「石垣リゾート&コミュニティ計画」に係る知事許可事項に対する陳情


沖縄県議会議長 殿

アンパルの自然を守る会 共同代表 島村 賢正 山崎 雅毅
石垣島エコツーリズム協会 会長 谷崎 樹生
一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟) 理事長 弁護士 池田 直樹
一般社団法人日本魚類学会 会長 瀬能 宏
いのちと暮らしを守るオバーたちの会 代表 山里 節子
NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本 代表 金井 裕 永井 光弘
カンムリワシの里と森を守る会 共同代表 東山盛 敦子 山崎 雅毅
カンムリワシ・リサーチ 代表 小林 孝
公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパン 会長 末吉 竹二郎
公益財団法人日本自然保護協会 理事長 亀山 章
公益財団法人日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一
軟体動物多様性学会 会長 石田 惣
日本湿地ネットワーク(JAWAN ) 代表 牛野 くみ子
八重山ネイチャーエージェンシー 代表 高木 理恵
我がーやいまの自然環境を考える会 会長 宮城 信博
(以上、五十音順。団体印省略。)
 

(背景)
沖縄県石垣島で進められている総面積約 127ha の大規模ゴルフリゾートを建設する「石垣リゾート&コミュニティ計画」(以下「本件計画」)は、その建設予定地として、ラムサール条約湿地である名蔵アンパルおよび名蔵湾の集水域が対象となっています。これらの地域には国の特別天然記念物カンムリワシの営巣地が含まれるなど、計画どおりに工事が進めば貴重な動植物の生息環境は著しく損なわれると危惧されます。このような本件計画は、昆明・モントリオール生物多様性枠組として国際目標とされ、かつ日本の国家戦略とされたネイチャーポジティブにまさに逆行するものです。

にもかかわらず、事業者である株式会社ユニマットプレシャス(以下「事業者」)は、これらの貴重な自然環境への影響に関する予測・調査と環境保全策に関して、沖縄県条例に基づく環境影響評価手続きにおいて知事に必要な対応を求められた事項についてすら、未だ実施していません。

一方で、事業者は、知事の許可事項である農地法に基づく農地転用および都市計画法に基づく開発許可の申請を進めており、これを受けて沖縄県各課にて審査が進行中です。環境影響評価手続きで指摘され事業者が未対応となっている項目は、周辺農地における営農をまもる農地法、健全な発展と秩序ある整備を通じ社会の発展に寄与する都市計画法、これらの関連法令・基準等においても同様に、事業者に対し実施が求められている内容となっています。

したがって、沖縄県には、本件計画に対して、一貫性ある立場と方針に基づき、適切に対処して頂きたく、以下について陳情いたします。

(陳情)
1.本件計画に関する事業者による農地法に基づく農地転用申請について、 厳正かつ慎重な審査を行い、少なくとも事業者および石垣市が下記 A-1,2,3; B-1,2,3; C-1,2,3; D-1,2; E-1,2 の各事項を実施したことが確認できない限り、 許可しないこと

2.本件計画に関する事業者による都市計画法に基づく開発許可申請について、 厳正かつ慎重な審査を行い、少なくとも事業者および石垣市が下記 A-1,2,3; B-1,2,3; C-1,2,3; D-1,2; E-1,2 の各事項を実施したことが確認できない限り、 許可しないこと

3.本件計画に関する環境影響評価について、名蔵アンパル・名蔵湾・これらの 集水域における生物相・生態系の調査、およびこれらへの影響に関する予測・ 軽減措置、建設予定地内と周辺地域におけるカンムリワシの生息状況に関する 調査・軽減措置、地下水汲み上げと農薬使用の影響に関する調査・予測・軽減 措置の各項目について、再実施すること

(陳情の理由、および陳情1.2.記載の確認を要する事項 A-1~E2)

A. カンムリワシの生息地保全に関して

本件計画に関する環境影響評価調査書(2021年10月)には、複数のカンムリワシのつがいが建設予定地内に生息していることが報告されています。また、この調査書では「発見には至っていない」と報告されたカンムリワシの営巣についても、事業者による 2022 年 4 月の調査の結果、本件計画の建設予定地内にて、カンムリワシの営巣が確認されました。

カンムリワシは、沖縄県石垣島と西表島の 2 か所のみに繁殖個体群が認められる八重山諸島の固有亜種であり、国の特別天然記念物で種の保存法に基づく国内希少野生動植物種であり、2012 年 3 月に環境省が実施した調査によれば、石垣島に生息する個体数は110羽とされており、絶滅の危機に瀕しています。本件計画がこのまま実施されれば、石垣島のカンムリワシに残された貴重な生息地の一つが失われることになります。

