日本の淡水魚~絶滅危惧種図鑑~
2019/11/22
絶滅の危機にある魚類について
生息環境の開発や消失、乱獲、外来生物など、さまざまな影響が今、多くの野生生物を脅かしています。
IUCN(国際自然保護連合)が公開している、世界の「絶滅のおそれのある野生生物のリスト(通称:レッドリスト))」に、絶滅のおそれが高い種として掲載されている野生生物の種数は、2万9,473種。2,742種にのぼる、海水魚や淡水魚も含まれています。(2019年9月現在)
そして、日本の淡水魚も、この世界のレッドリストの中に数えられています。
日本のレッドリスト
日本の環境省や、都道府県などの各自治体でも、国内や各地域に分布する野生生物を対象とした「レッドリスト」を公開しています。
これらは、世界のレッドリストと比べ、より詳しく地域ごとに野生生物の絶滅危機を評価しており、国際的なリストとはまた別の重要性を持つ情報となっています。
2019年に発表された、環境省のレッドリストには、3,676種(亜種、植物の品種等を含む)の日本の野生生物が、絶滅が危惧される種(CR、EN、VU)としてリストアップされました。
掲載された動物種は、このうち1,410種。
さらにこの中に、淡水・汽水域に分布する魚類が169種含まれています。
魚類で評価対象となったのは、約400種とされていますから、そのうちの169種に絶滅のおそれがある、という現状は、淡水・汽水に生きる魚類の42%が危機的状況にある、ということを示しています。
このような魚類の多くが水田やその周辺水域に生息しています。
このページでは、日本の水田に生息する、希少な生きものを図鑑としてご紹介いたします。
ヤマノカミ Roughskin sculpin
学名 Trachidermus fasciatus
スズキ目カジカ科ヤマノカミ属 全長15~20cm 絶滅危惧IB類(EN)
日本では九州の佐賀県、福岡県、熊本県に面した、有明海奥部の流入河川と周辺海域にのみ生息する。
産卵期は冬で、11~12月になると有明海に下る。カキやタイラギの死殻を産卵床として利用し、雄は卵の世話をする。
稚魚は、海域で浮遊後、春に淡水域に遡上して成長する。
遡上後は河川下流~中流域や、川に注ぐ水田地帯の水路で生活する。
近年は、水路などの大規模な改修や、諫早湾干拓事業などの影響により、絶滅の危機が高まっている。
頭が大きく、後頭部と頬部に隆起線があり、頭の頂点がへこむ。頭部は全体的に角ばり、ゴツゴツし、正面からみると横長の六角形のようにみえる。
背面には4~5個の濃褐色の斑紋がある
セボシタビラ Blotched tabira bitterling
学名 Acheilognathus tabira nakamurae
コイ目コイ科タナゴ属 全長6~12cm 絶滅危惧IA類(CR)
世界では日本にしか分布していないタナゴ類タビラの一亜種。
九州の北西部にのみ分布している。
主に、平野部の河川下流域や水田地帯の水路などに生息し、砂礫~砂泥底の流水環境を好む。
季節や成長段階によって、流れの強さが異なる水路を利用するが、こうした多様な水路のネットワークの減少などにより、現在、絶滅が心配されている。
産卵期は春で、生きたカタハガイやヌマガイなどの二枚貝の鰓に産卵する。
稚魚~幼魚期、及び雌には、背鰭前方に黒色斑があり、名前(セボシ)の由来となっている。
体は扁平し、吻がやや尖る。2対の口髭は長い。雄の臀鰭の外縁と腹鰭の前縁は白色である。雌の産卵管は短い(尾鰭の末端を越えない)。
カゼトゲタナゴ Kazetoge bittering
学名 Rhodeus smithii smithii
コイ目コイ科バラタナゴ属 全長3~5cm 絶滅危惧IB類(EN)
小型のタナゴ類で、世界で日本にのみ分布する淡水魚の一種。
九州北西部と壱岐島にのみ自然分布する日本固有亜種。本州の山陽地方にも別の亜種が分布するが、いずれも絶滅の危機にある。
また、岡山県旭川水系では、人為的に移植された個体群が確認されている。
平野部の小さな河川の中流~下流、また、水田を中心とした農業水路などに生息。
流れが緩やかで、砂礫~砂泥底の環境に多い。
