WWFの「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクト


業界別に見る日本の企業の温暖化防止

猛暑、豪雨、台風の強大化、温暖化と共に深刻化するとみられる異常気象...

2014年4月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した第5次評価報告書は、さらなる温暖化の進行と深刻な影響の予測を示しました。しかし日本では、京都議定書の第2約束期間には目標を掲げず、政府レベルの温暖化対策は停滞しています。

その中で、日本の企業はどのような姿勢で、温暖化防止の取り組みを目指しているのでしょうか。

WWFジャパンは2014年、各企業の取り組みレベルを同一の指標を用いて評価する「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトを開始しました。

これは、環境報告書やCSR報告書などで企業が公開している情報に基づき、その企業の温暖化対策の実効性を評価する試みです。

各業種ごとにその傾向と評価をまとめたこのプロジェクトを通じ、WWFジャパンでは、先を見据えたビジョンを持ち、着実に温暖化対策を進めている企業が、より高いリーダーシップを発揮できるように、その取り組みを後押しすることを目指しています。

評価指標と環境報告書

このプロジェクトでは、企業による温暖化対策が、実効性を持っているかどうかを重視しています。
これを評価するため、次の2つの視点を持つ指標を用いています。

  • 温暖化対策の目標および実績に対する評価(計11指標)
  • 情報開示についての評価(計10指標)

特に実効性の面で重視されるのは、下の7つの指標です。

  • 長期的なビジョン
  • 削減量の単位
  • 省エネルギー目標
  • 再生可能エネルギー目標
  • 総量削減目標の難易度
  • ライフサイクル全体での排出量把握・開示
  • 第三者による評価

『企業の温暖化対策ランキング』~実効性を重視した取り組み評価~

  • Vol.1『電気機器』編(2014年8月5日)
  • Vol.2『輸送用機器』編(2015年2月24日)
  • Vol.3『食料品』編(2016年4月12日)
  • Vol.4『小売業・卸売業』編(2017年6月23日)
  • Vol.5『金融・保険業』編(2017年10月31日)
  • Vol.6『建設業・不動産業』編(2018年2月23日)
  • Vol.7『医薬品』編(2018年6月12日)
  • Vol.8『運輸業』編(2018年10月5日)
  • Vol.9『機械・精密機器』編(2019年1月18日)
  • Vol.10『素材産業その1』編(2019年5月17日)
  • Vol.11『素材産業その2』編(2019年8月29日)

Vol.1『電気機器』編(2014年8月5日)

電気機器業かいで上位にランクされた企業は、いずれも7つの重要指標の中で、長期的なビジョンや、難易度の高い温室効果ガスの削減目標の設定、第三者の検証による信頼性の向上、企業活動全体での排出量の見える化などについて、高い点数を獲得しています。

また、全ての項目について高得点であった企業はなく、今回上位に入った企業についても、さらに取り組みを充実させられる可能性があることも示されました。

一方、今回の調査によって、2013年度以降の目標レベルを後退させている企業があることも明らかになりました。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 82.2 ソニー 33.6 48.6
2 81.4 東芝 32.8 48.6
3 80.6 リコー 32.0 48.6
4 75.7 コニカミノルタ 31.3 44.4
5 74.4 富士通 29.9 44.4

Vol.2『輸送用機器』編(2015年2月24日)

『輸送用機器』業種は、自動車業界と大きく重なることから、燃料電池自動車や電気自動車、ハイブリッドカーといった、いわゆるエコカーの普及と温暖化対策に大きくかかわる業界であり、実際の温室効果ガスの削減効果と、社会的な注目度も高い業界といえます。

実際、自動車業界による温暖化対策は、顧客である消費者の温室効果ガスの排出にも深く関わっており、各社がどれくらいそうした広い視野を持って、対策に取り組んでいるかが、強く問われるところでもあります。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 87.5 日産自動車 37.5 50.0
2 70.4 本田技研工業 27.3 43.1
3 65.0 豊田合成 28.9 36.1
4 63.9 トヨタ自動車 26.0 37.8

Vol.3『食料品』編(2016年4月12日)

他業種と同様、再生可能エネルギーの導入目標を掲げる企業は、いまだ少数にとどまる一方、再生可能エネルギーの活用に関しては多数の企業が定量的なデータを開示しており、企業にとっても温暖化対策としての再生可能エネルギーの重要性が高まりつつあることがうかがわれました。

また、この業界では同業他社の複数企業が、製品の共同配送を実施するなど、競合する側面を持ちつつも、協働と効率化を進めている点が、特徴として挙げられます。こうした環境負荷の低減にもつながる取り組みを進めている点は、「食料品」にかかわる企業の姿勢として評価すべき点といえます。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 80.0 キリンホールディングス 32.8 47.2
2 70.4 日本たばこ産業 27.3 43.1
3 63.0 味の素 26.6 36.5

Vol.4『小売業・卸売業』編(2017年6月23日)

