WCPFC2024閉幕 太平洋クロマグロ漁獲量増枠やIUU漁業対策強化に成功するも、熱帯マグロの管理措置強化は見送りに
2024/12/23
2024年11月28日から12月3日まで、フィジーのスバにて中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の第21回年次会合が開催されました。
26の加盟国・地域が参加したこの会議では、マグロ類を中心とした漁業資源の保全と利用について話し合いが行なわれました。
今回2024年の年次会合では、7月に開催された北小委員会で合意された、太平洋クロマグロの漁獲量増枠が承認されるかが注目されていました。
太平洋クロマグロ漁獲枠増枠決定
太平洋の海洋生態系の頂点に立つ太平洋クロマグロ*(標準和名:クロマグロ 学名:Thunnus orientalis)。
*:この記事では便宜上クロマグロを太平洋クロマグロとしております
東アジア近海からメキシコ沿岸まで、大洋を回遊するこの大型魚は、「本まぐろ」とも呼ばれ、寿司や刺身として高値で取引されることから「海のダイヤ」とも言われています。そして、日本はその7割以上を消費する、世界最大の消費国です。
長年続いた過剰な漁獲により、その資源量は危機的な状況まで減少しましたが、その後の漁獲規制の効果により資源量は増加。予定よりも13年早く再建目標まで資源が回復しました。
2024年7月に行われたWCPFCにおける北太平洋の資源を管理する北小委員会では、再び乱獲に陥らないようマグロ資源の増加傾向が十分に維持できるレベルでの増枠にとどめる案に合意。この案について、再度、年次会合で議論されました。
外部リンク:WCPFC北小委員会会合2024閉幕 太平洋クロマグロ資源が安全水準まで回復 ネイチャーポジティブの好事例に
https://www.wwf.or.jp/activities/news/5718.html
年次会合では、未だ資源評価の不確実性を懸念する声は一部あったものの、北小委員会による増枠案に合意。その結果、日本の太平洋クロマグロの漁獲枠は大型魚+50%、小型魚+10%増枠されることになりました。
漁船上での奴隷労働を防ぐ 乗組員の人権保護規則の決定
中西部太平洋をはじめ、世界中の海域で違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)が多く存在し、人権侵害の温床となっています。
中西部太平洋でも、実際に漁船上で奴隷労働が行なわれた事例が報告されており、2022年にはそれを描いたドキュメンタリー映画が日本でも公開されるなど、世の中の関心が高まっています。
外部リンク:映画『ゴースト・フリート』
https://unitedpeople.jp/ghost/
また、船員のみならず、漁船を監視するオブザーバーに対しても人権侵害や殺害といった犯罪行為が発生。この問題に対処するため、WWFは10年以上前から、乗組員の人権を守るための管理措置の導入の働きかけを行なってきました。
2021年、WCPFCでこの問題の対処法について議論するワーキンググループが結成され、年次会合含め各国で議論を重ねてきました。
その結果、2024年、ようやく乗組員の人権を保護するための管理措置(ルール)が策定されました。
策定された内容は、重大な怪我や病気をした際にはしっかりと治療を行ない、報告をすること、海外乗組員を斡旋するブローカーの情報を共有することなどで、2028年1月から適用される予定です。
IUU漁業を防ぐ 電子モニタリングの基準合意
持続可能な漁業のためには、いつ、どこで、だれが、なにを、どうやって、どのくらい漁獲したかの情報をしっかりと把握し、正確な情報のもと、科学者が資源評価を行ない、その結果をもとに漁獲量などの管理措置を決めることが必要です。
しかし、近年、ルールを守らないだけでなく、奴隷労働やサメのヒレのみを採取しその他は投棄するフィニングといったIUU漁業が横行していることから、決められたそのルールがしっかりと順守されているか、監視することの重要性が高まっています。
WCPFCにおいては、漁船にはオブザーバーと呼ばれる監視員が乗船し監視を行なっています。しかし、はえ縄漁船においては、わずか5%の漁船にしかオブザーバーの乗船が義務付けられておりません。また、オブザーバー乗船率を上げようとしても、人材不足のためそれも難しく、大きな課題となっていました。
そこで、現在注目されているのが、漁船上にカメラを設置し操業を監視する電子モニタリング(EM)です。
