アンモニアは真の解決策に繋がるか?一長一短を知ってエネルギーを選ぼう[FREA後編]
2022/08/23
G7先進国の中では唯一、2030年を超えて石炭火力発電を継続しようとして強い批判を浴びている日本。その日本が石炭火力からのCO2削減計画として打ち出しているのが、2030年には、「海外で作ったアンモニアを火力発電に20%程度混焼することでCO2削減を図る」というもの。
アンモニアというのは、水素と窒素からできているので、火力発電で燃やしても、確かにCO2は出ません。しかし水素は製造方法によってはCO2を出してしまいます。今の日本政府の2030年の計画では、海外で化石燃料から水素を作り、製造過程のCO2は大気中に出したままで、それに窒素をくっつけてアンモニアにしてから、日本に運んでくるというもの。それをまた火力発電の燃料として電気を作る・・・その過程では多くのエネルギーが無駄になり、CO2削減効果も非常に限定的となります。
実はWWFジャパンが推奨するエネルギーシナリオでは、2050年に日本で必要な電力とエネルギー需要はすべて再生可能エネルギーで供給可能だと示されています。そのカギは天気で変動する再生可能エネルギーは、電力需要の約2倍作ること。それによって、私たちの生活に合わせて刻一刻と変動する電気の需要と合わせることができるのです。
そして余った電力で、水を電気分解して水素を作っておき、その水素で燃料電池自動車などの燃料や、産業界で必要な高熱を作るのです。こうすることで100%再生可能エネルギーの社会が実現可能になると提言しています。
このWWFエネシナリオから考えると、火力発電にアンモニアを混焼するよりも、再生可能エネルギーからの電気をそのまま電気として使った方がはるかに効率よいことは間違いありません。それなのになぜアンモニア混焼を選択するのだろうと疑問に思った私は、アンモニアについても最先端の研究をしている福島県郡山市にある(国研)産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)を訪問してきました。
そこで分かったことは、非常に軽いガスである水素をどうやって需要地まで運ぶかが課題であることです。日本では電力を需要地まで届ける電力システムが整っているので、需要地に水の電解装置を設置し、そこで再生可能エネルギー由来の余剰電力を使って水素を作って使う、ということが可能ですが、世界には電力を運ぶシステムがないところもあります。
そこで運ぶ手段として、水素を液化したり、アンモニアやMCH※1などの水素キャリア(水素を貯蔵できる液体)が注目されているのです。アンモニアやMCHには、それぞれ一長一短があります。たとえばアンモニアはそのまま燃やせますが、毒性があり安全な管理にコストがかかるとか、MCHは有機物が混ざっているため、純粋な水素の用途には不純物を取り除く手間とコストがかかるなど。また水素を液化して保存するにはマイナス253度もの極低温にする必要があり、運ぶには魔法瓶のようなタンクが必要になりますが、非常に純度の高い水素なので、燃料電池自動車の燃料や半導体用などに向いているとか。すなわち、どの産業でどのように使いたいかによって、合う水素キャリアが変わるのですね!
私もアンモニアなどの様々な水素キャリアは、船の燃料など他に脱炭素化できない用途にはとても重要な未来投資なのだと実感しました。日本におけるグリーン水素と水素キャリアのさらなる開発に期待しています!
※1:MCH(メチルシクロヘキサン)とは、修正液のインクとして使われるもので、身近な存在。トルエンに水素を付加させて作られ、水素ガスと比べると体積当たり500倍以上の水素を含むため、効率よく水素を運ぶことができる。