小売業・卸売業では、長期目標(ビジョン)を掲げている企業、また、総量および原単位の両方で排出削減目標を掲げる企業も1社もありませんでした。再生可能エネルギー導入の定量的な目標を立てている企業も1社のみ。

自社の温室効果ガスの排出量データに対し、第3者機関による保証を受けている企業の割合は高かったものの、全体としては、平均点が34.1点となり、過去の3業種(電気機器48.7点、輸送用機器46.7点、食料品44.8点)を大きく下回る結果となりました。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 61.1 イオン 20.8 40.3
2 57.3 ローソン 11.5 45.8
3 54.5 日立ハイテクノロジーズ 17.7 36.8
4 53.8 キヤノンマーケティングジャパン 18.8 35.1
5 51.6 ヤマダ電機 27.6 24.0

Vol.5『金融・保険業』編(2017年10月31日)

投融資を通じて、他企業の温暖化対策に影響をおよぼす金融・保険業。
ソーラーローンや再生可能エネルギー事業に対するプロジェクトファイナンス等、本業の強みを活かした、温暖化防止に貢献する取り組みが数多く見られる一方、各社自らの温暖化防止の取り組みについては不十分なケースが多く見られました。

また、本業界全体の特徴として、環境報告書類を発行している企業が65社中30社(46%)と少ないことも大きな課題です。
あまり進んでいない、自社における再生可能エネルギーの導入についても、今後は、新たな取り組みに踏み出すことが期待されます。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 78.2 東京海上ホールディングス 35.2 43.1
2 75.1 MS&ADインシュアランスグループホールディングス 34.1 41.0
3 72.5 SOMPOホールディングス 35.7 36.8
4 60.0 野村ホールディングス 23.2 36.8

Vol.6『建設業・不動産業』編(2018年2月23日)

今回調査対象の34社のうち、2017年に環境報告書類の発行がなかった9社は評価の対象から除外し(ランク外)、残りの25社について評価を行ないました。その結果、上位を占めたのはいずれも建設業の企業で、9位までの全社がSBT(科学的知見と整合した削減目標)に何らかの形で取り組んでいました。パリ協定と整合した中長期の削減目標でもあるSBTの策定が、国内においても新たなスタンダードになりつつあります。

平均点は47.2点となり、これまで調査した業種(電気機器48.7点、輸送用機器46.7点、食料品44.8点、小売業・卸売業34.1点、金融・保険業34.9点)の中でも、レベルの高い結果となりました。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
85.5 積水ハウス 38.3 47.2
79.7 戸田建設 39.1 40.6
77.6 鹿島建設 39.1 38.5
74.3 大東建託 27.1 47.2
73.1 大成建設 38.0 35.1
70.74 清水建設 31.5 39.2
70.65 大和ハウス工業 23.4 47.2
70.4 大林組 34.6 35.8


Vol.7『医薬品』編(2018年6月12日)

調査対象となったのは「医薬品」に属する日本企業23社。第1位となったのは、第一三共(73.6点)で、アステラス製薬(71.2点)、エーザイ(69.4点)、塩野義製薬(69.0点)と続きました。本業種は特に「情報開示」の面で取り組みレベルが非常に高く、総合得点の平均点も過去最高点となりました。この理由のひとつに、業界団体である日本製薬団体連合会が、野心的な総量目標を掲げていた事があげられます。

一方で、最上位の企業でも総合得点が70点台前半と、最高得点がやや伸び悩みました。これは、重要7指標である「長期的ビジョン」と「再生可能エネルギー目標」を持つ企業が一社も見られなかった事が要因としてあげられます。今後は、世界的な潮流となっているSBT等を活用し、長期的な視点で取組を進めていく事が期待されます。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
73.6 第一三共 25.0 48.6
71.2 アステラス製薬 24.0 47.2
69.4 エーザイ 22.1 47.2
69.0 塩野義製薬 23.2 45.8

Vol.8『運輸業』編(2018年10月5日)

調査対象は「陸運業」、「海運業」、「空運業」、「倉庫・運輸関連業」の4業種を含む、「運輸業」に属する日本企業31社。第1位となったのは、川崎汽船(73.6点)で、東日本旅客鉄道(69.8点)、小田急電鉄(66.9点)と続きました。運輸業界全体としては、過去の7業種とくらべて平均的なスコアでしたが、本業種内では海運業が陸運業、空運業に比べて、相対的に取り組みレベルが高い結果となりました。

海運業の企業は、いずれも2050年に向けた長期的なビジョンを持っていました。ですが、その目標管理は原単位設定に留まっており、総合得点は伸び悩みました。また、本業界は業種柄「バリューチェーン」の意識が低く、ライフサイクルを通じた排出量の見える化や取り組みを行っている企業も非常に少ない結果となりました。今後は、国際社会が求める取り組みと整合した温暖化対策が期待されます。

報告書

順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
73.6 川崎汽船 25.0 48.6
69.8 東日本旅客鉄道 31.3 38.5
66.9 小田急電鉄 30.5 36.5

