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日本のサステナブルファイナンスに必要な3つの視点

この記事のポイント
地球温暖化(気候変動)の深刻な影響を回避するため、2050年までに実現が求められる脱炭素社会の構築。これには多額の資金が必要であり、公的資金に加えて民間資金の活用が不可欠です。そのため、世界ではサステナブルファイナンスが拡大しており、WWFはこの分野でも積極的に活動しています。2020年12月に金融庁が設立した「サステナブルファイナンス有識者会議」において、パリ協定の原則に基づいた実施の重要性を提言しました。
目次

サステナブルファイナンスとWWF

気候変動をはじめとする環境問題のほとんどは経済活動と深く結びついています。

そして、その経済活動の動向を左右するのが金融です。

そのため、環境問題を解決する大きな手立ての一つとして、今、経済活動を持続可能な社会へと導くサステナブルファイナンス、すなわち「持続可能な社会を実現するための金融」への転換が求められています。

日本でも近年、こうした動きが強まっています。

金融庁は2020年12月、脱炭素社会を実現に向けたサステナブルファイナンスを推進するため、「サステナブルファイナンス有識者会議」を設置。

半年にわたる検討を経て、有識者会議は21年6月に最終報告書「持続可能な社会を支える金融システムの構築」をまとめました。

この有識者会議にはWWFジャパンの気候変動の専門家である小西雅子が招致され、脱炭素社会を達成するための金融のあり方について提言を行ないました。

この記事では、小西の発表した提言を基に、あらためてWWFがサステナブルファイナンスにおいて重視する視点を明らかにします。

WWFが重視する3つの視点

サステナブルファイナンスについて考える際には、本来は何がサステナブルな経済活動か、何がグリーンなのかをまず明確に定義する必要があります。

しかし、日本ではまだこの定義がないまま、グリーンに移行するためのファイナンス、すなわちトランジションファイナンスの定義づくりの方が先行しています。

理由として考えられるのは、環境対策が出遅れてしまった日本は、先行している欧州や国際イニシアティブの基準の後追いとなっていること、そして一足飛びにブラウンからグリーンに行くことは難しいので、その途上にファイナンスを呼び込むことが大きな関心事になっているためです。

まずは、サステナブルファイナンスの前提を確認する必要があります。

日本はすでに2050年までに温室効果ガス実質排出ゼロを宣言しています。これは以下に示すパリ協定の原則に基づいているということになります。

 ①パリ協定の1.5度目標(産業革命前と比較し世界の気温上昇を1.5度未満に抑える)と整合
 ②科学的根拠に基づくこと
 ③情報開示の透明性の確保


そのうえで、サステナブルファイナンスを検討するにあたって、以下の3つのポイントに留意する必要があります。

 1 トランジションファイナンスが日本特有の定義にならないこと
 2 気候変動のみならず、生物多様性や循環社会なども当初から内包すること
 3 発行体企業全体のパフォーマンスを評価する視点


これから、それぞれのポイントを述べていきます。

1 トランジションファイナンスが日本独自の定義にならないこと

サステナブルファイナンスの中でも特に、脱炭素社会に移行(トランジション)するための金融を、トランジションファイナンスといいます。

WWFは、日本ではこのトランジションファイナンスが「日本特有の定義づけ」になってしまわないかを懸念しています。

国際的に普及しているトランジションファイナンスの基準は、国際資金市場協会が出している「クライメット・トランジション・ハンドブック」です。その中では1.5度目標と整合した科学的な根拠に基づいたアプローチとしてSBTi( Science Based Targetsイニシアティブ)を推奨しています。

しかし、日本の「グリーン成長戦略」に描かれたトランジション戦略は、この国際的なメガトレンドと乖離しているのではないか、という疑問が浮かび上がります。

たとえば、グリーン成長戦略に掲げられている燃料アンモニア産業は、既存の石炭火力発電の延命にはなりますが、中長期的に普及が見込めるかは不透明です。

また、「電動車」の中にガソリン車であるハイブリッド車を含めるなど、世界の潮流とは異質の日本独自の定義になっています。

しかし、国際的な評価を得るためには、既存の産業構造の延長上にある技術に固執するのではなく、パリ協定時代にふさわしい産業転換を先取りする、中長期的な視点が求められています。

