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ウェビナー:電力需給ひっ迫にどう対応するか? 供給側の対策のみならず、需要側の柔軟性(デマンドレスポンス)で備えよ 開催報告

この記事のポイント
2022年6月末、政府は東京電力管内に「電力需給ひっ迫注意報」を発令し、家庭や企業に節電を求めました。電力需給ひっ迫は、いつ、どこで、なぜ、どれほどの規模で起きたのでしょうか。データを分析すると、広く流布している言説とは異なる事実が浮かび上がります。WWFジャパンでは、データを分析して需給ひっ迫の要因を明らかにし、その解決策の主要な例として需要側の対策(デマンドレスポンス)を提案するウェビナーを開催しました。その概要と資料をご報告いたします。
目次

テーマは電力需給ひっ迫!セミナー開催の目的は?

2022年前半の3月と6月の2回、東京電力管内で電力需給がひっ迫しました。その要因としては、太陽光発電など再生可能エネルギーの増加によって採算が合わなくなった火力発電が廃止されて供給が減少したことにあると喧伝されています。
また、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機を受けて、脱炭素化を棚上げにすべきだという意見も聞かれます。果たして本当にそうでしょうか。

WWFジャパンでは、データから真の原因を探り、供給側の対策のみならず、需要側の対策(デマンドレスポンス)も有効であることをお伝えするため、システム技術研究所の槌屋治紀先生、デマンドレスポンスの経験を蓄積している東京製鐵株式会社の奈良暢明様をお迎えして、ウェビナーを開催いたしました。

各登壇者の発表要旨と資料、講演の動画をご紹介し、セミナーの概要をご報告いたします。

プログラム

司会 WWFジャパン 田中健

1)解説 電力需給ひっ迫の分析と対策について
  WWFジャパン 小西雅子

2)講演 再エネを中心とする社会シナリオからの示唆
  システム技術研究所 槌屋治紀先生

3)講演 デマンドレスポンスの実例
  東京製鐵 奈良暢明様

4)対談 電力需給ひっ迫にどう対処していくべきか
  システム技術研究所 槌屋治紀先生 
  東京製鐵 奈良暢明様
  ファシリテーター 小西雅子

5)質疑応答

各講演の概要

解説 電力需給ひっ迫の分析と対策について

WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー)小西雅子

2022年6月末の電力需給ひっ迫の要因を調べていくと、季節外れの猛暑によって電力需要が増加したのに対して、夏の高需要期を前に多くの発電所が整備点検中で供給不足であったこと、そして需給がひっ迫したのは東京エリアだけ、しかも夕方から夜の数時間にすぎなったことが浮かび上がります。

この事実は、火力発電といった大規模電源に依存し続ければ今後も同じリスクがある一方、再生可能エネルギーなどの分散型電源であれば大規模脱落が起こりにくいことを示しています。また、需給ひっ迫の場所と時間が限られていたことから、東京と他の地域を結ぶ地域間連系線が増強されれば発生しにくくなることが予想されます。

そもそも、日本では2011年以降省エネが進んでいるため、電力需要はこの10年で10%減少しており、発電電力量自体が足りないわけではありません。また国のエネルギー基本計画でも2030年にさらに10%省エネすることになっています。

さらに太陽光発電に比べて風力発電の導入が遅れていることも一因です。実はWWFがシステム技術研究所に研究委託をした2013年の段階で、太陽光と風力発電が十分に導入されると、日中は供給が需要を上回るものの、太陽光発電が減少する夕方から夜にかけては供給不足になることが示されていました。今回の需給ひっ迫は、この研究のとおりに発現しているのです。夏の日中に多く発電する太陽光発電に対して、風力発電は昼夜問わず一定量を発電する傾向にあり、冬により多く発電することが分かっています。したがって、夕方に発生しやすい需給ひっ迫は、これから風力発電の導入が拡大し、発電量が平滑化していけば緩和されることがわかります。これらは再エネが主力電源化する移行期の課題ともいえるのです。

資源エネルギー庁も報告書で示しているように、供給力不足は1年間の限られた時間にすぎません。巨費を投じて大規模な火力発電施設等を建設するよりも、その時間だけ需要側の対策であるデマンドレスポンス(DR)、つまり節電、あるいは需要のピークをシフトさせる対策の方が経済的にもはるかに効果的です。