産卵期は春で、生きたイシガイの鰓に産卵する。
タナゴ類の中では小型である。口髭はない。体側には1本の明瞭な青い縦帯があり、その起点は背鰭、腹鰭より前にあり、先が尖る。
雌の成魚、稚魚・幼魚は、背鰭の前半部の中央に黒色斑がある。山陽集団に比べて体高が大きい。
アリアケギバチ Ariake cuttailed bullhead
学名 Tachysurus aurantiacus
ナマズ目ギギ科ギバチ属 全長15~30cm 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
九州西部と、宮崎県大淀川水系にのみ分布する、日本の固有種。
かつては東日本に分布するギバチと同種とされていたが、近年になって別種であることが確認されている。
夜行性で水中に根を張る植物や石の空隙などに潜み、長いひげをアンテナのように使って小さな水生生物を捕食する。
河川や水路などに生息するが、こうした環境の改修により、絶滅が心配されている。
産卵期は初夏で、岩などのすき間に巣をつくり産卵し、雄は卵の世話をする。
体形は細長く、ギバチよりも体高が小さい。ギギに比べて尾鰭の切れ込みが浅く、ギバチよりも背鰭が高い。
稚魚は他のギギ属と同様で黄褐色の模様が顕著で、長い背鰭の棘が目立つ。
アリアケスジシマドジョウ Ariake striped spined loach
学名 Cobitis kaibarai
コイ目ドジョウ科シマドジョウ属 全長6~9cm 絶滅危惧IB類(EN)
九州北部の有明海流入河川にのみ分布する、九州固有種。
近年の分類学的な研究により、独立種として整理された。
河川中流~下流域、細流、特に水田周辺をめぐる、農業水路など流れが緩やかな水域に生息。
岸際の植生が豊かな砂泥底を好むが、こうした環境の減少に伴い、絶滅の危機が進行している。
IUCN(国際自然保護連合)でも本種を国際的な危急種(VU)としている。
産卵期は初夏で、岸際の浅い環境で卵をばらまく。
口髭は3対。尾鰭の基底の背側は眼径と同じ大きさの黒色斑が存在するが、腹側にはないか、あっても小さい。尾鰭には3~5列の弧状横帯がある。
従来、スジシマドジョウ小型種九州型とよばれ、コガタスジシマドジョウの1地方集団と考えられていたが、遺伝学的な研究からも明瞭に異なることが確認されている。
ゼゼラ Biwa dwarf gudgeon
学名 Biwia zezera
コイ目コイ科ゼゼラ属 全長4~7cm 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
濃尾平野、琵琶湖・淀川水系、山陽地方、九州北部に不連続に自然分布する日本の固有種で、宮城県の伊豆沼や、関東地方、新潟県、福井県、静岡県などにも、人の手で放流された外来個体群が確認されている。なお、琵琶湖・淀川水系には近縁のヨドゼゼラも分布する。
河川下流域の流れの緩やかな水域、細流、水田の水路、ワンド、湖沼などの環境に生息。
砂地や砂泥の水底を好んですむ。
産卵期は春から初夏で、植物の根際などに巣をつくり産卵し、雄は卵の世話をする。
生息環境の減少にともない、各地で絶滅が心配されている。また、琵琶湖産ゼゼラが琵琶湖産アユに混在して各地に放流されたために、各地の在来ゼゼラ集団と交雑する遺伝的攪乱の問題が生じていることも報告されている。
カマツカやツチフキに似ているが、口髭がなく吻がとがらず丸い顔つきをしている。
本種は、ヨドゼゼラに比べて背鰭の後縁がへこみ、体高や尾柄高が小さい。
ニッポンバラタナゴ Japanese rosy bitterling
学名 Rhodeus ocellatus kurumeus
コイ目コイ科バラタナゴ属 全長4~5cm 絶滅危惧IA類(CR)
琵琶湖・淀川水系以西の本州、四国、九州北部に分布。日本固有亜種。
平野部の細流や、水田地帯の農業水路など、流れの緩やかな水域、ため池などの池沼に生息するが、こうした生息環境の劣化や減少にともない、分布域が急激に縮小、分断されている。
さらに、大陸産の亜種で日本の国内に放流されたタイリクバラタナゴとの交雑が進み、絶滅が心配されている。
