北太平洋漁業委員会2024閉幕 サンマの漁獲制御ルールや乗組員の人権保護規則の導入など多くの進展
2024/05/17
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- 2024年4月15日から4日間にわたり開催されていた、サンマやマサバなどの漁業資源の管理について話し合う国際会議、北太平洋漁業委員会(NPFC)年次会合が閉幕しました。年次会合では、サンマの漁獲制御ルールやマサバの漁獲可能量(TAC)の導入、乗組員の人権保護規則の導入など大きな進捗がみられました。
サンマの漁獲制御ルール(HCR)導入に成功
2024年4月15日から18日まで、大阪で北太平洋漁業委員会(NPFC)の第8回年次会合が開催されました。
9の加盟国・地域(*)が参加したこの会議では、サンマやマサバなど北太平洋の魚種を中心とした漁業資源の保全と利用について話し合いが行なわれました。
*日本、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、韓国、バヌアツ、EU、台湾
漁獲量の低下が懸念されるサンマの現状
今回2024年の年次会合では、漁獲量が過去最低レベルまで低下しているサンマについて、予定されていた漁獲制御ルールが導入されるかが注目されていました。
秋の風物詩でもあるサンマですが、日本以外にも台湾、中国、韓国、ロシア、バヌアツによって漁獲されており、かつて世界一であった日本の漁獲量は1990年代後半以降低下。現在の漁獲量は台湾、中国に続く第3位となっています。
また、日本のサンマ漁は日本の排他的経済水域(EEZ)内で行なわれているのに対し、台湾、中国、韓国などの遠洋外国船はサンマの産卵場近くの公海上で操業しており、近年、この公海上での漁獲量が急増。それにともない資源量も「枯渇状態」まで減少してしまいました。
しかし、過去数年のNPFC年次会合では、科学委員会や日本からの漁獲量削減提案に対し、中国などの遠洋漁獲国は常に反対しており、サンマの資源回復に向けた管理強化の実施に不透明な状況でした。
そこで導入を検討されていたのが漁獲制御ルールです。
持続可能な漁業のカギとなる漁獲制御ルール
漁獲制御ルールとは、資源の変動に対して自動的に管理措置を改定するための事前に合意したルールのことです。
通常の多くの漁業では、資源量低下が明らかになった後、各国で対策を議論し、漁獲圧や漁獲量の削減に合意するというプロセスをふみます。
しかし、この方法では、対応が後手に回るうえ、各国が自国の利権を主張し合い、結果的に漁獲量削減などに合意ができず、何の対策もなされないまま資源量が低下し続けていくケースが多く見られます。
一方、漁獲制御ルールを事前に合意しておけば、資源低下時、各国の主張に議論の時間を割くことなく、いち早く対策を打つことができます。
このため、漁獲制御ルールは、持続可能な漁業管理には必須とされており、すでに大西洋クロマグロや、ミナミマグロ、中西部太平洋のカツオなどに導入され、その他の魚種でも導入が検討されています。
NPFCにおいても、サンマ資源の管理のため、2024年に暫定的な漁獲制御ルールを導入すると決定。科学委員会は、複数の漁獲制御ルール案を年次会合に提出し、サンマの資源回復のため、早期の漁獲制御ルールの必要性を訴えました。
日本や米国などは、この科学委員会の提案に従い、漁獲制御ルールを2024年より導入することを提案。また、複数あるシナリオの中でも最も漁獲量を低減させることができるシナリオを推奨しました。
WWFジャパンも、NPFC年次会合開催に際し、ポジションペーパーを提出。日本などと同様、2024年にサンマの漁獲制御ルールを導入することを呼びかけました。
【関連情報】
北太平洋漁業委員会年次会合2024へのWWFの声明
反対の議論が起きるも導入に成功
それに対し、公海上で漁業を行なう中国、韓国は、直近のサンマ漁獲量が微増傾向にあることを理由に、漁獲制御ルール導入や漁獲枠削減に強く反対。
中国にいたっては、漁獲制御ルールのシナリオを決めることすらも反対し、管理強化が見送られる危機に陥りました。
しかし、度重なる非公開の交渉の結果、2024年5月より、暫定ではありますが、漁獲制御ルールを導入することが合意されました。
この漁獲制御ルール導入により、現在のようなサンマの資源量が目標よりも低い状況では、総漁獲可能量(TAC)が毎年10%自動的に減少させることができます。
それに従い、2024年のTACは2023年の10%減の22.5万トン(公海上は13.5万トン)に設定されました。
最新の2022年の世界のサンマ漁獲量はわずか10万トン。これに対し、今回合意されたTACはこの2倍以上ではあります。
