水環境および淡水生態系の保全について
2019/12/12
さまざまな問題にさらされる世界の水環境
今、「水」の重要性が国際的に注目されています。
人の暮らし、農業や工業、安全保障の観点からも重要な「水」が、これからさらにクローズアップされることは間違いありません。
また世界には、アマゾン川やドナウ川、メコン川、ナイル川など、複数の国を通って流れる大河川も少なくないため、こうした川での開発や、水資源の利用の在り方が、国際的な問題となる可能性もあります。
「石油の世紀」であった20世紀に対し、21世紀が「水の世紀」と呼ばれる所以です。
淡水をめぐる河川や湖沼、湿地といった水自然「ウェットランド」は、現在、世界の各地でその多様性を失っています。
WWFは地球環境の現状を示す「生きている地球レポート(Living Planet Report)2017」の中で、その危機的な状況を指数化して明示しました。
淡水生態系の「生きている地球指数(Living Planet Index)」
これは、淡水の自然に生きる魚類や両生爬虫類、哺乳類など880種の脊椎動物について、3,358の個体群を調査し、その個体数の変動を基に計算した指数です。
これによれば、1970年から2014年までの間に、この指数は83%低下しました。
調査対象となった野生生物の生息環境である、多様な水環境が、その豊かさを失い続けていることを示すものといえるでしょう。
この水環境の危機は、多くの野生生物を絶滅の危機に追い込む原因となっているのみならず、農業や工業など人間の営みにも欠かせない水資源自体が、深刻な危機にあることを警告しています。
淡水生態系保全の重要性
健全な水を守るためには、どうすればよいのか。
その一番重要な手段は、淡水の母体となる自然環境を保全することです。
雨として陸域に降り注ぐ水は、土壌や植物などにより「保水」され、毎日安定した量で川や湖などに供給されます。
森や湿地のない場所では、雨となって降った水は、すぐに地面に染み込むか、蒸発するか、急流となって海へと注ぎ、すぐに涸れてしまうでしょう。
また、水に含まれるさまざまな養分や有機物も、水中や、水域の周辺に生きる生物たちによってもたらされます。
つまり、SDGs(持続可能な開発目標)の目標の一つにも掲げられている、全ての人への「安全な水」の供給を実現するためには、目に見える水の流れの周辺に広がる、生きもの豊かな自然環境が欠かせないのです。
また、水はただ使われるだけでなく、循環する物質でもあります。
たとえば、世界で人間が出している廃水の80%が自然に戻されていますが、こうした排水を濾過し、再び健全な水に戻してくれるのも、水をめぐる自然に生きる生きものたちです。
植物が豊かで、両生類や魚類、水生昆虫などが豊富にみられる水環境、すなわちウェットランド。
これを保全することは、人間にとっても欠かせない水を保全する上で、これからさらに大きな意味を持つ取り組みになるということです。
自然の豊かなウェットランドは、きれいな水を持続的にもたらしてくれる。
WWFは、この考え方を基本として、流域単位の淡水生態系の保全と水資 源利用に関する提言などを、国際社会や政府、企業に対し、行なっています。
「流域」の保全について
湖や川、湿原や干潟といった湿地(ウェットランド)をはじめとする水環境を保全するためには、「流域(集水域)」という視点を持つことが必要です。限られたエリアで川や湖をばらばらに保全してみても、水の持つ「つながり」を保全しなければ、こうした環境を維持することはできないからです。これは、そこに生息する野生生物についても同様です。
水田・水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト
日本を代表するウェットランドの一つ、水田。そこは、多くの固有な野生生物の宝庫です。しかし今、その自然は深刻な危機にさらされています。環境省の「レッドリスト」は、日本産の淡水魚の実に43%が絶滅の危機にあることを指摘。その多くを、水田などに生息する魚類が占めていることを明らかにしています。
ビジネスと持続可能な「水」の利用について
農業、工業をはじめ、さまざまな産業に欠かせない水。現在、世界の各地で、水環境と水資源が、深刻な破壊と枯渇の危機にさらされています。産業の担い手である企業にとって、これはビジネスの将来を左右する大きな問題の一つといえるでしょう。WWFはビジネス界への働きかけを通じた、水環境の保全と、その持続可能な利用の実現を目指しています。