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IUU漁業への法制度強化を求める署名を水産庁長官に提出

この記事のポイント
2024年3月1日、WWFジャパンは、2022年3月より署名呼びかけを開始した、IUU(違法・無報告・無規制)漁業撲滅のための、日本の対IUU法ともいえる「水産流通適正化法」(2022年12月施行)の強化を求める、12,362筆の声を、森健水産庁長官に提出しました。法律施行前からスタートし、対象魚種見直し1年前となるまで、約2年をかけた署名活動の取組みについて、報告します。
目次

オンライン署名活動への挑戦

2022年12月、対IUU(違法・無報告・無規制)漁業法ともいえる、「水産流通適正化法」が施行されました。この法律は、水産物の履歴書ともいえる「漁獲証明書」がついていない水産物は、流通できないとする法律です。

違法漁業をはじめ、漁獲量を偽ったり、規制やルールを守らずに行なわれる IUU漁業は、世界の漁獲量の約3割を占めているとされており、日本が輸入する天然水産物の約3割がこのIUU漁業由来かもしれないと推定されています。

その撲滅には、まず、日本の市場でIUU漁業由来の水産物を流通させない仕組みを確立することが重要ですが、ルールを守らないIUU漁業由来の水産物には、漁獲証明書はつけられないため、結果、それらを排除できるというのが、この法律の仕組みです。

しかし、その対象魚種はわずか7種。IUU漁業撲滅のためには、対象魚種を全魚種に拡大することが欠かせないと WWFジャパンは考えています。

なぜなら、世界最大の水産物輸入市場(金額ベース)であるEUでは、同様の制度がすべての魚種対象ですでに施行されており、第2位の米国でもすべての魚種対象に向けて議論が進んでいるため、このままでは第3位の日本がIUU水産物の抜け穴となってしまう可能性があるためです。

対象魚種を拡大する、つまり法律を変える(強化する)ためには、NGOによる政府への働きかけや検討会への参加、企業や業界との機能的側面の推進に加え、世論のIUU漁業問題への関心や認知度・理解の拡大が不可欠と考えました。

「水産流通適正化法」は、日本にとっても新しい仕組みであることから、現場の混乱を避けるため、対象魚種は7種(国内3種、輸入4種)のという最低限での開始となりましたが、IUU漁業撲滅のため、2年ごとに対象魚種を見直し、強化していくためのロードマップが作成されました。

そのため、水産流通適正化を見直すタイミングである2024年12月に、すべての魚種を規制の対象とするよう求める世論の声を集める署名活動を、2022年3月より開始しました。

しかし、「水産流通適正化法」強化に向けた世論の声を集めるためには、この国際的に大きな問題とされているIUU漁業問題が、日本においては、新しいキーワードでもあり、認知度が非常に低いことが大きな課題でした。

そこで、今回の署名活動は、広く呼びかけが可能なオンラインでの署名プラットフォームChange.orgをWWFジャパンで初めて利用しました。そして、署名数や署名した方のコメントなどの状況をオンライン上で、その場で見える化できるというメリットも生かし、より多くの署名獲得を目指しました。

Change.orgのページ
https://www.change.org/IUUfishing

また、並行して、IUU漁業問題への関心、認知、理解を拡大するためのコンテンツやイベントを数多く実施してきました。

新しいキーワード「IUU漁業」を伝える

環境用語には、横文字や長い言葉など、一見難解なキーワードが多くあります。例えば、「SDGs」(持続可能な開発目標)。この言葉は、すでに社会に浸透し、多くの人が、それぞれの立場からこの達成のために動き出しています。つまり、この言葉は社会で、共通言語となっています。他にも、「気候変動」問題、これも長い時間がかかりましたが、今は共通言語となっており、その問題解決のための動きが大きくなっています。

ある問題のために社会が動くには、その言葉が社会の共通言語になることが不可欠です。

そのような流れからすると、「IUU漁業」という言葉は、いまだ、認知度が低く、共通言語にはなっていません。すなわち、多くの人にとって、その問題解決のために動くには、まだ遠い問題といえます。

WWFジャパンでは、このIUU漁業問題というキーワードを共通言語化するため、メディアで取り上げられるためのメディアアプローチを強化するとともに、様々な施策を実施してきました。その一つが映画の誘致です。

