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速報解説セミナー:最新の世界の温暖化対策の報告書発表!開催報告

この記事のポイント
パリ協定がめざす1.5度目標を達成するためにはどうすればいいのか、世界中で模索が続いています。2022年4月4日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)の第3作業部会(気候変動の緩和)が第6次評価報告書を発表しました。そこには、1.5度目標を達成するために求められる技術や政策、資金など、多岐にわたる新しい知見がまとめられています。WWFジャパンでは、この報告書の主執筆者3人をお招きし、速報解説セミナーを開催しました。その概要と資料を報告します。
目次

セミナーの目的

2022年4月4日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)の第3作業部会(気候変動の緩和)が第6次評価報告書を発表しました。

そこには、1.5度目標(「パリ協定」が掲げる、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1.5度以下に抑える)を達成するために求められる、技術や政策、資金など、多岐にわたる新しい知見がまとめられています。

また、この報告書は、2022年11月に開催される、国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)での国際交渉や、各国政府の国内政策の検討に際しての基礎となる、きわめて重要な知見となるものです。

WWFジャパンでは、この報告書の注目点について、日本人主執筆者の3人、国立環境研究所の増井利彦様(IPCC新報告書第4章「短中期の緩和策と発展経路」)と久保田泉様(同第14章「国際協力」)、森林総合研究所の森田香菜子様(同第15章「投資とファイナンス」)をお招きして、速報解説セミナーを開催しました。

各登壇者の発表要旨と資料、講演の動画を紹介し、セミナーの概要を報告します。

【開催概要】速報解説セミナー:最新の世界の温暖化対策の報告書発表!

日時:2022年4月18日(月)14:00 ~ 16:00
場所:Zoom オンラインウェビナー
対象者:ご関心のある一般の方々
参加費:無料
参加者数:548名

プログラム

司会 WWFジャパン 田中健

1)解説 国連交渉から見たIPCC新報告書の注目点
  WWFジャパン 小西雅子

2)解説 第6次評価報告書第3作業部会評価報告書の注目点について
  国立環境研究所 社会システム領域 領域長 増井利彦氏

3)解説 環境法から見たIPCC新報告書の注目点
  国立環境研究所 社会システム領域 地域計画研究室 主幹研究員 久保田泉氏

4)解説 環境ファイナンスから見たIPCC新報告書の注目点
  森林総合研究所 生物多様性・気候変動研究拠点 主任研究員 森田香菜子 氏

5)対談 新報告書の解説深掘り
  増井利彦氏・久保田泉氏・森田香菜子氏✕小西雅子

各講演の概要

解説 国連交渉から見たIPCC新報告書の注目点

WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー)小西雅子

IPCCの評価報告書は国連会議に連動して発表され、国際交渉に影響を与えてきました。

たとえばパリ協定が成立した背景には、IPCC第5次評価報告書が示した科学的知見がありました。

その後、パリ協定がめざす気候目標を達成するため、IPCCは「1.5度特別報告書」を発表。当時パリ協定の努力目標であった1.5度に平均気温を抑えるには、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする必要性を示しました。2021年に開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では、その知見が確認され、パリ協定の事実上の目標が1.5度に強化されました。

2021年8月に発表された第1作業部会(自然科学的根拠)の報告書では、67%の確率で1.5度に抑えるための残余炭素予算は400Gtまで減少したため、どの排出シナリオにおいても、今後20年以内に1.5度を超えると評価されました。

次いで、2022年3月に発表された第2作業部会(影響・適応・脆弱性)の報告書では、気温上昇シナリオごとに各種リスクが増大すること、特に複合的な連鎖による悪影響が拡大することが改めて示されました。しかも、適応を超える事象がすでに発生しており、不可逆的な「損失と損害」が拡大することが予測されています。

第6次評価報告書が、2022年11月に開催されるCOP27に影響を与えることはまちがいありません。

COP27は、途上国であるエジプトで行なわれます。そのため、報告書で示された適応、損失と被害、そのために必要な先進国による途上国への支援などが主要な議題になることが予想されます。

もうひとつの大きな議題は、2030年の削減目標です。1.5度目標を達成するためには、2030年までの行動が決定的に重要であり、日本を含む各国政府には2030年目標の引き上げが求められています。この議題に影響を与える第3作業部会の報告書について、これから3人の主執筆者に解説していただきます。

資料:IPCC 第6次評価報告書第3作業部会温暖化の緩和「政策決定者向け要約」解説セミナー2022

解説 第6次評価報告書第3作業部会評価報告書の注目点について

国立環境研究所 社会システム領域 領域長 増井利彦氏

IPCCの第3作業部会は、1.5度目標を実現するために、温室効果ガスをいかに削減するかを評価しています。

気温上昇は累積排出量に比例するため、COP26までに発表された各国の削減目標を積み上げても、1.5度目標を達成することができません。50%の確率で1.5度目標を達成する炭素予算は500Gtしかないのに対して、既存の化石燃料インフラからの今後の排出量だけで660Gtと残余炭素予算を上回ります。

したがって、1.5度目標を実現するためには、計画中のものだけでなく、既存の化石燃料インフラを含めて対策を取る必要があります。

排出量を削減しながら経済成長を実現することは夢物語ではありません。10年以上にわたって削減し続けている国は、少なくとも18か国に増えています。その要因のひとつが技術の進歩です。2010年以降、世界中で太陽光発電、風力発電、バッテリーなどのコストが継続的に低下し、導入が拡大しています。また、排出量の削減や回避につながる気候関連法が拡大し、世界の排出量の半分をカバーするようになりました。

