© William Pohley

コウモリは悪者か?ヒト由来感染症の野生生物への影響


東アジアでは、古来縁起の良い動物とされているコウモリですが、近頃は新型コロナウィルスの宿主として悪者扱いされているような気がします。

ヒメキクガシラコウモリRhinolophus hipposideros。同属のシナキクガシラコウモリ R. sinicusが新型コロナウィルスの自然宿主と推定されている。
© Wild Wonders of Europe / Ingo Arndt / WWF

ヒメキクガシラコウモリRhinolophus hipposideros。同属のシナキクガシラコウモリ R. sinicusが新型コロナウィルスの自然宿主と推定されている。

コウモリという野生生物は、さまざまなウィルスの自然宿主です。
多くの場合、この自然宿主はウィルスに感染しても無症状。

しかし、本来の宿主ではない別種の動物が同じウィルスに感染すると病気、すなわち「感染症」になることがあります。

そして、感染した相手がヒトだった場合、その感染症は「動物由来感染症」と呼ばれます。

ところが、この逆のパターンもあります。

人間が感染しても平気なウィルスが、野生動物に感染し、病気を発症してしまう例です。

最近読んだ論文は、新型コロナウィルスについても、これが起きる可能性を示していました。それによれば、北米大陸に分布する、新型コロナウィルスに感染したことのないコウモリ40種以上が「人間から」ウィルスをうつされる可能性があるというのです。

これが起きた場合、どのような症状が出るのかは不明ですが、コウモリに言わせれば、これは「ヒト由来感染症」ともいうべきものです。

実際、コウモリもまた、感染症の犠牲になっています。
これは人間からうつった病気ではありませんが、十数年前に北米大陸へ持ち込まれ、広がっている「白鼻症候群」は、数千万頭のコウモリを死に至らしめました。

北米に生息するトビイロホオヒゲコウモリMyotis lucifugus。一般的な種だったが白鼻症候群により激減し、絶滅危惧種なった。
© Sherri and Brock Fenton / WWF-Canada

北米に生息するトビイロホオヒゲコウモリMyotis lucifugus。一般的な種だったが白鼻症候群により激減し、絶滅危惧種なった。

こうした病原体が、人間からの感染によって、自然界の野生たちに広がってしまう危険は、確かにあるのです。

自然環境や野生生物を守り、「適切な距離」をとることは、私たち人間が動物由来感染症を予防する上で大事なことです。

しかし同時に、「ヒト由来感染症」を野生生物たちの世界に持ち込まないよう、これも厳重に注意しなくてはなりません(淡水・教育・PSP室 若尾)。

ヘリコニア・ビハイの花。受粉は鳥やコウモリによって行なわれる。感染症などによるコウモリの大量死や絶滅は、こうした植物の生育や地域の生態系にも悪影響を及ぼす。また、昆虫を捕食するコウモリの減少は、農業の害虫の増加にもつながる。
© Roger Leguen / WWF

ヘリコニア・ビハイの花。受粉は鳥やコウモリによって行なわれる。感染症などによるコウモリの大量死や絶滅は、こうした植物の生育や地域の生態系にも悪影響を及ぼす。また、昆虫を捕食するコウモリの減少は、農業の害虫の増加にもつながる。

この記事をシェアする

自然保護室(野生生物)、TRAFFIC
若尾 慶子

修士(筑波大学大学院・環境科学)
一級小型船舶操縦免許、知的財産管理技能士2級、高圧ガス販売主任者、登録販売者。
医療機器商社、海外青年協力隊を経て2014年入局。
TRAFFICでペット取引される両生類・爬虫類の調査や政策提言を実施。淡水プロジェクトのコミュニケーション、助成金担当を行い、2021年より野生生物グループ及びTRAFFICでペットプロジェクトを担当。
「南西諸島固有の両生類・爬虫類のペット取引(TRAFFIC、2018)」「SDGsと環境教育(学文社、2017)」

子供の頃から生き物に興味があり、大人になってからは動物園でドーセントのボランティアをしていました。生き物に関わる仕事を本業にしたいと医療機器業界からWWFへ転身!ヒトと自然が調和できる世界を本気で目指す賛同者を増やしたいと願う酒&猫好きです。今、もっとも気がかりな動物はオガサワラカワラヒワ。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP