野心を引き上げるような提案が、日本に求められています。
高い目標を掲げた国際目標に、国連生物多様性条約のすべての締約国が合意すれば、世界全体で、環境を保全し、人が自然と共存できる経済の仕組みを、創っていくことができるのです。
今回のCBD-COP15には、世界各国から集まったWWFスタッフも参加し、議論の行方を追いながら、高い目標を掲げた合意が形成されるよう、国際社会と各国政府代表団に訴えていきます。
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