産卵期は春で、生きたヌマガイなどの二枚貝の鰓に産卵する。
体高が大きく、雄の婚姻色は眼の上縁と尾鰭の中央部が赤い。雌の産卵管は長い。稚魚・幼魚は背鰭に黒色斑がある。外来種のタイリクバラタナゴに似ているが、本亜種は、腹鰭の前縁に白線がなく(タイリクバラタナゴは白線がある)、有孔鱗が0~5と少ない(タイリクバラタナゴは2~7)
イチモンジタナゴ Striped bittering
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学名 Acheilognathus cyanostigma
コイ目コイ科タナゴ属 全長5~10cm 絶滅危惧IA類(CR)
濃尾平野から近畿地方に分布する日本固有種。
元の分布域では絶滅寸前だが、九州では国内外来種として問題になっている。
1対の口髭を持つが、きわめて短く、痕跡的である。
体側には太い暗色の縦帯が走り、これが「一」の文字に似ることから、その名前の由来になっている。
ヤリタナゴ Slender bitterling
学名 Tanakia lanceolata
コイ目コイ科アブラボテ属 全長5~10cm 準絶滅危惧(NT)
本州から九州に広く分布。中流から下流の細流や水路などに生息し、やや流れがある場所を好む。
生息環境の悪化による危機にさらされている。
タナゴ類の中では、体高が低く細長い。1対の口髭を持つ。
肩部の暗色斑はなく、体側後半部の暗色縦帯が不明瞭である。
繁殖期の雄の体側前半部は赤みを帯び、背鰭の上端と臀鰭の外縁が鮮やかな赤紅色となる。
カワバタモロコ Golden venus bleak
学名 Hemigrammocypris rasborella
コイ目コイ科カワバタモロコ属 全長3~6cm 絶滅危惧IB類(EN)
静岡県以西の本州と四国、九州北部に分布する日本固有種。
九州では川などにはほぼ生息しておらず、流れのない土の水路でしか生きられない。
こうした場所が圃場整備でコンクリートで固められたことにより激減。絶滅が心配されている。
雄の婚姻色は、強い金色を帯びる。
体はやや細長く扁平する。口がやや上向きで口髭がない。
腹鰭の基底から肛門にかけての腹縁はキール状の隆起をなす。
体側に薄い黒線がある。繁殖期の雌は、腹部が丸みを帯びる。
ツチフキ Dwarf pike gudgeon
学名 Abbottina rivularis
コイ目コイ科ツチフキ属 全長4~10cm 絶滅危惧IB類(EN)
濃尾平野以西の本州、九州に分布。河川下流域や流れのない水路などに生息。
浅い泥底の場所に巣をつくって繁殖するため、水路の改修などでそうした環境が失われると、大打撃を受ける。
カマツカやゼゼラに似ているが、カマツカと比べると、あまり大きくならなず、吻が短く、若干丸みを帯び、背鰭が体長に比べて大きいなどの違いがある。
また、ゼゼラに比べると、吻が長い。口は下側に開き、2対の口髭がある。
背鰭と尾鰭に黒色斑が並ぶ。
オヤニラミ Japanese aucha perch
学名 Coreoperca kawamebari
スズキ目ケツギョ科オヤニラミ属 全長6~12cm 絶滅危惧IB類(EN)
京都以西の本州、九州北部に自然分布する。流れの緩やかな河川の中流域に生息。
水生植物の茎や流木等に産み付けた卵を雄が守る習性がある。
生息環境の劣化や消滅などにより絶滅が心配されている。また人による捕獲圧もこの危機に拍車をかけている可能性がある。
鰓蓋の後部に黄色く縁取られた藍色の眼状紋がある。目の虹彩は赤い。尾鰭は円形をしている。
目と眼状紋の間には、目を中心にした放射状の赤褐色の線が数本走る。
体側には6-7本の横帯がある。ムギツクが本種に托卵することがある。
ミナミメダカ Southern medaka/Japanse rice fish
学名 Oryzias latipes
ダツ目メダカ科メダカ属 全長2~4cm 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
本州以南に分布。流れが緩く、水生植物の多い川や池、水田、水路に生息する。
