生物多様性の国際交渉は最終局面!CBD COP15で決まる国際目標が日本の企業やビジネスに与える影響
2022/11/18
- この記事のポイント
- 今や気候変動と並ぶ大きなリスクとして、ビジネスの分野においても強く認識されるようになった「生物多様性」の問題。保全はもちろん、その回復を志向する「ネイチャー・ポジティブ」に対する関心が国際的にも高まる中で、2022年12月7日~19日、カナダのモントリオールにおいて、国連生物多様性条約の第15回締約国会議(CBD -COP15)が開催されます。ここでの合意が、そして新たな世界の生物多様性の保全に向けた意思が、今後のビジネスにどのような影響を及ぼすのか考察します。
加速する生物多様性をめぐる国際的な議論
生物多様性にかかわる国際交渉が最終局面へ向かっています。
2022年12月7日~19日には、国連生物多様性条約(CBD)作業部会および第15回締約国会議(COP15)、カルタヘナ議定書第10回締約国会合及び名古屋議定書第4回締約国会合が開催されます。
今回の交渉では、2030年までの国際目標を定めた、ポスト2020生物多様性枠組(GBF:Global Biodiversity Framework)が、コロナ禍での延期を経て、ついに決定されるため、非常に注目されています。
人類は現在、地球の1.75 個分に相当する生態系資源を過剰に消費しています。
現状の対策のままでは、さらなる気候変動と生物多様性の損失を招き、結果として自然からの恩恵を失うことになります。
これは、さまざまなビジネスリスクにも直結する問題です。
他方、生物多様性の損失要因は複雑かつ分野横断的であり、これまでの生産・消費、政策決定、金融における仕組みを根本から戦略的に変革していく必要があります。
そのために、政府、企業、社会の指針となる、共通の世界目標へ国際的に合意することが重要となります。
各国政府が、国際目標へ合意し、各国内で国際目標と整合した国内目標を策定すれば、2030年までに生物多様性の損失を反転させる「ネイチャー・ポジティブ」の実現に向けて、大きく方向転換できることになります。
ネイチャー・ポジティブとは
ネイチャー・ポジティブとは、2020年をベースラインとして、2030年までに自然の損失を停止、または反転させること(Locke et al., 2021)です。
今回のCOP15では、2030年までにネイチャー・ポジティブを実現するための、野心的な国際目標を締約国間で合意・採択ができるか、が焦点となっています。
他にも、生物多様性対策が気候変動対策と競合せず同時解決できるような実効性を担保していくことも、国際交渉においては既に主流となっています。
特に、ポスト2020生物多様性枠組の20の国際目標のうち、以下の目標等々での決定事項が、日本の企業やビジネスにおけるネイチャー・ポジティブの取組として直接関係してくることになるでしょう。
- 目標8「生態系を基盤とするアプローチにより緩和及び適応に貢献し、また、すべての緩和及び適応のための取組が生物多様性への負の影響を防ぐことを確保する」
- 目標10「農業・養殖業・林業を⾏なうすべての地域が持続可能に管理され、⽣産性とレジリエンスが増加する」
- 目標15「全てのビジネスが生物多様性への依存及び影響を評価報告対処し、悪影響を半減する」
- 目標16「食料及びその他の廃棄や過剰消費を半減させるべく、責任ある選択と必要な情報の入手を可能にさせる」
- 目標18「生物多様性に有害な補助金を改廃、年5000億ドル分削減し、全ての奨励措置が生物多様性に害をもたらさないようにする」
企業によるネイチャー・ポジティブへの取組を後押しするためには、政府が国際目標を国内の制度や規制に落とし込むことも重要ですが、上記の国際目標の内容を事前に把握し、自社の戦略に組み込む準備をしておくことで、他社や世界各国の企業にも差をつけることができるでしょう。
▼関連リンク
A Nature-Positive World: The Global Goal for Nature
ネイチャー・ポジティブについて This is our one home ここは私たちのたった一つの故郷
ネイチャー・ポジティブに向けた政府、企業の役割
では、ネイチャー・ポジティブの取組みにおいて、日本の企業やビジネス界にどのような役割が期待されているのでしょうか。
WWFジャパンでは、日本でネイチャー・ポジティブを実現するために今後必要とされる取り組みや協働について議論する場として、2022年7月1日に「第1回ネイチャー・ポジティブフォーラム」を開催しました。
招待制で実施された本フォーラムでは、「持続可能な開発のための世界経済人会議 (WBCSD)」をキーノートスピーチとしてお招きしたほか、各国政府、国際開発金融機関、国際機関、国内外の企業20社以上が出席。