そのためには、WWFが支援しているNet Zero Asset Owner AllianceやClimate Action 100+のような、機関投資家の国際的なグループや研究機関、NGOとの対話や連携を通して、トランジションファイナンスの議論を深めていくことが期待されます。

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2 気候変動のみならず、生物多様性や循環社会なども当初から内包すること

2つめは生物多様性をはじめとする環境問題全般への配慮です。

世界の金融セクターでは、経済活動に影響を及ぼす環境問題は気候変動だけでなく、生物多様性や循環社会など、環境問題全般への配慮が必要であるとの認識が広がっています。

その結果、2017年のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に次いで、2021年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が設立されました。

WWFは、UNDPなどとともに、このTNFDの設立と運営にも力を入れています。

生物多様性の中でも日本企業のフットプリントが大きい森林減少には、海外の投資機関も高い関心を寄せています。

たとえば日本が大量に輸入しているパーム油は、インドネシアやマレーシアなどで森林減少を招くことによって、生物多様性という環境問題だけでなく現地の人々の人権問題も引き起こしています。

さらに、こうした森林破壊は、泥炭地に含まれる温室効果ガスの排出にもつながっています。

また、プラスチックは、その生産から廃棄に至る過程で大量の二酸化炭素(CO2)が排出されるほか、海洋汚染も引き起こします。

金融セクターにおいて、このような自然資本への影響も、これから重視されるようになることは確実です。

そのため、サステナブルファイナンスの検討にあたっては、気候変動に関連するこうした要素もあらかじめ内包することが必要なのです。

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3 発行体企業全体のパフォーマンスを評価する視点

サステナブルファイナンスの推進にあたっては、ESG債などを発行する発行体企業全体のパフォーマンスを、総合的に評価することが重要です。

ESG債とは、環境や社会、ガバナンスへの貢献に資する事業に使途を限定した債券のこと。

海外の機関投資家はすでに、こういった債券を発行する対象プロジェクトのみならず、発行する企業そのものが、1.5度目標に整合した戦略を持つかなどの持続可能性の評価をするようになっています。

たとえば、プロジェクトがグリーンであっても、発行体レベルで持続可能でないと評価される事業を行なっていることを理由に、投資を停止する事例が増加しているのです。

さらには対象企業のパフォーマンスだけではなく、その企業が加盟している業界団体のロビー活動の内容までも、こうした評価対象の一環とする機関投資家が増えています。

これに対して日本では、個別の企業では環境配慮を謳っていても、その企業が加盟する業界団体がNDC(パリ協定に基づいた国別の温室効果ガス削減目標)の引き上げに反対したり、カーボンプライシングに反対するロビー活動を行なう事例が少なくありません。

そのため、日本のサステナブルファイナンスの基準においても、発行体企業の、業界団体としてのロビー活動、当該プロジェクト以外の事業活動を含めた総合的なパフォーマンスを評価することが求められます。

サステナブルファイナンスとWWF

WWFは、サステナブルファイナンスの分野でも世界をリードしてきました。

たとえば、欧州委員会が設置した「サステナブルファイナンスに関するハイレベル専門家グループ」(HLEG)には、WWFフランスのCEOが20人の専門家の1人として活動しています。

WWFシンガポールでは、ASEAN諸国の金融機関・投資機関・監督省庁の銀行政策の持続可能性の比較調査を行っています。

国際的には、WWFはCDP、WRI、国連グルーバル・コンパクトとともにSBTi を設立し、運営しています。

さらに、WWFジャパンは、企業の温暖化対策を促進することを目的に、業種別に企業の目標や実績、情報開示の取り組みを評価する「企業の温暖化対策ランキング」を公表してきました。

WWFジャパンでは今後、サステナブルな金融の推進を通じて、気候変動や生物多様性の劣化をくい止める取り組みを、さらに推し進めていきます。

©Andy Isaacson / WWF-US

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