映画『ゴースト・フリート』の誘致

IUU漁業にひそむ奴隷労働問題を扱った、ドキュメンタリー映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』(配給:ユナイテッドピープル)の日本誘致の取組みを、2019年より開始しました。

2018年に米国で配給が始まった本映画は、タイの漁船で奴隷労働をさせられた人々の実態を知ることのできる衝撃的な映画です。

WWFジャパンでは、認知度の低いIUU漁業の実態を知ってもらうきっかけとするため、本映画が日本で公開できるよう、米国の制作会社や日本の配給会社との交渉を進めてきました。

その結果、2022年5月28日、日本での劇場公開が始まりました。映画の特別協力を通じて、上映会イベントの主催や登壇など、30回を超すイベントを実施、より多くの方に、IUU漁業の実態を知ってもらう機会の提供を行ってきました。

『ゴースト・フリート知られざるシーフード産業の闇』(配給:ユナイテッドピープル、2022年5日本公開)

『ゴースト・フリート知られざるシーフード産業の闇』(配給:ユナイテッドピープル、2022年5日本公開)

『ゴースト・フリート知られざるシーフード産業の闇』(配給:ユナイテッドピープル、2022年5日本公開)
© ユナイテッドピープル

関心別の入口づくり

また、個人がもつ関心別に、IUU漁業問題への関心を寄せていただけるよう、そのルートの入口をつくるため、様々な分野で活動されている方々の協力を得て、理解を促進するコンテンツ作りを進めてきました。

  • お笑い芸人せやろがいおじさんの「5分でわかるIUU漁業問題」動画
  • イラストレータぬまがさワタリさんの「マンガでわかるIUU漁業問題」
  • 海や水産業に携わるシェフや、ダイバー、サーファー、活動家のみなさんからの「IUU漁業の撲滅に向けてのメッセージ動画」

これらのコンテンツは、WWFジャパンのウェブサイト「はじめてのIUU漁業問題 私たちにできること」にまとめて公開・発信しています。

水産庁への提出

そのような署名呼びかけの活動を経て、12,362筆もの署名が集まりました(2024年2月28日締切りまで)。

「水産流通適正化法」の対象魚種見直しが予定されている2024年12月の約1年前のタイミングで、見直しのための動きに拍車をかけるべく、2024年3月1日、森健水産庁長官に署名を提出しました。

この署名提出と同時に、IUUフォーラムジャパン(WWFジャパン、株式会社シーフードレガシー、セイラーズフォーザシー日本支局、他)は、IUU漁業への対策強化を求める国内外12団体による共同要望書を提出しました。

提出には、東南アジアの漁業の現場で奴隷労働者として働かされる「海の奴隷」の救出等に取り組み、2017年のノーベル平和賞にもノミネートされた、映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』のキーパーソンである、パティマ・タンプチャヤクル氏も来日し、参加しました。

署名および要望書の提出を受けて、森長官は、「皆さんの期待を裏切らないように、日本政府としてもIUU漁業対策の強化についてしっかりと検討していきたい」と語りました。

署名提出に際してのプレスリリースおよび要望書はこちら

署名提出の模様は、複数のメディアで報道されました。
さらにIUUフォーラムジャパンは、2024年3月11日、外務大臣宛にも同様の要望書を提出、経済局長および漁業室長と意見交換を行ないました。

奴隷労働の温床となっているIUU漁業由来の水産物は、不当に安価である傾向があり、それらが日本市場へ流入することで、過度な価格下落を招き、国内の漁業者をも苦しめる要因になります。日本の漁業者、そしてそのサプライチェーンを含む水産業全体を守るためにも、国際連携や国内法令の強化による、さらなる対策が求められます。

今後、現在わずか7種の対象魚種の拡大を見据えて、検討委員会が設置されることが期待されます。

WWFジャパンでは、引き続き、水産庁はじめ関係各省との対話を重ね、IUU漁業対策強化のため、活動を継続していきます。署名活動の成果ともなる、水産流通適正化法の見直しに関する動向は、引き続きご報告いたします。

署名を通じて、多くの皆様より、ご賛同ならびに応援の声をWWFジャパンへ託していただきましたこと、誠にありがとうございました。

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