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ボール(地球)が元の場所に戻れるうちに


森林グループの岩渕です。
日本には「覆水盆に返らず」という諺がありますが、生態学の世界でも、ボールを使った同じような例えが古くから使われてきました。

©WWFジャパン

ボールを地球(または生態系)だとしましょう。
ボールが本来の場所にあるときは、ちょっと揺り動かしても、自然と元に戻ります。
多少の環境破壊があったとしても、地球は自ら復元できるというわけです。

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しかし、何かの事情で、このボールが大きく動き、隣の山(ティッピング・ポイント)を越えてしまったらどうなるでしょうか。
もはや元の場所には戻れず、別の谷間に落ちてしまいます。

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このことを生態学では「レジームシフト」と呼んでいます。そして、このボールを今大きく動かしているのが、実は環境破壊の力なのです。

今、地球温暖化や森林破壊、生物多様性の損失といったさまざまな問題が、それぞれのティッピング・ポイントを越えようとしています。

もしかしたら、実際に越えてしまったものも、あるかもしれません。これは、専門家の間でも見解が分かれるところで、簡単には判断ができません。

しかし、確かなことがあります。

それは一度、この「山」を越えてしまったら、もはや戻れないか、戻れるとしても、ものすごく大変な努力が必要になる、ということです。

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人が環境を壊し、生態系を変えてしまった地球。
ティッピング・ポイントを越えてしまった地球。

その世界は、果たして、私たちにとって住みやすい世界でしょうか。

もしかしたらその世界は、異常気象による大規模災害や、新型コロナウイルス感染症のような病気の頻発が、当たり前の世界かも知れません。

そんな未来にしないために、国際社会のリーダーたちは、1.5°C目標や愛知目標など、世界共通の目標を作り、その達成を目指してきました。

しかし、その多くは期限内に達成されず、地球というボールを押す力は今も勢いを増し続けています。

ボールの行先は、今を生きる私たちの行動にかかっているのです。

それをいま一度深く考え、なすべきことを実行してゆかねばと思います。

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自然保護室(森林)
岩渕 翼

博士(生命科学・東北大学)
カリフォルニア州立大学卒業。学位取得後、大学のポスドクや助教として生物と環境の相互作用や、生物多様性の保全や評価手法の開発、企業緑地の生物多様性配慮等に関する研究を行う。研究の傍ら、栃木県環境審議会専門委員として行政支援を行うほか、東日本大震災後には人と自然の復興を目指すグリーン復興の活動に関わる。その後、環境保全NGOに勤務し森林や湿地の保全プロジェクトを担当。WWFジャパンでは東南アジアを中心に、森林や野生生物の科学的なモニタリングから天然ゴムなどの森林コモディティの持続可能な生産の推進など、多角的な活動を展開。

小学生の頃にファーブル昆虫記を読んで感激し、その頃から将来は生き物に関わる仕事をすると心に決めていました。さらに中学生の頃に「沈黙の春」を読み衝撃を受け、環境保全を意識するようになりました。そのあと生態系の仕組みを調べる研究者になり、科学に基づいた保全を追求するために保全の現場に関わるようになりました。森林保全プロジェクトと同時に子育てプロジェクトも進行中。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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