© Luis Barreto / WWF-UK

【開催報告】WWFジャパン企業向け森林セミナー2024(1)「児童労働だけじゃない、カカオの問題」

この記事のポイント
WWFジャパンは、2024年4月19日、カカオの調達に関わる企業を対象としたセミナーを開催しました。森林破壊の要因であるカカオ生産。森林破壊ゼロのカカオを調達するにはどのような点に注意し、企業として取り組む必要があるのか。トレーサビリティや生産者コミュニティとの関係構築の重要性を紹介するとともに、データに基づいて森林破壊の有無を確認することの必要性について解説しました。

カカオのサステナブル調達に向けて

昨今、持続可能な原材料調達はあらゆる業種・商材において必要不可欠になりつつあります。

木材や紙といった一部のコモディティ(商品・産品)の調達リスクの認識は広がりをみせる一方で、依然として、原材料の調達方針の公開・実施がまだまだ不十分なコモディティが多いのが現状です。

世界中の人々を魅了するチョコレートの原材料であるカカオも新たな森林コモディティの一つであり、森林破壊のリスクにもかかわっています。

カカオ生産の問題は「人権」「環境」「生活所得」の3つに大別されます。

児童労働をはじめとした人権問題については、多くの企業が取り組みを進めています。

しかし、カカオ生産における環境問題については、少なくとも日本では近年までほとんど注目されてきませんでした。

企業は環境に配慮し、森林破壊のないカカオ生産やサプライチェーンを確立していく必要がありますが、その目的は単に世界の環境問題を解決するためだけではありません。

2024年4月2日付のブルームバーグ紙によれば、カカオの先物価格はこの1年で約2倍に上昇し、過去最高値に達しました。

価格高騰の理由は世界需要の大半を供給する西アフリカで起きた天候不順や病害の影響による供給不足。

気候変動はカカオのような一次産品の生産を直撃し、森林破壊によって劣化した生態系は影響を受けやすくなるという悪循環が指摘されています。

環境に配慮したサステナブル調達の確立は、企業にとってはカカオの安定調達のためにも、重要な意味を持つのです。

劣化したカカオのモノカルチャー農園。モノカルチャーとは、単一の作物ばかりを栽培する手法で、植生などの多様性が乏しい景観を生み出す一因となっている。
©️ Glen Asomaning NDF Ghana

劣化したカカオのモノカルチャー農園。モノカルチャーとは、単一の作物ばかりを栽培する手法で、植生などの多様性が乏しい景観を生み出す一因となっている。

「児童労働だけじゃない、カカオの問題」セミナーを開催

カカオの調達において、WWFジャパンは以下の4つの点に留意することが重要だと考えています。

  • 自社のサプライチェーンに森林破壊、土地転換、人権侵害がないことを調達方針として公表し、運用する
  • 上記を担保するトレーサビリティの確立
  • 直接的および間接的なサプライヤーに対し、コミットメントを周知しサポートする
  • 透明性をもって方針の進捗状況を開示する

また、上記以外にも、「生活所得を達成する方法に関する期限付きかつ測定可能なロードマップの作成」や「サプライチェーン全体をカバーする児童労働監視・是正システムの設計・実施」にも取り組む必要があります。

こうした問題への認知を広げ、日本でのサステナブルなカカオの調達を促進するため、WWFジャパンは2024年4月19日、「児童労働だけじゃない、カカオの問題」と題した企業向けウェビナーを開催。

ウェビナーでは、まずWWFジャパンが実施する現地プロジェクトを紹介。さらに、リモートセンシング技術を用いた森林破壊データを初公開し、カカオと森林破壊の関係について解説しました。

【ウェビナー概要】

タイトル:WWFジャパン 企業向け森林セミナー2024(1)「児童労働だけじゃない、カカオの問題」
日時:2024年4月19日
主催:WWFジャパン

ご質問、ご関心をお持ちの企業関係者の方は、下記までお気軽にお問い合わせください。

WWFジャパン 森林グループ
forest@wwf.or.jp

©️WWF Japan

【オンラインセミナー】WWFジャパン 企業向け森林セミナー2024(1)「児童労働だけじゃない、カカオの問題」

プログラム

第1部
基調講演 「カカオの調達リスクと世界動向」
WWFジャパン森林グループ:溝口拓朗(講演資料①)

第2部
講演 報告「ガーナにおける森林減少」
Nature and Development Foundation(NDF)副所長:Glen Asomaning(講演資料②)

第3部
講演 報告「WWFガーナにおけるプロジェクト紹介」
WWFジャパン森林グループ長:相馬真紀子(講演資料③)

第4部
講演 事例紹介「ガーナカカオのサプライチェーン」
株式会社立花商店 ガーナ・カントリーマネジャー:石本満生氏(講演資料④)

