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就活のカギは「環境」? 学生は企業の取り組みをどう見ているか

この記事のポイント
今後、より深刻化が指摘されている気候変動。その被害をこれから実際、強く受けることになる若者世代の間では、この問題への関心が、高まりつつあります。そしてその関心は、就職活動にも影響し始めています。検討する企業がどれくらいサステナブルな事業に取り組んでいるか。それが、就職先を選ぶ重要な視点の一つとなっているのです。一方で、どうやって企業の情報を集め、取り組みを評価すればいいのか、悩む就活生も。WWFジャパンは今回、こうした若者世代の環境意識に関する調査を実施。その結果を発表しました。
目次

環境意識の高い就活生の本音と実態を調査

若者の危機感と環境意識

気候変動により受ける影響は、世代によってその大小が変わると言われています。

特に、気候変動がより深刻化する、これからの世界を生きる若者は、その影響を強く受ける世代です。
こうしたこともあり、近年は気候変動対策を考える上で、若者たちが、重要なステークホルダーとして認められるようになってきました。

実際、政府や企業などに対し、変容を求めて声を上げる若者も世界中で増えています。

また、国内外のさまざまな調査でも、現在の若者は、一般に環境意識が高いことが報告されています。

図:IPCC AR6では1950年に生まれた人と比べ2020年に生まれた人が、いかに気候変動による悪影響にさらされるかを可視化した図が紹介されました。出典:IPCC第6次評価報告書政策決定者向け統合報告書

図:IPCC AR6では1950年に生まれた人と比べ2020年に生まれた人が、いかに気候変動による悪影響にさらされるかを可視化した図が紹介されました。
出典:IPCC第6次評価報告書政策決定者向け統合報告書

環境負荷の高い企業は若者に選ばれない?

近年は、就職活動においても、企業のサステナビリティを考慮したいと考える若者が増えてきています。

例えば2024年6月7日付の日本経済新聞では、欧米だけでなく東南アジアでも、企業の環境問題対策を理由に転職や退職をする若者が増えていることを紹介する記事が掲載されました。

またWWFジャパンが都内の大学の就活課にヒアリングを行なったところ、エントリーシートや面接指導から、企業のサステナビリティを重視している学生が、近年非常に多くなっているとの指摘が得られました。また、こうした若者世代の傾向をふまえ、最近では採用する側の企業も、説明会等で自社のサステナビリティの取り組みを紹介することが、当然となりつつある点も指摘されました。

このような傾向が今後、企業活動や社会的な変化に、どのような影響を及ぼすのか考察するため、WWFジャパンでは、環境意識が高い学生が、就職活動の際に実際にどれくらい企業のサステナビリティを意識しているのか、その実態を調査しました。

調査の概要

今回の調査は、オンライン・アンケートの形式で実施し、現在就職活動中、もしくは就職活動を最近まで実施していた、環境意識の高い大学生・大学院生を対象に、2024年5月に実施しました。(回答数:309人)

ここでいう「環境意識の高い」学生とは、事前のスクリーニング調査で、「気候変動問題や環境問題を意識している」と回答した人を指します。

80%が企業のサステナビリティに注目!見えてきた就活生の「環境意識」

調査の結果、次の傾向が明らかになりました。

  • 環境意識の高い就活生は、多くが就職先を検討するにあたってもサステナビリティを考慮したいと考えている(81%)
  • 企業が謳うサステナビリティが表面的なものではなく、真に意味にある取り組みであるかも意識している(72%)
  • 一方で、環境意識の高い就活生であっても、多くが企業のサステナビリティを、どのように評価し、比較するべきなのかわからないと感じている(83%)

最も関心の高い社会課題は?…やはり気候変動!

最初の調査項目であった、「最も関心のある社会課題」について、最も多く挙げられたのは気候変動やエネルギー問題(58.6%)でした。

同様にジェンダーや人種差別、貧困に関する関心も高く、また海洋プラスチック問題についても比較的関心が高いことがわかりました。

一方で、生物多様性保全や、水・森林資源、循環経済といったその他の環境課題については比較的関心が低いことがわかりました。

これについては、報道やSNSなど、日常的な生活の中で接する機会が比較的多いテーマが、上位に来ている可能性があります。

また、数値が比較的低いテーマも、全て20%を上回っており、今後関心が高まってくる可能性はあると言えます。

就活生は企業のサステナビリティに注目している!

