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何が問題? 水産物の「産地偽装」


2月1日、「熊本産アサリに外国産混入していた可能性」がある、というニュースが報道されました。

これは農水省が行なった、売られている国産アサリのDNA分析を行なった結果、明らかになったもので、調査によれば「熊本産」の商品31点のうち30点に外国産のものが混ざっている可能性があった、とのことです。

また、報道によれば、熊本県で報告されたアサリの漁獲量と同県産の表示で販売されているアサリの量を比較すると、後者の方が圧倒的に多い、という実情も明らかになっており、今後の捜査と法的対応の行方が注目されています。

こうした水産物の産地偽装は、以前から繰り返し行なわれてきました。

ロシアから日本へのカニの輸入量が、輸出量の記録を上回っていたり、養殖で使われるウナギの稚魚の産地がどこなのか、全く追跡ができなかったり。

今も解決されていない問題は多々ありますが、こうした「出所の分からない」水産物の流通が、産地偽装につながっていることは間違いないでしょう。

産地偽装は違法行為にあたるケースが多いため、それだけを取っても、当然許されることではありませんが、何よりもその大きな問題は、どこで、誰が、どれだけその魚や貝を獲ったのか、それが分からない、つまり「トレーサビリティ」が確保できていない、ということです。

これができなければ、乱獲や違法な漁業、また就労者に対する搾取など、さまざまな問題が、漁業の現場で生じても、把握することも改善することもできません。

トレーサビリティの確立は、水産資源を守る一番の重要な要素であり、それを脅かす産地偽装は、ちょっと地名を書き換えた、くらいでは収まりのつかない、深刻な問題なのです。

天然の水産資源は、全て海の野生生物。その過剰な漁獲が今、海の生物多様性を危機に追いやっています。

環境保全という観点からも、看過できないこの産地偽装。

漁業資源の保全、管理、また人権への配慮から、国際的にも水産物のトレーサビリティの確立を求める動きが強まる中、私たちも、日本での法的な対応の強化を求める政策の提言に、引き続き力を入れていきたいと思います。

消費者の視点で海の資源を考える「おさかなハンドブック」

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自然保護室(海洋水産 IUU漁業対策マネージャー、水産資源管理マネージャー)
植松 周平

農学博士。東京大学大学院農学生命科学研究科において水域保全学に関する博士号を取得。その後、経営コンサルティング会社を経て、国際水産資源研究所(現 水産研究・教育機構)に入所。太平洋クロマグロの資源研究を行う。2013年よりWWFジャパンで勤務し、マグロ、カツオ、サンマといった国際水産資源の保全やIUU漁業対策に関わる業務に加え、事業戦略立案や各種業務改善等の社内コンサルタント業務にも従事。2021年には水産庁水産流通適正化法検討委員を務めた。

子供の頃から、田んぼや川、海で遊ぶことが大好きでした。高校生の時、幼少時の遊び場の環境破壊を目の当たりにし、「なんとかせねば」と思い環境保全の道を目指すことに。環境保全とは、生き物だけでなく、人々の生活も守ること。それは、とても難しいことだけど必要なことです。海洋保全研究者だけでなく、経営コンサルタントの経験も活かし、子供たちの未来のために、皆様と一緒に頑張っていきたいです。

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環境保全団体です。

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