シンポジウム『さかなクンと学ぼう!大島海峡のサンゴ礁と不思議な生きもの達』開催報告
2022/12/09
- この記事のポイント
- 2022年11月19日、鹿児島県・奄美大島の最南端にある瀬戸内町で、町民の方々を対象としたシンポジウム『さかなクンと学ぼう!大島海峡のサンゴ礁と不思議な生きもの達』を開催しました。奄美せとうち観光協会・瀬戸内町海を守る会、日本自然保護協会、WWFジャパンの共催による本イベントには 200名ほどが参加し、子供から大人まで、地元の海の素晴らしさにまつわるお話に聞き入りました。
大島海峡とは
鹿児島県・奄美大島の南部に位置する瀬戸内町。その南端、奄美大島と加計呂麻島の間に挟まれた幅2kmほどの穏やかな海が、大島海峡です。海の透明度は高く、多くのサンゴが生育。多種多様な海の生物の宝庫で、ダイビングやシュノーケリングのスポットとして注目されています。
奄美大島は2021年に、徳之島、沖縄本島北部、西表島とともにユネスコの世界自然遺産に登録されました。これによって、この地域の世界的に貴重な生物多様性の価値が確認されましたが、豊かな自然を守り将来世代に継承していくには、地域の方々の理解と協力が欠かせません。
そこで、地元の海の素晴らしさと貴重さを紹介することを目的に、2022年11月19日、瀬戸内町の方々を対象としたシンポジウム『さかなクンと学ぼう!大島海峡のサンゴ礁と不思議な生きもの達』を開催しました。本イベントは、奄美せとうち観光協会・瀬戸内町海を守る会、日本自然保護協会、WWFジャパンの共催で行われ、親子連れを中心に約200名が参加。
司会進行は、WWFジャパン野生生物グループの小田倫子が務めました。
シンポジウムの冒頭には、瀬戸内町副町長 奥田耕三氏が、奄美大島が陸域・海域ともに豊かな自然に恵まれていることや、2050年のゼロカーボンシティを目指す町の環境保全の取り組みを紹介。本シンポジウムを通じて、地元の方々が、貴重な財産である海について考えていただければ嬉しい、と開会の辞を述べられました。
アマミホシゾラフグの生態と魅力
最初に登壇したのは、下関市立しものせき水族館「海響館」の学芸員で、アマミホシゾラフグの研究に携わる園山貴之氏。アマミホシゾラフグとは、2011年に奄美大島で初めて発見され、海底に美しいミステリーサークル(産卵床)を作ることで一躍有名となりました。園山氏は、その発見時の様子から、産卵床をつくり繁殖に至るまでの過程など、まだ謎が多いながらも、現在までに判明している生態について詳しく紹介しました。
アマミホシゾラフグの生息地やサークルは水深10~30mほど。海底に同様のサークルが見つかっている場所は他の海域にもあるが、いずれも水深100m以上の場所となるとのこと。園山氏は、奄美の海はダイビングで潜れる水深で、アマミホシゾラフグとサークルを観察できる世界で唯一の場所ではないか、と、その貴重さを伝えてくださいました。
奄美の海が伝える地球環境の今昔
続いて登壇したのは、東京大学大気海洋研究所教授の横山祐典氏。奄美大島のサンゴを通して、地球の環境変化を知ることができることをお話されました。
サンゴの骨格を分析することで、過去の海水温や大気中に溶けた二酸化炭素により徐々に海水のpHが下がっている(=酸性が進んでいる)ことが分かることを解説。加えて、気候変動の将来予測についても言及し、現在は将来シナリオの分岐点にいることに触れ、大島海峡やまわりの不思議にアンテナを張り、いろいろな視点から環境問題を考えることが大切だと述べられました。
世界の海の今と大島海峡
日本自然保護協会(NACS-J)保護部主任の安部真理子氏は、日本の海の豊かさを解説するとともに、サンゴとサンゴ礁の違いや、サンゴ礁が生物多様性の豊かな場所であり、人にとってもさまざまな価値をもたらしてくれていることを説明しました。