Vol.9『機械・精密機器』編(2019年1月18日)

調査対象は「機械」および「精密機器」に属する計39社。「機械」業種の第1位は、ナブテスコ(80.5点)で、日立建機(74.9点)、ダイキン工業(74.7点)、クボタ(71.9点)、ダイフク(70.6点)と続きました(以上、業種内で偏差値60以上)。また、「精密機器」業種の第1位は、ニコン(73.4点)でした(同)。両業種ともに「目標・実績」に関して課題が見られたものの、「情報開示」は優れており、特にライフサイクル全体で排出量を開示している企業の割合が50%に達しました。

本業種は組立産業という性質が強い業種柄、サプライチェーンに対する意識が強く、多くの企業が自社製品の省エネ化による排出削減に取り組んでいました。また、サプライチェーンにおけるステークホルダー企業が持つ長期目標の重要性を理解し、自らも長期ビジョン・目標を掲げるという好循環が見られました。本ランキングで高評価を得た企業は、実効性の高い取り組みを進めており、投資家からも優良なESG投資対象と見られている事も分かりました。

報告書

機械
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 80.5 ナブテスコ 34.6 45.8
2 74.9 日立建機 34.6 40.3
3 74.7 ダイキン工業 34.4 40.3
4 71.9 クボタ 26.0 45.8
5 70.6  ダイフク 28.9 41.7
精密機器
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 73.4 ニコン 23.4 50.0

Vol.10『素材産業その1』編(2019年5月17日)

調査対象となったのは「化学」、「ガラス・土石製品」、「ゴム製品」、「繊維製品」、「パルプ・紙」の5業種に属する日本企業55社。各業種内で偏差値60以上となったのは、「化学」では住友化学、富士フイルムホールディングス、積水化学工業、三井化学(以上、得点順)。「ゴム製品」では横浜ゴム。「繊維製品」では東レ。「パルプ・紙」ではレンゴーでした(「ガラス・土石製品」ではすべての企業が偏差値60未満)。全体的に「情報開示」の得点が高く、本調査開始以降初めて全ての調査対象企業が環境報告書類を発行していました。

55社の多くは、自社の化学製品の開発、製造、流通、使用、廃棄にいたるライフサイクル全体を通じて環境・安全・健康に配慮する「レスポンシブル・ケア」に取り組む企業であり、温暖化対策の取り組みに関しても積極的に情報開示を行う企業が目立ちました。対照的に「目標・実績」の面では取り組みが不十分で、特に長期ビジョンの有無や再生可能エネルギー目標に関しては点数が付かない企業も散見され、今後の大きな課題といえます。

報告書

化学
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 82.0 住友化学 36.2 45.8
2 79.3 富士フイルムHD 32.0 47.2
3 73.9 積水化学工業 25.3 48.6
4 68.2 三井化学 22.4 45.8
ゴム製品
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 74.3 横浜ゴム 31.3 43.1
繊維製品
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 64.1 東レ 24.5 39.6
パルプ・紙
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 84.5 レンゴー 35.9 48.6

Vol.11『素材産業その2』編(2019年8月29日)

調査対象となったのは、大量の温室効果ガス(GHG)を排出する「電気・ガス業」、「石油・石炭製品」、「鉄鋼」、「非鉄金属」、「金属製品」、「鉱業」の6業種に属する44社。うち、環境報告書類を発行していない2社を除いた42社についての評価を実施しました。各業種内で偏差値60以上を取得した企業は、「電気・ガス」では東京ガス、九州電力(得点順)、「石油・石炭製品」ではコスモエネルギーホールディングス,「鉄鋼」では東京製鐵、「非鉄金属」ではフジクラ、「金属製品」ではLIXILグループ、東洋製罐グループホールディングス(得点順)でした。

パリ協定により、世界は脱炭素社会へと舵を切っています。本業種は、国内でも、最大量の温室効果ガスを排出する業種のため、脱炭素化への成否を握っています。しかし、全業種を通じて、「長期的なビジョン」や「再生可能エネルギーの導入目標」を掲げる企業が少なく、また、パリ協定と整合した目標であるSBTに取り組んでいる企業は、3社にとどまりました。国際社会の流れに取り残されないように、早急に課題に取り組むことが要求されます。

電気・ガス
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 69.1 東京ガス 21.9 47.2
2 61.2 九州電力 15.4 45.8
石油・石炭製品
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 68.3 コスモエネルギーHD 21.1 47.2
鉄鋼
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 83.3 東京製鐵 37.5 45.8
非鉄金属
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 79.5 フジクラ 32.3 47.2
金属製品
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 68.7 LIXILグループ 24.2 44.4
2 67.2 東洋製罐グループHD 33.9 33.3

このプロジェクトに関するお問合せ

WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ

Tel: 03-3769-3509/Fax: 03-3769-1717/Email: climatechange@wwf.or.jp

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