都市計画法に基づく開発許可に係る沖縄県「ゴルフ場の開発事業に関する指導基準」では、申請事業に対し、天然記念物の「生息及び生育を妨げるものでないこと」に加え、開発市町村長との間で「文化財の保護及び自然環境の保全」「良好な地域環境の保全に必要な事項」等について開発協定が締結されることを求めています。また、カンムリワシを頂点とする生態系の保全は、農地の多面的機能を重視する農地法に基づく農地転用申請手続きにおいて考慮されることが求められています。

加えて、2023 年 4 月に環境省沖縄奄美自然環境事務所・沖縄森林管理署・西表森林生態系保全センター・沖縄県・沖縄県教育委員会・石垣市・石垣市教育委員会・竹富町・竹富町教育委員会により策定された「カンムリワシ保全方針」(以下「カンムリワシ保全方針」)では、カンムリワシの生態等に関する今までの調査研究を踏まえて、「今後必要な対策」として「本種の生息に特に重要な森林及びそれらに隣接する二次的な湿地・草地等の環境について、大規模な改変を伴う場合には環境アセスメント等の機会を通じて、本種の生息にも配慮を行う必要がある」とされ、この保全方針推進のために「国、地方公共団体、研究機関、保護活動団体、獣医師や動物園、地域住民と情報共有を図り、各機関が保全策を講じられるよう連携して取組んでいく」ことが定められています。

しかし、事業者は、沖縄県条例に基づく環境影響評価手続きにおける知事の指摘にもかかわらず、建設予定地の一部でしか生息調査を行っていない等、カンムリワシ保全のために必要な調査や対策を実施していません。また、事業者は、本件計画に関して、開発協定の締結に向けた協議を行っていません。

したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の事項について実施されていることを予め確認する必要があります。
A-1 事業者にて、建設予定地全域と周辺地域におけるカンムリワシの生息状況、 年間を通じた繁殖を含むライフサイクルに係るカンムリワシの生態および利用エリアに関する科学的調査を実施すること
A-2 A-1 の調査結果に加え、カンムリワシとその生息環境を保全するための対策を 具体的に策定し、それを市民に公表すること
A-3 A-1 および A-2 を実施・監修する専門家、地元住民、沖縄県、石垣市、環境省等 の関連省庁、事業者らによるカンムリワシ保全のための協議体が設置され、対策および影響について継続的に検討・実施・モニタリングできる体制が構築されること

B. ゴルフリゾート施設による大量の地下水汲み上げの影響に関して

本件計画では、ゴルフリゾートを運営するために 1 日約 1000 トンの水を消費し、その約 7 割を地下水で賄うとされています。かかる大量の地下水汲み上げは、下流のラムサール条約湿地である名蔵アンパルとその後背湿地を含む集水域全体の水量を減少させ、周辺水域における渇水化や塩水化を招き、また周辺農地の水利用を妨げることが強く懸念されます。

名蔵アンパルは、日本最南端のラムサール条約湿地として、八重山民謡「あんぱるぬゆんた」にも登場する多種多様な甲殻類や魚類など水生生物の宝庫であり、カンムリワシをはじめとする鳥類の餌場となっています。また、干潟やマングローブ林は、地元の子どもたちや観光客の自然体験や環境教育の場として、石垣市民の長年にわたる不断の取り組みによってまもられてきました。ゴルフリゾート建設予定地内にある水源地から名蔵アンパルへ流れるウガドゥカーラ等の小河川には、石垣島の固有の新亜種で沖縄県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物種であるイシガキパイヌキバラヨシノボリやコンジキハゼ等の絶滅のおそれのある希少な淡水魚類も生息しています。

本件計画が実施されれば、名蔵アンパルは流入量減少・高塩水化により縮小改変されるおそれがあり、また、ネオニコチノイド系農薬の影響(C.で後述)で、アンパルの生態学的特徴の一つである多様な甲殻類に影響が懸念されることから、ラムサール条約湿地のうち「湿地の生態学的特徴が人為的要因によって著しく劣化・減少した場合」に記載される「湿地のレッドリスト」であるモントルーレコードに、日本国内の湿地として初めて登載される可能性があります。

都市計画法に基づく開発許可に係る沖縄県「ゴルフ場の開発事業に関する指導基準」は、申請事業に対し、「開発区域内又は隣接地域内の河川その他の水路については、原則として開発後においても従前の流量が安定的に維持され、水路及び下流の水利施設等の機能に支障がないよう措置すること」や「新たなボーリングによる地下水の取水を行う場合は、周辺地域の地下水源に影響が生じないように留意すること」等を求めています。