温暖化が進み、高水温の影響でサンゴが白化したとしても、そのサンゴが健全であれば乗り切れる可能性があることから、陸からの赤土や化学物質の流出を防ぐこと、特定の生きものだけを取りすぎないこと(=生物多様性の維持)が重要であることを解説。大島海峡のサンゴ礁は健康度が高く、新種の発見が相次いでいることを指摘し、地域の方々が地元の海や海の生きものに関心をもち、実際に行ってみることから始めることを勧めました。
海を守る会の取り組み
4番目に登壇したのは、瀬戸内町で生まれ育ち、今はダイビングショップを経営しながら「瀬戸内町海を守る会」の会長も務める祝隆之氏。1980年に地元の漁師ダイバーが立ち上げた同会の活動内容について説明されました。
海底のサンゴを傷つけることなく船を海上に係留できる「係留ブイ」を設置していることで、持続的なマリンアクティビティを提供していること。サンゴ礁の健全度を測るためのモニタリング調査「リーフチェック」を20年以上にわたって行っていることを紹介。ダイバーによる海底の清掃活動の様子も動画で解説。
今後は、地元の子どもたちに、奄美の海の素晴らしさと価値を知ってもらうための観察会、ビーチクリーン、ワークショップなどを行っていきたいと抱負を述べられました。
奄美の海とさかなクン
続いて、WWFジャパン親善大使のさかなクンが登壇しました。奄美大島に来るのは今回でギョ(5)回目になるというさかなクン。アマミホシゾラフグやモヨウフグほか、奄美の海でご自身が出会った魚たちとのエピソードやそれらの生態を、直筆のイラストで臨場感たっぷりに楽しく紹介してくださいました。
「伝説のフグ」とも称される巨大なモヨウフグが奄美の海に生息していること。エビやカニなどの甲殻類や二枚貝を好んで食べるため、さまざまなフグが暮らすことのできる奄美の海が豊かであることをご解説。ヒレナガカンパチ、タカサゴヒメジ、アマミホシゾラフグのイラストを即興で描き、会場を交えた「おさかなクイズ」も披露して参加者の皆さんを大いに盛り上げてくださいました。
みんなで守ろう地元の海
イベントの最後には各登壇者が一堂に会し、司会者から「あなたの夢は何ですか?」との問いかけがあり、ご自身の実現したい夢や海への想いを瀬戸内町の子どもたちに伝えていただき、イベントは終了となりました。
さかなクンからは「これからも奄美の海がいつまでもきれいで、いつまでも素晴らしい状態であることを願っています」というコメントがありました。この日、本イベントを通じて地元の海の豊かさを感じてくださった方々と共に、末永く大島海峡や奄美の自然が守られていくことを心から願っています。
最後になりましたが、本イベントの開催にご尽力いただいた関係者の皆さまに、心から御礼申し上げます。
イベント動画
(2023年1月9日までの期間限定公開)
動画の公開は終了しました
イベント概要
『さかなクンと学ぼう!大島海峡のサンゴ礁と不思議な生きもの達』
開催日 2022年11月19日
会場 瀬戸内町きゅら島交流館(鹿児島県大島郡瀬戸内町)
対象 瀬戸内町民
参加者数 約200名
共催 奄美せとうち観光協会・瀬戸内町海を守る会、日本自然保護協会、WWFジャパン
後援 瀬戸内町、瀬戸内町漁業協同組合、瀬戸内町教育委員会、環境省沖縄奄美自然環境事務所
プログラム
開催の挨拶 (瀬戸内町副町長 奥田耕三)
「大島海峡に生息するアマミホシゾラフグの生態と魅力」(市立しものせき水族館「海響館」学芸員園山貴之)
「奄美の海が伝える地球環境の今昔」(東京大学大気海洋研究所教授 横山祐典)
「世界の海の今と大島海峡」 (日本自然保護協会 安部真理子)
「海を守る会の取り組み」 (奄美せとうち観光協会理事瀬戸内町海を守る会会長 祝隆之)
さかなクンのお話 (さかなクン)
ディスカッションと質疑応答 (登壇者全員)
司会進行 WWFジャパン野生生物グループ 小田倫子