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佐賀市で市民参加による「環境DNA」調査を実施

この記事のポイント
2023年6月24日、WWFジャパンは佐賀県佐賀市の東与賀町で、水田地帯をフィールドとした「環境DNA」の調査イベントを実施しました。この調査は、水田の周囲をめぐる水路で水を採取し、その中に含まれる希少な淡水魚のDNAを調べることで、地域のどの場所に、その魚が生息しているかを明らかにする、というものです。今回の調査イベントには、九州大学の鬼倉徳雄先生のご指導のもと、地元の農業者の方々の他、市内で環境保全活動に取り組む「ラムサールクラブ」メンバーの小学生の皆さんが参加。実際の水の採取に取り組みつつ、田んぼの生きもの観察を楽しみました。
目次

市民参加による「環境DNA」を使った希少種の調査

日本を代表する水田地帯の一つ、佐賀県の有明海沿岸域。
ここでは、古くから大小の水路を使った利水で農業が営まれ、その環境が日本固有の希少種を含む、貴重な淡水魚類の生息域となってきました。

コンクリートを多用した水路の整備が進み、こうした水田の生物多様性が失われつつある中、WWFジャパンは共同研究を行なっている九州大学と共に、淡水魚の調査・保全プロジェクトを推進。地域の自治体や農業者の方々のご理解と参加を得た取り組みを行なっています。

そうした活動の一環として、2023年6月24日、WWFジャパンは佐賀県佐賀市の東与賀町で、市民参加による「環境DNA」の調査イベントを実施しました。

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「環境DNA」とは?

「環境DNA」とは、水や土、大気などに含まれる、さまざまな生物のDNAのことです。
たとえば、水田などの水環境であれば、魚や貝類など水生生物のフンや粘液に含まれるDNAが、水に溶け込んでいます。

環境DNA調査は、田んぼや水路の水を採取し、そこに含まれるDNAを調べることで、その生物が生存しているか、していないかを調べる、という手法で、実際に対象種を捕獲したり、視認したりしなくても、確認できるという利点があります。

また、この手法は水を採取するだけでも出来るため、市民や子どもたちが自発的、継続的に調査に参加し、地域の自然についての理解を深めるきっかけとしても期待されています。

調査への市民参加を実現

しかし、その一方で、さまざまな生物のDNAが混在している水の中から、調査対象種のDNAを見つけ出し、データベースのDNA情報と照合するのは、容易なことではありません。

そこで、WWFジャパンは九州大学との共同研究を通じ、九州北部に生息する希少な淡水魚のDNAを、環境中から検出する技術の確立を進めてきました。

そして今回、市民参加による調査が実施できる技術水準に達していることが確認できたため、第1回目となる市民参加型の環境DNA調査を実施することにいたしました。

この調査は、佐賀県の「シギの恩返し米推進協議会」、自然に配慮した食材を扱う企業のAKOMEYA TOKYO、そしてWWFジャパンが活動協定を結び、コカ・コーラ財団助成金事業の支援を受けて、実現したものです。

東よか干潟ビジターセンター「ひがさす」で展示している、佐賀の水田地帯に生息する淡水魚。世界でこの九州北部にしか生息していない、希少な魚類も含まれています。
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東よか干潟ビジターセンター「ひがさす」で展示している、佐賀の水田地帯に生息する淡水魚。世界でこの九州北部にしか生息していない、希少な魚類も含まれています。

第1回目の市民参加によるDNA調査

2023年6月24日の環境DNA調査イベントには、地元の東与賀町で自然に配慮した農法でつくった米「シギの恩返し米」の生産農家の方々、佐賀市で環境保全活動に取り組んでいる市民団体「ラムサールクラブ」メンバーの小中学生、佐賀市環境政策課や同市東与賀支所、東よか干潟ビジターセンター「ひがさす」のスタッフの方々が参加。

また、オブザーバーとして、淡水生態系の保全に関心を持つ企業より、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、コープデリ生活協同組合連合会からも社員の方々が参加し、総勢は27名にのぼりました。

当日は、国際的な渡り鳥の飛来地として知られる、有明海に面した干潟の案内施設、東よか干潟ビジターセンター「ひがさす」に集合。

まず、WWFジャパンの淡水グループのスタッフより、イベントの主旨と講師の皆さまをご紹介し、続いて、九州大学の鬼倉徳雄先生より、環境DNAとは何か、またそれを使った調査の意義や、方法、調査の際の注意事項などを、分かりやすくお話しいただきました。

その後は、3つのチームに分かれ、指定された3つの地点の水路で、それぞれ調査用の水を採取。大人、子どもをまじえた各調査チームのメンバーが、一地点ごとに3つのサンプルを採取する作業に取り組みました。

