WCPFC2023閉幕 人権対策が遅れるなど課題の多い結果に
2024/01/30
- この記事のポイント
- 2023年12月4日から5日間にわたりクック諸島のラロトンガで中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の年次会合が開催されました。今回の総会では、メバチ、キハダの管理措置が緩和された一方、予定されていた船上の奴隷労働を防ぐための管理措置の導入は見送られるなど、課題を多く残す結果となりました。現地で会合に参加したWWFジャパンスタッフの報告をお届けします。
熱帯マグロの管理措置更新
2023年12月4日から8日まで、クック諸島のラロトンガにて中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の第20回年次会合が開催されました。
26の加盟国・地域が参加したこの会議では、マグロ類を中心とした漁業資源の保全と利用について話し合いが行なわれました。
今回2023年の年次会合では、熱帯マグロ、とくにメバチ、キハダの管理措置の更新について多く議論されました。
近年、熱帯マグロは、世界中のツナ缶需要に応えるべく、発展途上国を中心に漁獲量が増大。資源量は過去最低レベルまで減少しています。
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これら熱帯マグロは、おもに浮き漁礁(FADs)を用いたまき網漁業、はえ縄漁業、一本釣り漁業、手釣り漁業など多種多様な漁法で漁獲されていることから、それら漁業間での漁獲量・漁獲圧の調整が、管理措置を更新する際の難点となっていました。
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会議は難航し、最終日の翌朝まで続きしましたが、まき網漁業については、魚群集魚装置である浮き漁礁(FADs)注1 の使用禁止期間を3カ月間から1.5ヶ月間に半減すること、はえ縄漁業については、漁獲枠を増加を希望する国については、漁船への監視員(オブザーバー)の乗船率を5%から10%まで増加させることを条件に漁獲枠を最大10%増枠させることで合意されました。
(注1:WCPFC管理海域において、まき網漁業はFADsの使用日数を制限することによって、熱帯マグロ資源への影響をコントロールしています。FADsは漁獲効率を上げることができるいっぽう、熱帯マグロの幼魚を大量に混獲してしまうため、厳格な管理が必要とされています。)
WCPFC初となるはえ縄漁業オブザーバー乗船率の増加
持続可能な漁業のためには、いつ、どこで、だれが、なにを、どうやって漁獲したかの情報をしっかりと把握し、正確な情報のもと、科学者が資源評価を行い、その結果をもとに漁獲量などの管理措置を決めることが必要です。
また、その管理措置をしっかりと順守しているか、監視することも重要です。
そこで、ある一定数(割合)の漁船には、オブザーバーと呼ばれる監視員が乗船することになっています。
WCPFCが管理する海域では、はえ縄漁船の5%にオブザーバーの乗船が義務付けられていましたが、2023年の年次会合では、熱帯マグロの漁獲枠を増枠した国の漁船については、最大10%までオブザーバー乗船率を増加させることになりました。
熱帯マグロ漁獲枠の増枠を望む国の漁船についてのみ適用される措置ですが、長年、はえ縄漁船のオブザーバー乗船率が低かった状況を考えると、大きな進捗となりました。
電子モニタリングの基準合意は先送り
熱帯マグロ漁獲枠の増枠に必要なオブザーバー乗船率について、今回初めて、人間のオブザーバーの乗船の代わりに電子モニタリング(EM)というカメラ等の機器による操業状況のモニタリングでの代用も認められることとなりました。
いままで、はえ縄漁船でオブザーバー乗船率が向上しなかった理由としては、漁船サイズが小さいため乗員を増やすのが難しかったこと、オブザーバー人材が不足していることなどがありました。
そのような問題を解決するために期待されているのが電子モニタリングであり、世界中で使用されはじめています。
すでに、インド洋まぐろ類委員会(IOTC)や大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)といった他の海域の地域漁業管理機関では、電子モニタリングの基準が策定されています。
電子モニタリングが普及することは、違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)を防止し、持続可能な漁業につながるため、WCPFCでも早期に電子モニタリングの基準を策定することが重要です。
求められる乗組員の人権問題の早期解決
中西部太平洋をはじめ、世界中の海域で違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)が多く存在し、人権侵害の温床となっています。
中西部太平洋でも、実際に漁船上で奴隷労働が行われた事例が報告されており、映画化もされています。
外部リンク:映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』
また、漁船を監視するオブザーバーに対しても人権侵害や殺害といった犯罪行為も起きているため、乗組員の人権を守るための管理措置が必要とされています。
WCPFCでは、人権にかかわる管理措置についてワーキンググループを結成。2023年の年次会合で管理措置導入が決定する予定でした。
しかし、いまだ議論の余地があるとして、残念ながら導入されることはありませんでした。
持続可能な漁業に向けて本当に必要なことは何か、WCPFCは再確認すべき
2023年の年次会合の直前、日本の水産業界は連名で、持続可能な熱帯マグロの漁業実現のため、乱獲を防ぐことができる漁獲制御ルールの導入を求める要望書を提出。
関連記事:持続可能な熱帯マグロ漁業実現のため、WCPFCに対し17の日本企業・団体が連名で要望書を提出
また会議中には、日本の水産庁から、漁獲制御ルールの検討が不十分な現状では増枠や禁漁期間削減は時期尚早である、との声も上がりました。
しかし実際には、会議時間の多くは、漁獲規制の緩和など各国の利権に関わる議論に割かれることとなりました。
会合に出席したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、今回の結果について次のように述べています。
「IUU漁業対策に有効なオブザーバー搭乗率の増加など、一定の進捗はみられましたが、漁獲制御ルールや奴隷労働を防ぐ管理措置は導入されず、残念な結果となりました。
特に人の命に係わる問題は、早急に対処することが求められます。
米国議会では、漁船での人権侵害が疑われる中国からの水産物を禁輸すべきとの法案が提出されるなど、国際的にも大きな問題となっています。
WCPFC加盟各国は、各国の利権や目先の利益にとらわれず、持続可能な漁業にとって本当に必要なものは何か、再認識してもらいたいです。
日本は世界有数の熱帯マグロの漁獲国であり消費国です。日本政府および日本の水産業界には、WCPFC各国の意識変容のため、引き続き強いリーダーシップを期待します」。
WWFは引き続き、国内外のステークホルダーと連携し、課題解決に取り組んでいきます。