喜界島サンゴ礁文化フォーラム開催
2021/03/12
サンゴ礁と人が創りだした「サンゴ礁文化」
日本では沖縄を中心とした暖かい海にサンゴ礁が広がります。
しかし、サンゴ礁に暮らす生きものの数は、海水温の上昇や、陸域からの赤土や肥料が流れ込むことによって、昔よりも減ってしまいました。
また、サンゴ礁に取り巻かれた島々では多くの人々が、こうした魚や貝、サンゴなどの生きものを、食物から建材や日用品として伝統的に利用してきましたが、こうした文化も失われています。
とりわけ、1960年代以降は島の生活は急速に近代化とともに、サンゴ礁と暮らしの間の距離が広がり、人々のサンゴ礁への関心が薄れてしまいました。
しかし、貴重なサンゴ礁の海を保全するためには、サンゴ礁環境に対する地域の人たちの理解と関心が欠かせません。
何より、長年培われてきた「サンゴ礁文化」は、人と海を結ぶ重要なカギとなるものです。
そこでWWFジャパンは、地域が主体となったサンゴ礁の保全を促進するため、沖縄県石垣島・白保集落をはじめ、南西諸島の各地で、暮らしや文化に注目した活動を展開。
2017年からは、鹿児島県奄美群島の喜界島でも、この取り組みを開始しました。
喜界島での取り組み
喜界島は、海底からサンゴ礁が盛り上がってできた「隆起サンゴ礁」と呼ばれる島です。
この島は陸からサンゴ礁が近いこともあり、独特のサンゴ礁地形を利用した漁や生活習慣、サンゴの石を建材として使って塀や墓石などに利用する独自の「サンゴ礁文化」が育まれてきました。
しかし、その喜界島でも、時代の流れと共に暮らしは近代化し、人とサンゴ礁の関係は希薄になっていきました。
そうした中、喜界島での取り組みは、サンゴ礁生態系から受ける恩恵を再認識し、これまでに培われてきた人とサンゴ礁の関係を再構築してゆくことで、地域が主体となった持続可能な活動とサンゴ礁保全への意識向上を目指すものとして2015年から開始されたのです。
そして2017年、喜界島役場、喜界島サンゴ礁科学研究所、WWFジャパンの三者は、プロジェクト推進の協働契約を締結。
正式に、「サンゴの島の暮らし発見プロジェクト」がスタートすることになりました。
このプロジェクトでは、サンゴやサンゴ礁の生きものを利用した、昔ながらの暮らしを掘り起こす一方、子どもたちの参加も得た形で、サンゴ礁の石を使った石垣の復元に取り組むなど、さまざまな活動を展開。
プロジェクトの最終年度となる2021年には、その成果を披露する「喜界島サンゴ礁文化フォーラム」を開催しました。
喜界島サンゴ礁文化フォーラム開幕!
2021年2月21日午後1時、喜界町役場ホールでフォーラムが開幕しました。
フォーラムは新型コロナウィルス感染拡大防止のため、参加者の来場は中止としで開催。
代わりに、全ての様子をYoutubeで配信しました。
参加者が目の前にいない会場でも、ステージは華やかに進行され、司会のご当地シンガーソングライター、土岐宏大さんが開幕を宣言すると、応援に駆けつけた、喜界島のよろこ人、環境省のアヒル隊長、WWFジャパンのコパンダら、人気者のマスコットたちが、賑やかに登場しました。
プロジェクトの取組み
フォーラムはまず、喜界島の紹介とこれまでのプロジェクトの歩みを、喜界町の金江茂副町長と喜界島サンゴ礁科学研究所の渡邊剛理事長からお話しいただきました。
続いて、このプロジェクトで新たに結成された団体「阿伝集落サンゴの石垣保存会」を紹介。
喜界島の海に近い集落では、サンゴの石を積み上げたサンゴの石垣が良く見られ、特に阿伝集落は、集落内に多くのサンゴの石垣が残ります。
その特有の景観によって集落全体が奄美国立公園の一部に指定されているほどですが、近年は新たに作られることもなく、損壊・放置する例が増えていました。
そこで、この阿伝集落で生まれ育った武田秀伸さんが、集落の方々と共に伝統的な景観と石積みの技術を保存継承するため団体、「阿伝集落サンゴの石垣保存会」を設立。
武田さんから、今後島内の集落を対象としてサンゴの石垣の補修を行なうことや、島の小学生たちに石積みを体験してもらい、次の世代にも石積みを残す活動の様子を紹介していただきました。
集落のために立ち上がった「荒木集落盛り上げ隊」
また、このプロジエクトでは、海に接する島内4集落でサンゴ礁文化の調査や掘起しを実施。
その成果をまとめた冊子「サンゴの島の暮らし発見プロジェクトin喜界島」も制作しました。