しかし、事業者は、沖縄県条例に基づく環境影響評価手続きにおいて名蔵アンパルおよび名蔵湾への調査や予測を求めた知事の指摘にもかかわらず、地下水汲み上げによる周辺水系への影響について調査や予測を全く実施していません。

したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の事項について実施されていることを予め確認する必要があります。
B-1 事業者にて、事業計画に基づく地下水汲み上げによる周辺水系および名蔵アンパ ル汽水域の水質・水位等への影響について、科学的根拠に基づく調査と予測を実施すること
B-2 B-1 の調査結果およびその影響を軽減する具体的な対策について、市民に公表すること
B-3 B-1 の調査の結果、地下水汲み上げによる影響が看過できず、十分な軽減策が困難な場合は、事業者および石垣市にて、地下水へ依存しない給水計画へ変更すること

C. ゴルフ場で使用される農薬や赤土流出による汚染について

本件計画では、ネオニコチノイド系殺虫剤であるチアメトキサムを含む複数種類の農薬を継続して使用することによってゴルフ場を維持管理するとしており、また建設予定地である前勢岳北側斜面における大規模な建設工事と施設供用に伴う赤土等の流出が見込まれ、これらの農薬や赤土の流出による、名蔵アンパルおよび名蔵湾を含む自然環境や周辺農地への影響が強く懸念されます。

ネオニコチノイド系殺虫剤は、特に昆虫類や甲殻類への毒性が高いことが知られるため、建設予定地周辺の陸域や陸水域に生息する希少種に多大な影響を及ぼす可能性が考えられます。カンムリワシ保全方針には、石垣島のカンムリワシは西表島のそれと比較して餌資源としてカニ類に大きく依存していることが示されており、石垣島のカンムリワシの生息に大きな影響を及ぼす可能性があります。

また、建設予定地からの排水が流入する名蔵湾には、特有のカルスト地形による貴重なサンゴ礁が残されており、これらの汚染によるサンゴ礁生態系の損失も測り知れません。

加えて八重山地方で近年頻発している豪雨などの影響も考慮すれば、これらの汚染防止のためには、現地の実情を踏まえた具体的かつ実効性のある対策が求められます。都市計画法に基づく開発許可に係る沖縄県「ゴルフ場の開発事業に関する指導基準」は、事業者に対し、「農薬を使用しない計画又は可能な限り農薬を節減した施設計画とする」ことを求めています。

しかし、事業者は、無農薬の計画については検討しておらず、名蔵アンパルおよび名蔵湾を含む自然環境や周辺農地への影響について現行の農薬使用や工事計画による影響に関する調査や予測を実施しておらず、また工事中止を含む計画変更に関する具体的な基準も示していません。

したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の事項について実施されていることを予め確認する必要があります。
C-1 事業者にて、事業計画に基づくネオニコチノイド系殺虫剤を含む農薬使用による名蔵アンパル・名蔵湾および周辺地域にそれぞれ生息する生物相への影響について、科学的根拠に基づく調査と予測を実施すること
C-2 C-1 の調査結果およびその影響を軽減する具体的な対策について、市民に公表し、十分な軽減策が困難な場合は無農薬による事業計画を検討し、その結果を市民へ公表すること
C-3 工事中止を含む工事計画や事業計画を変更するための農薬や赤土流出による汚染の具体的基準を作成し、市民に公表すること

D. 本件計画に係る地域未来投資促進法に基づく知事承認に関して

事業者が、本件計画に係る農地転用の申請が可能となったのは、本件計画に関して地域未来投資促進法に基づき事業者が作成した地域経済牽引事業計画を知事が承諾したことによります。地域未来投資促進法が適用される要件として、地域経済牽引事業計画が同法に基づき作成された基本計画および土地利用調整計画にそれぞれ適合していることが求められていますが、いずれも不適合であることが明らかとなっています。