そもそも脱炭素時代の主役である再生可能エネルギーは、天気によって発電量が変わる「変動電源」です。変動電源が主となる電力システムにおいては、重要側も変動に合わせていく事が重要となります。DRは需給がひっ迫した3月と6月にも行われましたが、変動電源が主となる将来に向けて、より経済的なインセンティブを与えてビジネスとして拡大させていくことが求められます。

WWFジャパンは、今回の需給ひっ迫を変動電源に合わせた電力システムへの移行を加速させるチャンスととらえ、即効性のある対策として、省エネの推進とともに、経済的なインセンティブのあるDRの推進が重要だと考えます。また、長期的な対策としては、大規模電源から再エネ中心の分散型電源への移行を通してレジリエンスを高め、太陽光と風力をバランスよく導入するとともに、地域間連系線のさらなる増強を計画的に図っていくことが効果的です。

資料:電力需給ひっ迫の分析と対策について

講演 再エネを中心とする社会シナリオからの示唆

システム技術研究所 所長 槌屋治紀先生

2022年3月と6月の電力需給ひっ迫については、政府の委員会がいくつかレポートを出しています。3月の需給ひっ迫は3月16日に起きた地震で発電所が停止したのに対し、22日、23日の気温が非常に低下したため電力需要が大きくなったことが原因です。一方、6月末には35℃を超える高温になり、エアコンの需要が大きくなったために需給がひっ迫しました。
この2回のひっ迫時には節電要請が行われ、家庭の低圧電灯の大幅な需要低減と、高圧産業用のデマンドレスポンス(DR)の両方で大きな効果を上げました。

今回のように東京エリアで数時間発生した需給ひっ迫に対しては、次のような対策が考えられます。まず発電所の保守点検時期の変更です。これまでは6月末に猛暑になることはなかったので通常どおり補修点検をしていたわけですが、これからは6月下旬は保守点検をしないように切り替えることです。また、3月22日のように太陽光発電の発電量が非常に低下する場合に備えて、太陽光発電の予測精度の向上、DR、風力発電の増加を図ることが必要です。

さらに、私が行った2030年のシミュレーションからは、太陽光と風力を組み合わせることが有効であることがわかります。
1年間の月別発電量が示すように、太陽光は春から夏にかけて大きくなり冬は小さくなるのに対して、風力発電は夏の発電量が小さいのに冬は発電量が増えるので、太陽光と風力を適正に組み合わせることが重要です。
また、今回のようなひっ迫を防ぐために、夕方に太陽光を増やすには、太陽光パネルを少し西に傾けて設置したり、その時間帯にまだ発電している九州の太陽光の電力を東日本に運ぶことも考えられます。

これから自然エネルギーを増やしていくにあたっては、水道事業が参考になります。水道事業では、気象条件によって渇水になり、貯水池の水位が下がると節水で対応しています。電力事業も、地震や異常気象に対して水道と同じように対応することが求められます。

また、大地震が起きると、大規模集中型の原子力や火力は停止しますが、小規模分散型の太陽光と風力は利用できます。やがて自然エネルギー100%になると、気象の変動にともなう発電量の増減には送電網と蓄電で対応します。EVの廃棄時に中古バッテリーが豊富に出ますから、この中古バッテリーの能力80%を維持したまま送電網の中に蓄電装置を入れることが可能です。ただし、無限大に導入することはできないので、水道事業の節水に当たる節電やDRも必要になります。

さらに、長期的な需給ひっ迫の対策としては、①断熱住宅などの省エネ、②電力需給予測の精度向上、③DRの報酬制度化、④送電網の充実、⑤風力を増やして太陽光との補完関係の利用、⑥電力貯蔵機能の増加を検討することが必要です。

資料:再エネを中心とする社会シナリオからの示唆

アーカイブ動画中で、槌屋先生によるシミュレータを動かしながらの解説があります。

アーカイブ動画中で、槌屋先生によるシミュレータを動かしながらの解説があります。

講演 デマンドレスポンスの実例

東京製鐵株式会社 取締役常務執行役員総務部長 奈良暢明様

国内に蓄積された建物や車などの鉄の資源量は約14億tと、日本は世界に誇る都市鉱山を有しています。当社は、こうした鉄スクラップを電気炉で溶かして付加価値の高い鉄鋼製品へとアップサイクルさせる電炉メーカーです。