次に就職先を検討する際に、企業の社会課題解決への貢献やサステナビリティの姿勢を考慮したいかを聞いたところ、80%以上が「強くそう思う」「そう思う」と回答しました。

この回答からは、明確に「そう思う」と回答した就活生の比率が高いということだけでなく、「そうは思わない」比率の低さ(3.5%)も明らかな傾向として伺えます。

程度の差はあれ、企業のサステナビリティや、社会課題の解決に対する貢献は、就職先を選ぶ重要な視点の一つなっている、ということです。

サステナブル企業に就職希望!しかし実際は…

次に、企業が謳うサステナビリティについて信憑性があるか疑わしいと思うことがあるかを聞いたところ、7割以上の人が「そう思う」と回答しました。

さらに、多くの企業が謳っているサステナビリティの具体的な内容や、他の企業とどのような違いがあるのか、よくわからないと思うことがあるかを聞いたところ、「そう思う」と答えた人は全体の83%に上りました。

そして、企業のサステナビリティの取り組みについて、そもそもどのように調べたり、評価をしたりすればよいのかわからない、と感じている人が、全体の8割に上ることもわかりました。

こうした傾向は、就活生は企業が謳うサステナビリティの取組内容を鵜呑みにはしておらず、その意義を見極めようとしている姿勢が伺える一方で、実際の評価や判断に必要な視点や情報が、十分ではない現状を明らかにしているといえます。

また実際、就職活動をする上で、企業のサステナビリティについて気になることや知りたいことを聞いたところ、

 〇本当に真剣に取り組みを行っているのか、具体的な取り組みを知りたい
 〇どこの企業も似たような内容を発信しているので違いがわからない
 〇企業の取り組みを比較ができると理解が深まる

といった回答が寄せられました。

見極めよう!企業のサステナビリティ

今回の調査から見えてきたのは、環境意識の高い学生は、その多くがサステナブルな企業に就職をしたいと考えているということです。

さらに、その企業サステナビリティが見せかけの表面的なもの、いわゆる「グリーンウォッシュ」ではなく、真に意味のある取り組みであるかという点をも意識をしていることがうかがえました。

一方で、環境意識の高い学生であっても、企業が謳うサステナビリティをどのように受け止め評価すべきか、どのように比較するべきなのかわからないと感じている人が非常に多いことも明らかになりました。

サステナブルな企業に就職したいが、氾濫する企業サステナビリティの情報量を前に、どのように情報を取捨選択し、就活に活かせばよいのか。悩む学生の姿が浮き彫りになってきたと言えます。

WWFはこう見ている!企業の取り組み

実際に就活生が企業のサステナビリティの取り組みを評価する時、何を見、判断すればよいのでしょうか。

そのヒントになるのは、専門的な知見をもつNGOのような、独立した第三者の視点です。

WWFジャパンも、気候変動対策や森林保全、海洋保全など、さまざまな取り組みの中で、企業への働きかけを行なっています。

その際に注視しているのは、たとえば次のような点です。

  1. 環境活動の方針や目標を、具体的数値や期限を設けて設定しているか
  2. その目標が、国や国際条約(パリ協定など)の目標と整合しているか
  3. 目標を出すだけでなく、具体的なアクションを行なっているか。またそのレビューを、第三者を交えて行なっているか
  4. これらの情報を、きちんと開示しているか 等

たとえば、企業の開示している情報に、環境活動の事例として「地球温暖化をテーマにした親子向けのイベントを実施しました」という素敵な写真入りの報告があったとします。でも、その企業が本業のビジネスでの温室効果ガスの排出削減目標や、実際の削減の取り組みについて、言及していなかったら?

これは、イベントのような見かけのよい取り組みをアピールして、イメージで環境配慮を謳っているだけの、サステナブルとはいえない「グリーンウォッシュ」企業である可能性が考えられます。

企業のサステナビリティにおいて重要な点は、それが「実際に、環境保全に貢献するものになっているか」「それが評価できる情報が開示されているか」という点です。

こうした知見やノウハウを、学生の皆さんにもお伝えし、就活にも活かせるような発信に取り組んでいきます。

これから就活を控える学生のみなさんは是非、WWFをはじめとする、さまざまなNGOの発信情報や、そこから読み取れる視点をチェックしてみてください。

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