水田・水路の魚たちを探そう!熊本でイベントを開催
2018/11/19
貴重な水田・水路の自然が残る玉名市
日本有数の水田地帯が広がる九州地方。
ここは現在、ニッポンバラタナゴやカワバタモロコ、ミナミメダカなどをはじめ、絶滅の危機にある日本産淡水魚が数多く分布する地域でもあります。
世界中で、この地域にしか生息していない魚も少なくありません。
これらの絶滅が心配される魚類の多くが生息するのは、水田やそれをつなぐ水路、またため池など。
しかしそうした環境が近年、水路をコンクリートで固める圃場整備や開発などによって、九州各地でも失われ、魚たちも姿を消してきました。
しかし、地域によっては農業の近代化が進む中、まだ土の農業用水路や小川を残しつつ農業を進められている農業者の方々の努力により、魚が生き延びられる環境が残されています。
そうした環境をとどめつつ農業をされている貴重な場所の一つ、熊本県玉名市で、WWFジャパンは2018年11月10日、地元の子どもたちを対象とした、お魚の観察イベントを実施しました。
川の中で草を「がさがさ」すると…?
当日参加してくれたのは、15名の元気な小学生と3名の高校生たち。
また、地元の玉名市の農林水産政策課の職員の方々や、地元で米粉の製粉を手掛ける企業の関係者の方、そしてイベントの開催にご尽力をいただいた、米作りなどを手掛ける地元の農業者の皆さんも一緒にご参加いただきました。
この日、講師を務めてくださったのは、淡水魚の専門家である九州大学大学院の鬼倉徳雄先生と、大学院生の皆さんです。
子どもたちはまず、会場となった旧梅林小学校でWWFのスタッフから水田・水路の自然を守る取り組みについて説明を受けた後、鬼倉先生から水に入る際の十分な注意をいただき、学校裏を流れる安楽寺川へ。
流れは細く、浅い川でしたが、鬼倉先生が川べりの草の根元に網を入れ、足で草をガサガサすると、たちまち20センチ近い魚が網に! ハゼの仲間のドンコです。
子どもたちは、院生の皆さんにやり方にならいながら、網をふるって川を探索。30分ほどの間に、ドンコやドジョウ、タカハヤといった魚たちのほか、ゲンゴロウや2種類のアメンボ、サワガニなど、水にすむ生きものたちを次々と捕まえました。
その後、一行は近くの水田に隣接した大きな水路へ。
ここは水位が深く子どもたちは入れませんでしたが、院生と鬼倉先生が投網で魚を獲る様子を見学し、網にかかったギンブナやコイ、大きなモクズガニなどを観察しました。
知らなかった!地元玉名の自然
観察が終わると、鬼倉先生は自作の「ぬり絵」つきの資料を、参加者全員に配布。
その資料を基に、玉名の自然がどれほど豊かで、貴重な場所であるかを、お話しくださいました。
たとえば、玉名には絶滅のおそれのある魚のタナゴ類が6種も生息していること。
タナゴ類は、産卵の時期になるとオスの身体が「婚姻色」となり、きれいな姿になること。
そのタナゴたちが生息するためには、タナゴが卵を産み付ける川にすむ二枚貝が欠かせないこと。
そして、二枚貝の生育にはコンクリートではない、土の底の農業用水路や川が必要であること。
鬼倉先生は10年前に行なった調査の結果との比較を示し、そうした土の水路が九州各地で失われる中、玉名にはそうした環境がまだ残っていることも、わかりやすくご説明くださいました。
地元の川や田んぼのお話ながら、初めて聞く鬼倉先生のお話に、子どもたちはもちろん、大人の皆さんもすっかり魅了され、長年地元で農業を手掛けてこられた方の口からは「いろんな種類の魚がいることは知っていたが、これほどとは…」と驚きの声も聞かれました。
未来に引き継ごう「玉名の宝」
今、この九州の水田地帯はもちろんのこと、日本の各地で、水田や水路の生態系が危機にさらされています。
これらの自然は、米作りを通じて人の手が入ることで形成される「二次的自然」です。
つまり、これを守ってゆくためには、米作りという農業が欠かせないばかりでなく、同時に昔ながらの土でできた農業用水路や、水の管理が必要になる、ということです。
しかし近年は、農業者の高齢化などに伴い、機械化、集約化が進んで、水路も泥などがたまりにくく管理がしやすいコンクリートで作り直される例が増えてきました。
土のままの水路を維持していくのは、農家にとっても大きな負担。その中で、自然な環境を守りながら農業を継続していくことは、容易なことではありません。それでも、農業が継続できなければ、こうした水田や水路の自然を未来にのこすことはできないのです。
生物多様性保全と農業のどちらかだけを優先するのではない、共に未来を目指していく新しい取り組みが今、必要とされています。
「この魚たちは「玉名の宝」です」
鬼倉先生は最後に、子どもたちに向かい、そう呼びかけました。
その玉名の宝は、この日本という国の宝でもあります。
玉名の方々と協力した、魚たちと共存した未来を築く取り組みは、まだ始まったばかりです。