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高知県竜串湾でのサンゴ調査

この記事のポイント
2024年11月9日から10日かけて、高知県土佐清水市竜串湾で「リーフチェック」を行ないました。日本を含む100カ国以上で実施されているリーフチェックは、世界共通の方法で行なわれるサンゴの調査活動で、サンゴについてのデータ収集と保全の促進を目的としたものです。竜串湾では毎年、ダイビングインストラクターや海洋生物の研究者と、ボランティアダイバーらが協力して、このリーフチェックを実施。今回は WWFジャパンも参加し、サンゴや魚類、無脊椎動物の現状を調べると共に、夏に生じた例年にない高水温が、サンゴの被度や成長、白化に及ぼした影響を確認しました。
目次

高知県竜串湾でのサンゴ調査

WWFジャパンは、2024年11月9日~10日の2日間、高知県土佐清水市の竜串湾で、竜串観光振興会、公益財団法人黒潮生物研究所と、第18回竜串リーフチェックを共催しました。

リーフチェックは、世界共通の簡単な方法を用いた、サンゴ調査手法の一つです。

科学的なデータを取り、サンゴの健全性の長期的な変化の傾向を調べると共に、それを保全に役立てるため、アメリカに本部を置く財団が主催し、1997年以降、毎年世界各地で実施されています。

多くの調査現場では、調査方法に関する訓練を受けたボランティアダイバーが、その海域を利用するダイビング事業者や科学者と一緒に取り組むなど、専門家だけでなく、一般人の参加を交えて行なわれていることも、リーフチェックの特徴です。

通常は、水深2~6メートルと6~12メートルの2地点で、長さ約100メートルの測線上を調査範囲とします。

調査は次の3つの分野について行なわれます。

1)底質(サンゴを含む):海底の様子がどうなっているか
2)無脊椎動物:貝類やカニ、エビ、ヒトデなど
3)魚類

このそれぞれについて、生きものの種類や数、状態を調査します。

リーフチェックの測線(ライン)を準備する様子。このラインに沿って、生きものを傷つけないよう注意しながら海中を移動し、対象となる生きものや環境を目視で確認し、用紙に個体数や様子を記録します。
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リーフチェックの測線(ライン)を準備する様子。このラインに沿って、生きものを傷つけないよう注意しながら海中を移動し、対象となる生きものや環境を目視で確認し、用紙に個体数や様子を記録します。

【動画】第18回竜串リーフチェックの様子

第18回竜串リーフチェック

調査結果の概要

サンゴの白化を確認 夏の高水温が影響

今回の調査は、竜串ダイビングセンター(*2)と黒潮生物研究所から調査リード4名、ボランティア5名の計9名で実施しました。

底質(サンゴを含む)、無脊椎動物、魚類の3グループに分かれて、2本の測線に沿って海中を観察ながらデータを記録しました。

白化しているサンゴや最近死亡したサンゴの割合、サンゴの被度などを過去のリーフチェックの調査結果と比較したところ、2024年夏の高水温がサンゴに与えた影響は、例年以上に大きかったということが分かりました。

2地点ともに、調査を行なった11月初旬の時点で20%ほどのサンゴがいまだ白化した状態であることが明らかとなりました。

これは、過去18年間に白化が確認された年と比較すると、高い割合であることがわかります。

また、水深の浅い地点(3メートル)では、ライン上のサンゴ被度は2023年の39%から25%に減少しており、一方で2023年は確認されなかった「最近死んだサンゴ」の割合が約21%と例年になく高いことが分かりました。

黒潮生物研究所の平林勲研究員によると、2024年の高知の沿岸域では8月中旬から9月の下旬にかけて海水の温度が高い状況が続いたことにより、大規模なサンゴの白化が起こったと考えられます。

リーフチェック実施日の水面温度は24度と落ち着いてきており、回復が見られるサンゴも確認できましたが、引き続き状況を見守ることが大切です。

白く見える部分が白化したサンゴ。サンゴ全体の20%ほどを占めていました。
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白く見える部分が白化したサンゴ。サンゴ全体の20%ほどを占めていました。