すなわち、本件計画に関する基本計画には、「石垣市の魅力である自然環境や景観の保全に十分留意しつつ土地利用が行われる」こと、「対象区域の周辺である名蔵アンパル一帯・於茂登岳一帯をはじめ、優れた自然環境を形成している水面や森林等については、積極的に保全するとともに、市民の余暇活動や環境学習の場等としての有効利用を一層進める計画とする」こと、「多様な野生動植物やサンゴ礁等の生息・生育地に対し、直接或いは間接的に影響を与えるおそれがある場合は、沖縄奄美自然環境事務所及び沖縄県の自然環境部局と十分調整を図りつつ、専門家の指導・助言を踏まえて、それらの保全が図られるように十分に配慮する」こと、「地域経済牽引事業の実施等について、必要に応じてあらかじめ関係する地域住民に対して説明及び意見聴取を行い、地域住民の理解を得るための取組に努める」こと等の「環境の保全その他地域経済牽引事業の促進に際し配慮すべき事項」が定められ、かかる記載事項に基づいて国が基本計画に同意しています。

しかし、事業者において、環境影響評価手続きで知事から指摘された事項を含む重要な環境課題への未対応な状況は、この基本計画で定められた内容に反しており、地域経済牽引事業計画が基本計画に適合していないことが明らかとなっています。また本件計画に関する土地利用調整計画に記載された建設予定地のうち、石垣市が所有する土地や市民の森に含まれる土地の提供等に対して住民訴訟が係属中であり、また石垣市民による住民監査請求も行われる予定であり、事業者は未だ対象の土地全部を取得・利用できる状況に至っていません。このことから、地域経済牽引事業計画が土地利用調整計画に適合していないことも明らかとなっています。

加えて、沖縄県知事による地域経済牽引事業計画の承認には、環境保全措置の実施に関する事項を含む 3 つ事項について知事意見が付されていましたが、事業者および石垣市は、未だこれら 3 つの事項を実施しておらず、この知事意見にも未対応なままとなっています。

したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の事項について実施されていることを予め確認する必要があります。
D-1 本件計画に関して地域未来投資促進法に基づき事業者が作成した地域経済牽引事業計画が基本計画に適合していること、特に基本計画に定められた環境保全措置が実施されていること
D-2 本件計画に関して地域未来投資促進法に基づき事業者が作成した地域経済牽引事業計画が土地利用調整計画に適合していること、特に市民の森および石垣市有地を含む建設予定地全体を事業者が利用できる見込みであること

E. 本件計画が周辺地域へもたらす経済効果に関して

本件計画に関して石垣市が作成した調査書(2021 年 7 月作成「石垣市土地利用調査書」)によれば、本件計画により年間「237.7~268.9 億円」の経済効果があることが報告されており、これが石垣市長や石垣市農業委員会による「経済効果約 250 億円」という説明の根拠とされています。しかし、この経済効果の算定は、開発の費用(コスト)として周辺農地や自然環境への負荷や大量に消費する水の価値が一切考慮されておらず、汚染の原因となる主体(本件では事業者)が損失を補償する義務を負う汚染者負担原則に反している等の根本的な問題があり、また現地の実情を踏まえない過大な波及効果の試算に基づくもので、経済学的な裏付けや客観的根拠を欠く内容となっています。

2023 年 3 月に策定された「沖縄観光推進ロードマップ」では、第 6 次沖縄県観光振興基本計画で定められた「目指すべき将来像」である「世界から選ばれる持続可能な観光地」の実現に向けて、「持続可能な観光地域づくりの追求」、すなわち「県民、観光客、観光業従事者が、自然、歴史、文化を尊重し、それぞれの満足度を高めるとともに、環境容量の範囲において観光産業の成長と維持を目指すことで、沖縄経済を最適に活性化させる」ことが県の「MISSION」として掲げられており、それに基づく施策を行うことが表明されています。しかし、本件計画は、事業者の対応状況と相まって、これとは程遠い内容と言わざるを得ません。

本件計画の経済効果については、上記の石垣市による算定の問題点を改善し、SDGsを推進する沖縄県の方針に適合するものとして、真に地域経済に付加価値をもたらす計画であるか否かについて、専門家の意見を踏まえて再検証する必要があります。また地域未来投資促進法の適用要件としても一定基準の経済効果が求められているところ、本件計画に関する地域経済牽引事業計画のうち、その算定根拠を含む数値等について、情報公開請求および一部開示決定に対する市民による行政不服申立てにも関わらず、未だ非開示なままとなっています。これらの数値は本件計画に地域未来投資促進法が適用される要件として市民に開示するべき重要な情報であり、早急に開示される必要があります。

したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の事項について実施されていることを予め確認する必要があります。
E-1 本件計画の経済効果について、専門家の意見を踏まえて再検証し、その結果を踏まえて、各法令に基づく許認可審査を行うこと
E-2 本件計画に関する地域経済牽引事業計画に記載された経済効果に関する数値について、市民に対し早急に開示されること

以上

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