電炉法と高炉法を比較すると鉄1tの生産にともなうCO2排出量を4分の1に削減できるため、日本の排出量の約13%を占める鉄鋼業の脱炭素には電炉比率の上昇が不可欠です。
そして、製造段階で大量の電力を消費する電炉製鉄のさらなる脱炭素化を図るには、再エネとの親和性を高めることが必要です。そこで当社は国内4か所の全工場に、合計約10MWの太陽光パネルを設置しました。この太陽光発電の1kWhあたりの換算価格は、電力会社から購入する価格と比較しても安く、電気料金の高騰が続く中で競争力を発揮します。

ところで、当社を含めた電炉メーカーの電力使用量は約15TWhと、日本全体の約1.5%を占めていると推定しています。一方、当社は鋼材や鉄スクラップの相場変動に対応するため、1日単位、あるいは数時間単位で操業を調整する柔軟な生産体制を構築してきました。このように大規模かつ柔軟な操業スタイルを、変動電源である再エネの拡大に活用できると考えています。

そのひとつがデマンドレスポンス(DR)です。再エネが拡大した九州電力管内では、太陽光発電の出力抑制を要請せざるを得ない状況が続いていました。2017年、当社は、九州電力様から冷暖房需要のない春と秋の昼間に、天気予報に基づく事前連絡によって、通常より安い料金で昼間に操業するご提案をいただき、2018年から「上げDR」という新しい操業スタイルを開始しました。通常、電炉メーカーは電力料金の安い平日夜間や休日に電気炉の操業を実施しているため、操業を行っていない昼間の時間帯に、余剰となった再エネの受け皿として電気炉を活用しようという発想です。昨年は年間540万kWh弱の電力需要を創出し、余剰となった太陽光発電の一部を吸収しました。昨年から、中部電力ミライズ様との間でも「上げDR」の実証を開始しました。

また、2022年3月に電力需給がひっ迫した際には、東京電力エナジーパートナーズ様から前日の昼の段階で節電の要請を受けて、操業開始時間を数時間遅らせました。当社が節電した約10万kWhは、当日の東京電力管内における節電量の約0.3%に相当します。

さらに2022年から、中部電力ミライズ様を中心に産学官が参加するDRの実証事業にも参加します。この実証事業には、小型火力発電所並みの200MWの調整力をもつ当社の2工場が参加し、電力の需給に応じて短時間で使用電力を変動させる再エネ普及に貢献する取り組みに挑戦します。

このように再エネとの親和性を最大限発揮することによって、電炉鋼材が脱炭素時代の素材として選ばれていくのではないかと考えています。

資料:デマンドレスポンスの実例

対談 電力需給ひっ迫にどう対処していくべきか

システム技術研究所 槌屋治紀先生
東京製鐵株式会社 奈良暢明様
ファシリテーター 小西雅子

この対談では、小西が2人の登壇者からそれぞれの研究や実践の詳細を聞き出し、再エネの拡大に重要な役割を果たすデマンドレスポンス(DR)の有効性を探りました。

このセッションでは、今回の電力需給ひっ迫は、2013年にWWFジャパンがシステム技術研究所に研究委託して行った再生可能エネルギーのシミュレーションのとおり、年間わずか数日、夕方から夜にかけて数時間だけ発生すると予測した事態が現実に起きたことが再確認されました。そして、この問題を解決するためには、大型発電所を新設するような供給側の対策よりも、DRのような需要側の対策が効果的であることが共有されました。

また、2022年3月や6月の電力需給ひっ迫時にもDRによって協力した東京製鐵株式会社の実践から、DRが変動する電源の受け皿になることによって再エネの拡大に貢献し、系統の安定に寄与するとともに、経済的合理性をもつことが確認されました。

さらに、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した国際的なエネルギー危機から得た最大の教訓としてエネルギーを純粋な国産である再エネに移行していくことの重要性も改めて確認しました。再エネ中心の電力システムを構築していくためにも、DRをビジネスとして普及させることが重要であり、DRの主体となる需要側の事情を反映したシステム構築と経済的インセンティブの確立の重要性が示唆されました。

開催概要

日時:2022年8月5日(金)14:00 ~ 16:00
場所:Zoom オンラインウェビナー
対象者:ご関心のある一般の方々
参加費:無料
参加者数:310名

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