水深3メートル地点では、サンゴが一部白化し、死んだあとの骨格の上に藻が生えているものも確認されました。(黄色で囲った部分:ポリプがあり生きているサンゴ、赤丸で囲った部分:死んで藻が生えているサンゴ)
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水深3メートル地点では、サンゴが一部白化し、死んだあとの骨格の上に藻が生えているものも確認されました。(黄色で囲った部分:ポリプがあり生きているサンゴ、赤丸で囲った部分:死んで藻が生えているサンゴ)

調査リードとボランティアダイバー

リーフチェックに欠かせないのが調査リードとボランティアダイバーの存在です。

魚(チョウチョウウオ、フエダイ、ブダイ等)、無脊椎動物(エビ、貝、ウニ、ナマコ、ヒトデ等)、サンゴ(テーブル状、枝状、葉状、塊状等)を見分けるには、種類に関する知見が必要です。

調査リードは、自身の知識や経験を用いて、ボランティアダイバーに海上や水中で記録のアドバイスを行います。

今回の調査リードは、竜串ダイビングセンターと黒潮生物研究所の研究員が務めました。

調査対象の見分け方や、海やサンゴの長期的な変化、リーフチェックを楽しむコツ、カイメン・サンゴガニ・クラゲの種類や生態についても解説がありました。

また、調査リードになれるダイバーや科学者の人数は限られているため、調査を進めるにはボランティアダイバーの参加が重要です。

リーフチェックは科学的調査ですが、一般参加者でも海の生きものについて専門的な知識を得ながら実施できます。

調査リードや他のボランティアダイバーと協力して準備や調査を進めたり、海の状態の理解やその保全に役立つデータの収集にダイバー自身が携われることは、一般的なファンダイブとは一味違った魅力があります。

調査リードは水中でもサンゴの種類や見分け方をアドバイスしてくれます。
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調査リードは水中でもサンゴの種類や見分け方をアドバイスしてくれます。

佐野代表から一言、「大事なのはリーフチェックを楽しむこと!」
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佐野代表から一言、「大事なのはリーフチェックを楽しむこと!」

今後に向けて

竜串リーフチェックは2024年で18回目ですが、WWFジャパンがここで共催したのは、今回が初めてでした。

これは、2023年1月に黒潮生物研究所と締結したサンゴ保全活動の協働に向けた協定に基づくものです。(*3)

黒潮生物研究所は、黒潮流域の生態系に関する調査研究を通じて、海洋生物と海洋環境に関する基礎研究の発展および普及啓発・保全等の活動の推進に寄与することにより、人と自然が共存する社会の実現を目指しています。

WWFジャパンは、国内のサンゴを守る新たな取り組みの一つとして、2023年に高緯度サンゴ群集域のサンゴを対象とした活動を開始。

四国を主たる活動地域とし、黒潮生物研究所と協力しながら、情報発信、関係者との連携、教育・普及啓発活動、その他必要な活動を行なっています。

竜串の海で見られるサンゴは、地形としての「サンゴ礁」を形成しておらず、高緯度サンゴ群集と呼ばれます。

近年、高知に限らず各地の高緯度サンゴ群集は、気候変動等の影響によって分布域や被度に急速な変化が確認されています。

サンゴや多様な生きものたちは、そのものが大切な存在であると同時に、人間に多くの恵みをもたらします。

海の環境が変われば、そこから得られる恵みも変化すると考えられますが、海がどう変化しているのか、その様子を知る機会や手立ては限られています。

変化にどう適応し、関わっていくべきなのかについて、検討が必要ですが、現状の知見では、海の変化の速さに追いつけていません。

そうした中、今回はサンゴに関する貴重なデータが得られたことに加え、サンゴの保全と利活用を進めるためには、実際に海に潜ることで得られる情報や、調査の担い手の存在が重要であることが再認識されました。

今後もWWFジャパンは黒潮生物研究所や協力してくださる多様な関係者と共に、海やサンゴの変化を知る機会をつくり、人と自然が共生する未来に向けた活動を進めていきます。

わが町の海でもリーフチェックをしたいという方、竜串リーフチェックに参加したいという方はWWFジャパンにご相談ください。

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