それでも、多くの小型魚を漁獲する公海漁業国においては、昨年2023年のTACでも一部上限に達したことから、今回の合意によって、2024年のTACでも海外漁船による小型魚の漁獲を制限できる効果が期待されます。
また、自動的に総漁獲可能量を削減できる仕組みを導入できたことは、今後のサンマ資源回復へ進む着実な一歩となります。
マサバの総漁獲可能量(TAC)合意と、EUの太平洋のマサバ漁業参入
サンマが危機的状況にありますが、実はマサバも危険な状況です。
日本のEEZ内のマサバ資源は、最新2024年の水産庁の資源評価結果において「枯渇状態」と評価されており、国内TACも削減させています。
一方、公海もふくめた太平洋のマサバは、日本以外にも中国、ロシアに漁獲されており、2022年にはEUもNPFCに加盟。マサバの漁獲を希望していました。
そのような状況にもかかわらず、マサバについては資源評価が完了しておらず、TACの設定もされていませんでした。
そこで日本は、NPFCに対し、資源評価が完了していない状況ではあるものの、近年のマサバの不漁を考慮して、現状の漁獲量の30%減とするTACを緊急的に設定することを提案しました。
しかし、中国はこの提案に反発。ここでも度重なる非公開会議の結果、公海上のマサバにTACを設定することに成功しました。
また、新たにEUがNPFC管理海域でマサバを6千トン漁獲することになり、それもあわせて10万トンのTACが公海漁業に設定されることとなりました。
現状、唯一公海でマサバを漁獲している中国のマサバ漁獲量の2020-22年平均は10.4万トンであることから、ほぼ現状を維持するTACとはなりますが、新たにTACを導入できたことは、マサバの資源管理を行なう上で前進となります。
今後、2024年内にマサバ資源評価を完了させ、次回2025年の年次会合において、資源評価結果に基づくTACの話し合いが行なわれる予定です。
奴隷労働を防ぐための乗組員の人権保護規則の導入にも成功
現在、水産資源の乱獲を招くだけでなく、奴隷労働の温床となっている、IUU(違法、無報告、無規制)漁業は、SDGsやG7、G20など、世界の優先課題としてとりあげられています。
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IUU漁業について
NPFCなど複数国で漁業を管理する地域漁業管理機関(RFMO)でも、乗組員の最低限の労働環境を規定し、人権保護を目指す議論が始まっており、中西部太平洋のマグロ類漁業を管理するWCPFCでも、活発に議論が行なわれていますが、未導入の状況です。
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WCPFC2023閉幕 人権対策が遅れるなど課題の多い結果に
NPFCにおいては、今回2024年の年次会合においても、乗組員の人権保護に関する管理規則案が初めて提出され、無事、導入されることが決まりました。
今回のNPFCにおけるスピーディーな人権対策強化は、他のRFMOの動きを加速させるものとして期待されており、奴隷労働のない漁業実現に向けた大きな一歩となりました。
持続可能な漁業実現に向けて着実な一歩を続けることが重要
今回のNPFC年次会合の結果に対し、オブザーバーとして会合に参加したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、次のように述べました。
「今回の年次会合は、サンマの漁獲制御ルールの導入、マサバのTAC導入、乗組員の人権保護に関する規則の導入など、実りの多い年次会合となりました。
特にサンマ漁獲制御ルールについては、数年前から北門議長(東京海洋大学教授)主導のもと、事前に科学者と行政官による数多くの会議・議論を行い、他のRFMOでは見られないような短期間で漁獲制御ルールのシナリオを4つにまで絞ることができていました。
それにもかわらず、年次会合において、いくつかの国が漁獲制御ルール導入を反対したことには、正直、驚きと大きな失望を覚えました。
しかしそのような状況の中でも、しっかりと議論を行ない、予定していた漁獲制御ルールを導入できたことは、持続可能な漁業実現に向けた重要な一歩です。
サンマ漁獲制御ルール、マサバTAC、どちらも現状の漁獲量を大きく削減できるものではありませんが、このような管理強化の積み重ねが、持続可能な未来を実現することとなります。
持続可能な漁業実現にむけて、これら措置がしっかりと機能しているか、引き続きサンマ・マサバ漁業を注視し、更なる管理強化を行いながら前進していく必要があります」。
WWFは、北太平洋の持続可能な漁業の確立とIUU漁業廃絶のため、引き続き各国政府に働きかけをおこなっていきます。