生息環境の減少や、外来魚のカダヤシの影響により、絶滅が心配されている。
口は上を向く。胸鰭は高い位置にあり、背鰭は後方についている。
雄は背鰭に切れ込みが深く、臀鰭は大きく拡がり四角形になる。
一方、雌は背鰭の切れ込みはなく、臀鰭は基底が長い。
本種に似るキタノメダカは、体側面が黒っぽく濃い網目状になる特徴がある。
ゲンゴロウブナ Japanese crucian carp
学名 Carassius cuvieri
コイ目コイ科フナ属 全長20~50cm 絶滅危惧IB類(EN)
琵琶湖・淀川水系の固有種だが、釣り魚として全国各地に放流された。
別名ヘラブナ。
本来の生息地では、産卵に適した浅い水辺が減少。絶滅が懸念されている。
日本産のフナ類の中では大型で、体高が高く、横から見ると菱形の体型で、眼は若干下方に位置する。
体色は銀白色である。稚魚期には尾柄部に明瞭な黒い横帯がある。
アユモドキ Japanese botia
学名 Parabotia curtus
コイ目ドジョウ科アユモドキ属 全長15~20cm 絶滅危惧IA類(CR)
琵琶湖・淀川水系と山陽地方にのみ分布する日本固有種。
水路や河川、池沼に生息するが、繁殖は浅い氾濫原湿地や水田域で行なうため、これらの環境が広く失われた結果、現在の生息地は京都と岡山の数か所のみに。
世界の「レッドリスト」でも近絶滅種(CR)に指定されている。
体は細長くやや扁平し、背面は黄褐色、腹面は淡黄色で鱗は細かい。
吻端には左右に2本ずつ、口角には左右に1本ずつ、6本の口髭がある。
眼下部には左右に1本ずつ棘状の突起があり、尾鰭は二股に分かれる。
ハス Piscivorous chub
学名 Opsariichthys uncirostris
コイ目コイ科ハス属 全長20~30cm 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
自然分布域の琵琶湖・淀川水系と三方湖では絶滅が心配されているが、稚魚が琵琶湖の稚アユに混ざり放流されたため、各地で姿を見ることができる。
魚食性で遊泳力が強く、大型になる。
オイカワに似るが、ハスは横からみると唇が「へ」の字に曲がる。
体型は細長く、左右は平たく側扁し、臀鰭が三角形に大きい。
体色は背中が青みを帯び、体側から腹部にかけては銀白色である。またオイカワに比べて大型になる。
WWFジャパンの取り組み
WWFジャパンは、水田・水路の自然と野生生物をまもるために、農業との共生プロジェクトを進めます。水田は、野生生物の宝庫であると同時に、日本の大切な農業の場となっています。私たちは、保全と生産のどちらかだけを優先するということではなく、共に未来を目指すためのプロジェクトを進めていきたいと考えています。
WWFは、現在までに世界の森林や海洋の自然をまもるため、林業や水産業の分野で、生物多様性の保全と林産物や水産物生産の共生を目指すプロジェクトを進めてきました。
このプロジェクトでも、日本の水をめぐる生物多様性の保全につながるように、より良いコメ生産と、そのようにして作られたコメを積極的に選ぶなどのより賢い消費を社会に広げるという視点とともに農業を進めている様々な方々と一緒に取り組んでいきます。
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©NatureWorks
<引用文献>
細谷和海(編),2019. 増補改訂 日本の淡水魚,山と渓谷社
中坊徹次,2013,日本産魚類検索全種の同定第三版,東海大学出版会
小村一也,2011,淡水魚塗り絵図鑑,NPO法人nature works
河川水辺の国勢調査のための生物リスト(2017)
IUCN 2019. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2019-2
<参考資料>
九州北部の淡水魚同定マニュアル
田んぼと生きもの保全「失われる命の色」
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