調査の様子。採水する場所は、水田の周囲をめぐる水路です。深いところでは1.2mほどもある水路で、田植えの時期の今は、水位が高い季節。淡水魚の産卵の時期でもあります。
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調査の様子。採水する場所は、水田の周囲をめぐる水路です。深いところでは1.2mほどもある水路で、田植えの時期の今は、水位が高い季節。淡水魚の産卵の時期でもあります。

水を採るだけ、といえば、簡単に聞こえますが、実際にはさまざまな点に注意しながら行なう必要があります。

たとえば、別の地点の水を触った手で、採取した水に触れてしまうと、2つの場所の環境DNAが混ざってしまうことになります。そのため、この調査では毎回手袋を着け替えたり、採水用のボトルを共洗いしたり、採水に使用した道具も、別の地点では使わないようにするなど、さまざまな配慮をしていかねばなりません。

その他、採水できる足場の確かな安全な場所を選んだり、水を入れたボトル一つずつにラベルを貼り、クーラーボックスに入れて、それを持ち運ぶなど、地道で体力のいる作業が必要になります。

現場では、鬼倉先生と九州大学の大学院生の方々のご指導と、地元の農業者の皆さまのサポートのもと、メンバーたちが引き受ける役割を交代しながら、こうした作業に取り組みました。

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水田の生きもの観察も実施

梅雨の合間の蒸し暑い空の下、1時間にわたって行なわれたサンプルの水の採取作業は、何とか無事に終了。

その後は、調査地点の一つの水路で、水田の自然に生きる生きものの観察会を実施しました。

講師を務めてくださったのは、福岡県保健環境研究所の中島淳先生と、九州大学の鹿野雄一先生、林博徳先生です。

水路に入った先生方は、巧みに網を使い、水面に重なった植物の葉の下などに隠れている魚やエビ、ヤゴなどの水生昆虫を捕獲。水槽に入れて、参加者たちに見せながら、それがどのような生態の生きものなのかを解説してくれました。

また、生きものたちにはそれぞれ、生息する上で好む環境があり、多様な生きものが生きるためには、変化に富む、水辺の多様な自然環境が必要であること。

そして、この佐賀県の有明海沿岸の水田地帯には、そうした貴重な水田の自然が、地域の農業者の方々の努力によって、今も多く残されていることについても、お話しくださいました。

観察会の様子と、そこで出会った生きものたち。淡水魚ではオイカワ、ドンコ、昆虫ではギンヤンマのヤゴなど20種もの生きものが見つかりました。そのほか、メダカによく似た特定外来生物のカダヤシも見つかりました。
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観察会の様子と、そこで出会った生きものたち。淡水魚ではオイカワ、ドンコ、昆虫ではギンヤンマのヤゴなど20種もの生きものが見つかりました。そのほか、メダカによく似た特定外来生物のカダヤシも見つかりました。

これからの水田の自然を守る活動に役立てていくために

農業者の方々や地元の小中学生の皆さまがご参加くださった、今回の市民参加型の環境DNA調査と観察会。

参加者の皆さまが集めてくれた水の環境DNAについては、今後採取したサンプルを九州大学で分析し、特にこの地域に生息する2種の淡水魚、カワバタモロコとニッポンバラタナゴの保全に役立てていく予定です。

カワバタモロコは現在、生息環境である自然度の高い水路の環境改変による喪失と、ペットとしての鑑賞用に販売することを目的とした捕獲によって、ニッポンバラタナゴも同様の理由と、近縁種タイリクバラタナゴとの交雑によって、深刻な絶滅の危機にあります。

こうした野生生物を保全し、そのための取り組みに地域の方々が主体的・継続的に参加することは、自然の価値や素晴らしさに対する気づきを広げていく上でも、大切な一歩となるものです。

WWFジャパンは今回のイベント実施で得た学びを活かしながら、これからも研究者や農業者の皆さま、地域の方々と共に、活動を続けていきます。

今回のイベントには、気象予報士でWWFジャパンの顧問を務める井田寛子さんも参加し、実際の調査を体験しました。WWFジャパンでは井田顧問と共に、この水田の生態系を守る取り組みを紹介するイベントを企画しています。詳細は後日、あらためてお知らせいたします。
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今回のイベントには、気象予報士でWWFジャパンの顧問を務める井田寛子さんも参加し、実際の調査を体験しました。WWFジャパンでは井田顧問と共に、この水田の生態系を守る取り組みを紹介するイベントを企画しています。詳細は後日、あらためてお知らせいたします。

イベント概要:佐賀県佐賀市東与賀における環境DNA市民参加モニタリング調査

開催日:2023年6月24日
場所:佐賀県佐賀市東与賀町
主催:WWFジャパン
協力:佐賀市役所(環境政策課、東与賀支所)、東よか干潟ビジターセンター「ひがさす」
参加者:約27名(地元農業者、ラムサールクラブ、企業関係者)

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