第5部
座談会「サステナブル・カカオとは?」(立花商店 石本氏+WWF 相馬グループ長)(講演資料⑤)

サステナブル調達の一歩としてのカカオ調達方針

2024年12月30日に適用されるEUDRをはじめとした法規制や、ネイチャーSBTs(SBTN)といった枠組みにおいて、「森林破壊ゼロ」にコミットすることが最低限の要求になっています。
さらに、前述のように西アフリカでは気候変動の影響や病害によるカカオの不作で取引価格が高騰。企業にとってカカオの安定調達や法規制に耐えうるサプライチェーンの確立は喫緊の課題といえます。(参照:講演資料①)

日本に輸入されるカカオの7割以上はガーナから輸入され、その多くは船で輸送される。
©️Shutterstock / GreenOak / WWF

日本に輸入されるカカオの7割以上はガーナから輸入され、その多くは船で輸送される。

カカオで森林破壊?ガーナにおけるカカオ生産の歴史

カカオは本来、日陰を好むため、かつては森林の中で栽培されてきました。しかし、日向でも育つと言われたカカオ(full-sun カカオ)が出回ってからは、モノカルチャーで栽培されるようになりました。
full-sun カカオは、短期的には生産性は向上するものの、土壌の劣化を引き起こし、中長期的には収量の減少につながります。結果的にさらなる森林を伐り拓いてカカオ農園に転換する行為を助長してしまうのです。
アグロフォレストリーをとおして、カカオ農園に様々な樹種を植えることには多様なメリットがあります。例えば、カカオの結実に必要な花粉の媒介昆虫の生息場所を提供したり、カカオ以外の植物が生育することで病虫害をコントロールするなど、自然の循環を促す効果が期待できます。(参照:講演資料②)

モノカルチャー農園と違い、多様な植物が生育するカカオのアグロフォレストリー。
©️WWF / Jaap van der Waarde

モノカルチャー農園と違い、多様な植物が生育するカカオのアグロフォレストリー。

キーとなるトレーサビリティ

企業にとって、森林破壊、児童労働、貧困がないことを客観的な方法で確認することは、リスク管理の点において重要です。そこでキーとなるのはトレーサビリティです。
サプライチェーンをどこまで辿れば森林破壊や児童労働がないことが確認できるのかは、コモディティや地域、商流によって異なります。カカオについては、サプライチェーンの最上流に近いところまでさかのぼって情報収集し、確認することが必要になると考えられます。ですので、カカオのトレーサビリティを確保するためには、生産者コミュニティとの密な関係を構築し、生産情報を入手することが重要です。
現時点で農家まで調達経路を辿ることは十分可能です。今後、農園までのトレーサビリティ確保が必要になってくると、ますます生産者コミュニティとの関係構築が重要になってきます。(参照:講演資料④)

EUDRのデューデリジェンスレポートには農園の位置座標の記載が必要。
©️ Emmanuel Rondeau / WWF-US

EUDRのデューデリジェンスレポートには農園の位置座標の記載が必要。

ガーナにおける森林破壊とカカオ生産の関係

カカオが森林破壊の要因であることはEUDRや様々な国際プラットフォーム、NGO等によって指摘されてきましたが、ガーナにおけるカカオ生産と森林破壊の関係性についてのデータは十分にあるとはいえない状況でした。そこでWWFジャパンはガーナの大学・NGOと共同でガーナの森林破壊とカカオ生産に関するレポートを作成、公開しました。既存の森林被覆データからは読み取れないカカオ農園など森林破壊を引き起こすドライバーとしての土地利用の分析を行い、1980年から2020年の40年間におけるガーナの森林減少は、カカオ農園への転換が50%程度影響していることを科学的・視覚的に示しました。(参照:講演資料③、講演資料⑤)

関連情報

カカオ生産の中心であるガーナ南西部の森林面積の推移
©️ WWF-Japan

カカオ生産の中心であるガーナ南西部の森林面積の推移

カカオをめぐる森林の問題 解決のカギとなるサプライチェーンの確立を!

カカオは森林問題に関係するコモディティとしては、比較的最近になって注目されるようになってきました。

WWFジャパンは、今後もカカオを扱う企業に対し、カカオの調達方針の策定・改善をすすめていくことを求め、生産現場やサプライチェーンの改善を通じた、世界の森林保全に取り組んでいきます。

ガーナは、2021年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに登録されたマルミミゾウの生息地です。森林が減少すると、マルミミゾウの生息地が減少・分断され、個体数の減少につながります。
© naturepl.com / James Aldred / WWF

ガーナは、2021年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに登録されたマルミミゾウの生息地です。森林が減少すると、マルミミゾウの生息地が減少・分断され、個体数の減少につながります。

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