その調査地域の一つ、島の南西に位置する荒木集落では、このプロジエクトを通じて集落に暮らす4人の有志が「荒木集落盛り上げ隊」を結成しました。
はじめメンバーの4名は、何となくプロジエクトで開催した集落でのワークショップに参加して、自分が暮らす集落では今まで当たり前に思っていたことが、実はとても大切であることに驚いたそうです。
集落の日々の暮らしの中には、サンゴの石から作られた石垣や家の土台やフムラー(ハマサンゴの骨格をくり抜いた芋を洗う鉢)があること。
人生の最後はサンゴのお墓で眠りにつくこと等々。
メンバーは、荒木集落の人が日常的に、そして生まれてから死ぬまでサンゴ礁の恵みを受けて生活するという、集落ならではの魅力に気が付いたのです。
そして、昔のことを知り、それを今に活かし、魅力ある荒木集落にしたいという想いから荒木盛り上げ隊を結成しました。
結成後は、荒木集落お祭りで昔の遊びを復活させたり、集落内のアンケート調査を実施したりして、自分たちができることと何をすべきかを考えてきました。
今回のフォーラムのステージでは、これまでの活動報告や、メンバーが作製した荒木集落の紹介動画、アンケート調査結果の報告、今後の活動方針が紹介されました。
石垣島白保集落との交流
サンゴの島の暮らし発見プロジェクトでは、以前よりサンゴ礁文化を守りながら地域づくりとサンゴ礁保全に取り組む石垣島の白保集落を参考にして進めてきました。
2018年と2020年に、喜界島の方々が石垣島白保集落へ視察と研修のために訪問。
今回のフォーラムにも、その時交流した白保の方々が参加する予定でしたが、コロナ禍の影響で喜界島へ訪れることが叶いませんでした。
しかし、フォーラム当日はインターネットを通じて白保と会場を結び、白保からサンゴ礁文化の紹介をしてもらうとともに、喜界島の方と白保の方々が「サンゴの島への想い ~受け継がれるサンゴ礁の自然と文化~」と題し、今後のサンゴ礁文化の活用と継承についていてパネルディスカッションを行ないました。
ディスカッションでは、「継承で大事なことは人づくり。人を育てられる人をいかに育てられるかが大事」「大勢が関わることで当たり前の見方が変わり価値を生み出す」など、文化の継承や活動の継続についての意見が交わされました。
また、喜界島、白保集落の双方から今後について「サンゴ礁文化サミットも開きたい。互いに協働することでより楽しく深くなるのでは」との意見も出され、引きつづき互いの協力を誓い合いました。
遠く離れた場所同士のディスカッションでしたが、離れているが故に、お互いの繋がりを強く意識した内容になりました。
これからの「サンゴ礁文化」継承に向けて
フォーラムではその他にも、喜界島で2019年に発見された世界最北のアオサンゴ群生や、その群生を保護するために設立された協議会も紹介。
また、サンゴ学習を行なっている喜界町立早町小学校5年生による、学習成果を披露する動画も紹介されるなど、さまざまな世代の参加を得た盛りだくさんの内容で進行しました。
そして、フォーラムの最後では、金江副町長と渡辺理事長から、2021年度中に「サンゴ礁文化連絡会議」の設立を目指すことが発表されました。
この会議は、喜界島で独自の生活文化にかかわる活動を行なう組織と個人が、活動に関する情報共有と地域づくりに向けて連携して話すための場として設立されるもので、島のサンゴ礁文化の継承と活動を発展させることを目的としています。
今後、会議が開催されることで、サンゴ礁文化をいかした活動が島で盛り上がることが期待されます。
フォーラムの締めくくりは、進行を務めてくださった土岐宏大さんによる歌で、盛大に盛り上がりました。
このフォーラムの開催をもって「サンゴの島の暮らし発見プロジェクト」はいったん終了しますが、サンゴ礁文化の繋がりが石垣島と喜界島から、さらに多くの島へ広がり、多く人が文化を通してサンゴ礁との恵みを共感できる輪が広がることを願います。
イベント名:喜界島サンゴ礁文化フォーラム
日時:2021年2月21日 午後1時~午後4時
場所:喜界町役場ホール
主催:環境省 喜界町役場 喜界島サンゴ礁科学研究所
協力:WWFジャパン
参加人数:20名(会場) 60名(WEB)
※本フォーラムは、環境省による「サンゴ礁生態系保全行動計画モデル事業」の一部として実施しました。