2030年までのネイチャー・ポジティブに向けた、日本において政府や企業果たすべき必要な役割について、活発な議論が行なわれました。
本フォーラムにおいては、以下の議長サマリーが作成されました。
第1回ネイチャー・ポジティブフォーラム
議長サマリー
国際的な枠組みであるポスト2020生物多様性枠組みにおいては、2030年までにネイチャー・ポジティブ達成することが目標として設定される予定である。社会全体でネイチャー・ポジティブ経済に移行するためには、特に政府、企業、金融において以下のような取組を促進することが求められている。
政府の役割:
生態系サービスの恩恵を受けうるすべてのステークホルダーを巻き込みながら、政策の中に自然資本を組み込み、また生物多様性の主流化を目指す。ネイチャー・ポジティブに資する社会システムの変革を早期に進め、生態系に負の影響を与えない資金の流れを作ることが重要である。さらに気候変動と生物多様性の課題を統合的な形で解決を求めていく。
企業の役割:
サプライチェーンのみならず、事業を実施している地域でのランドスケープアプローチを探求し、持続可能かつ再生可能な生産を実施する。また、自然資本を中心に据えた自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の動向に代表されるように、標準化されたシステムの下で、自然に関わる情報開示の実施が今後求められてくる。さらに事業会社自らが、政策形成や新たな市場の構築に向け、多くのステークホルダーとも協働し取組を行っていくことが必要である。
金融の役割:
自然資本が経済活動の根底を支えていることをよく理解したうえで、中長期的なインパクトをみすえて投融資先を決定することが肝要である。
英国では、2021年に発表されたダスグプタ・レビューを受けて、すでに自然資本を反映するような経済社会システムへの転換が進みつつあります。
日本でも今後、各関係者が連携をさらに深め、ネイチャー・ポジティブ主流化の動きをさらに加速させていくことが期待されます。
▼関連リンク
ダスグプタ教授が示す「生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー」3つのポイント
ビジネス界においても、気候変動に次いで自然の危機をビジネスリスクと捉えることが、国際的には常識になっています。
Business for NatureやFinance for Biodiversityなどのビジネス・金融界の主要なイニシアティブがいくつも設立されており、ビジネス界が国家に先駆けてネイチャー・ポジティブな経営を始めつつ、国家に対して既存政策を改善するよう提言を行なっています。
さらに、自然資本を中心に据えたTNFDや自然のための科学根拠に基づく目標設定(SBT for Nature)のような、自然への依存と影響を公表していく動きも加速化しています。
各国政府により決定される国際目標や、ビジネス界の国際トレンドが確実になるまで「待つ」のではなく、ルールメイキングに積極的に参画し、GBF国際目標の策定動向を見据えておくこと。
そして、先手を打って自社戦略にネイチャー・ポジティブを取り込み、生物多様性に適切に配慮した事業実績を増やしていくことが、生物多様性のリスクをチャンスに変える企業といえるでしょう。
▼関連リンク
Business for Natureのウェブサイト
Business for NatureのCOP15に向けた国家への提言署名
WWFが提案する、5つの重要事項
とはいえ、まずは野心的な国際目標の決定が2030年までの世界の未来を決めることになるため、WWFは、各国政府が必ず実現すべき項目として、GBFに必ず組み込まれるべき次の5つを提唱しています。
- 生息地の保全
- 生産と消費
- 強力な実施体制
- 資金メカニズム
- 自然を基盤とした解決策
特に、②2)生産と消費、4)資金導入、については、企業やビジネス界にも大きく関係しています。
自然破壊を行なわない生産・消費システムへ移行することによってフットプリントを半減させる一方で、有害な補助金を改訂し、ネイチャー・ポジティブを前進させる資金導入体制が確立される必要があるのです。
生物多様性の国際目標とは、「単なる生き物の保全」のことでもなく、単に政治家が集まって話している会議、だけではありません。
COP15が終わった後には、日本が議長国となる2023年のG7が広島で開催されることが決まっており、生物多様性対策の具体的な実施に向けた、G7諸国のリーダーシップが求められます。
WWFもこれらの国際合意が達成されるよう、多様なステークホルダーを巻き込みながら、働きかけを継続していきます。