1.5度経路を実現するためには、世界の温室効果ガスの排出量を遅くとも2025年までに頭打ちさせ、2030年までに2019年比で4割削減し、2050年代初頭までに世界の二酸化炭素排出量を正味ゼロにすることが必要です。

具体的にどう実現するかについて、日本ではイノベーションが強く叫ばれています。

しかし、IPCCはCO2 1tあたりの削減コストが100ドル以下の緩和策だけで、2030年までに2019年比半減が可能と評価しています。

しかも、そのうち20ドル未満の技術が半分以上を占めており、削減コストがマイナス、つまり取り組むほどに経済的な利益を生む技術も多くあります。それらの技術を列挙し、どの分野でどんな緩和策が有効であるかを具体的に示したことは新報告書の特徴のひとつです。

新報告書はまた、初めて需要側の対策を評価しました。需要側の行動変容やインフラの改善によって排出量を4~7割削減する可能性があると評価したうえ、どんな取り組みをすればどれだけの排出量を減らせるかという見積もりも示しています。

ところで、緩和策の導入は経済成長を阻害するという懸念がつねに提起されてきましたが、新報告書は経済影響についても分析しています。世界のGDPは2050年までに2倍になると予測されていますが、いちばん厳しい1.5度目標を実現したとしても、2倍になるGDPがそこから4.2%の減少となるにすぎず、経済成長が停滞することはないことが示されました。

最後に、気候変動対策の加速は、持続可能な開発に不可欠であると結論づけられています。

資料:IPCC第6次評価報告書第3作業部会の注目点について

解説 環境法から見たIPCC新報告書の注目点

国立環境研究所 社会システム領域 地域計画研究室 主幹研究員 久保田泉氏

第6次評価報告書は、気候変動に関する法政策を社会科学的観点から本格的に評価した初めての報告書です。

2013年から2014年にかけて公表された第5次評価報告書を受けて、翌2015年12月にパリ協定が成立し、同年9月にSDGsが採択されるなど、多くのドラスチックな変化が起きました。

また、京都議定書の第1約束期間は終わっていましたが、当時はまだ評価できる段階ではありませんでした。新報告書はこうした法政策を初めて評価したのです。

そこでは、1.5度目標を実現する条件のひとつとして、法律や政策、制度設計が重要な鍵になると強調されています。

そのひとつである気候ガバナンスは、複数の政策領域にわたって統合し、シナジーの実現とトレードオフ(相殺)の最小化を支援し、国と地方の政策決定レベルを結びつけるときに最も効果的になると評価されました。

また、多くの規制や経済的手段などの政策的手段は、すでに排出削減の効果が証明されており、これらの制度を拡大し、より大幅に適用すれば、大幅な排出量の削減を支援し、イノベーションを刺激しうることが示されました。さらに、国際協力は、野心的な気候変動目標を達成するために不可欠であると評価されました。

さらに、第5次評価報告書以降、緩和に対処するための政策や法律が一貫して拡充したため、排出が回避され、低排出技術やインフラへの投資が増加していると評価されました。また、カーボンプライシングをはじめとする国内法政策、公正な移行の重要性も強調されています。

資料:環境法から見たIPCC新報告書の注目点

解説 環境ファイナンスから見たIPCC新報告書の注目点

森林総合研究所生物多様性・気候変動研究拠点 主任研究員 森田香菜子氏

第3作業部会評価報告書の執筆には社会科学の研究者が多く参加し、特に13章から15章は気候ガバナンスに関連する章です。そして、気候変動の緩和策や適応策の実現可能性を高める条件の一つとして、ファイナンスが挙げられています。

パリ協定では、低炭素社会の実現に向けて、資金の流れを適合させていく必要があることが明記されています。しかし、公的資金と民間資金のどちらの資金も、パリ協定の目標に整合させていく取り組みが遅れています。

新報告書の投資とファイナンス章では、途上国への国際協力に関係する気候資金と、グリーンボンドやESG、サステナブルファイナンスなどに関係する資金や金融システムについて評価しています。

資金の流れは、緩和目標達成に必要な水準には達していません。気温上昇を2度あるいは1.5度に抑えるためには、年間投資額は現在の資金フロー水準の3〜6倍に増やしていくことが必要とされています。

しかし、現在の資金フローは、化石燃料に対する公的・民間資金の流れが、気候変動の緩和と適応に対するものよりも依然として大きいのが実情です。

こうした資金のギャップを埋め、資金フローを拡大するためには、公的資金や政策の整合性を強化するといった政府や国際社会からのシグナルが重要であることが示されました。

資料:環境ファイナンスから見たIPCC新報告書の注目点

対談 新報告書の解説深堀り

増井利彦氏・久保田泉氏・森田香菜子氏✕小西雅子

この対談では、小西が3人の登壇者に質問しながら、それぞれの解説を深堀りし、新報告書から読み取れる日本へのメッセージを探りました。

このセッションを通して、1.5度目標を実現するためには、化石燃料インフラを新設する余地はなく、既存の化石燃料インフラさえ転換が求められることから、2030年でも石炭火力発電を19%も維持する現在の削減目標を見直す必要があることが示されました。

また、太陽光や風力などのように導入するほどに利益が出る技術が存在することから、2030年までに排出量を半減させる手法は、すでに私たちの手中にあることが確認されました。

さらに、効果的な政策が科学的に証明されたことを受け、日本でも速やかにカーボンプライシング(キャップ&トレード型排出量取引制度や炭素税の強化)の導入する必要性が共有されました。

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