すでにEUや英国の一部の漁業に対しては義務化の方針も決まっており、マグロ漁業においてもインド洋まぐろ類委員会(IOTC)、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)では電子モニタリングの仕様基準が策定されています。
WCPFCにおいてもEMワーキンググループを結成し、基準について議論を重ねてきました。
その結果、今回の年次会合で、WCPFCにおいてもようやくEM基準が合意され、もとめられる技術的な要件や仕様が確定しました。今後、EMの技術開発や導入が進み、IUU漁業対策が大きく進捗することが期待されます。
先送りされたメバチ、キハダ、ビンナガ(南太平洋)の管理強化
中西部太平洋は、世界最大のマグロ類の漁場であり、クロマグロ以外にも、メバチ、キハダ、ビンナガ、カツオが多く漁獲されています。
メバチは主に刺し身、キハダ、ビンナガは刺し身以外でもツナ缶材料として重宝され、近年、多くのマグロ類やカツオは、発展途上国を中心に漁獲量が増大し、それに伴い資源量は過去最低レベルまで減少してしまいました。
【関連情報】マグロという生物
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/63.html
マグロの乱獲を防ぐためには、予防的視野を持ち、資源が高水準で維持されるレベルで漁獲できるよう、中長期戦略(漁獲戦略)を作成する必要があります。すでにカツオでは漁獲戦略が策定されましたが、メバチ、キハダ、ビンナガ(南太平洋)については未策定の状況です。
これ以上の資源低下を防ぐため、2024年の年次会合の直前、22の日本の水産企業・団体は、連名で、乱獲を防ぐことができる漁獲戦略の導入を求める要望書を水産庁とWCPFC議長に対し提出。持続可能なマグロの漁業実現のため、今回の年次会合での合意を強く求めました。
関連記事:中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)におけるマグロ類への漁獲戦略導入を求める要望書
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/5823.html
2024年は、メバチ、キハダ、ビンナガ(南太平洋)の漁獲戦略の策定が予定されており、年次会合でも話し合いが行なわれました。
しかし、メバチ、キハダは同時に漁獲されることが多く、また科学委員会からは、「両種の管理目標を同時に実現することはできない」との報告があったことから、議論は難航。残念ながら合意には至らず先送りとなりました。
南太平洋のビンナガは2025年の合意を目指すこととなり、メバチ・キハダについては当初は2年間の先送りとなる予定でしたが、日本代表団の強い働きかけの結果、メバチは可能ならば2025年に合意、その結果をもとにキハダは2026年の合意を目指すことになりました。
なお、協議のほとんどは一部の対象国による非公式協議であり、会議の透明性という点でも大きな課題のある結果となりました。
奴隷労働廃絶のため、早期の管理措置の適用を
会合に出席したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、今回の結果について次のように述べています。
「漁船上での現代奴隷という、日本人としては信じられないことが起きている現状に対し、漁業を管理する機関がしっかりと人権を守るための措置を講じたことは素晴らしいことです。一方で、合意された内容の多くは、日本では乗組員の安全確保上、当たり前のこととして実施されているものがほとんどです。管理措置の適用時期が2028年とはなっていますが、人の命に関わることでもあるので、日本は可能な限り早く措置を適用すべきです。
また、IUU漁業防止の効果が期待される電子モニタリングの基準が策定されたことも、大きな進捗です。他国に比べ日本は、電子モニタリングの技術開発や導入が遅れていますが、技術立国の強みを活かし、電子モニタリング技術の確立と普及を目指してもらいたいです。
一方、メバチ、キハダ、ビンナガ(南太平洋)の漁獲戦略策定が合意されず、先送りされたことは大変残念です。年次会合で議論すべき内容が多い事情は理解できるものの、しっかりとワーキンググループでの活動を強化し、スケジュールどおり進捗させられるよう、WCPFCは体制を整えるべきです」。
WWFは引き続き、国内外のステークホルダーと連携し、課題解決に取り組んでいきます。