【WWF声明】国民的議論が無いまま拙速に成立に至ったGX脱炭素電源法に抗議する


2023年5月31日、国会で「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(以下、「GX脱炭素電源法」)が成立した。この法律は、同年2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の実施のために、先般成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下、「GX推進法」)とともに、国会に提出されていた。
WWFジャパンは、国民的な議論が最後まで無いまま拙速に、原子力の積極活用に向けた大きな方向転換を内容とするGX脱炭素電源法が成立したことに深く失望し、改めて抗議する。

2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、政府は原発の新増設や建て替えを想定していないとしてきた。しかし、2022年8月の首相指示を皮切りに、わずか4か月で従来の方針を大きく転換することが決められた。関連するパブリックコメントや説明会はその後に行われたに過ぎず、それらで示された多くの懸念も全く考慮・反映しないまま、GX脱炭素電源法案の提出に至っている。

また、国会には、電気事業法などの関連5法律をまとめて審議する「束ね法案」の形式で提出された。議論に参加した議員は、審議時間が確保されないことや、それぞれの法律案ごとに賛否を表明できないこと、規制と利用に関する各法律をまとめての議論は両者の分離という趣旨に整合しないことなどを指摘していた。しかし、政府はこれらに納得できる回答を示さないまま、本法律は成立した。

政府は、こうした原子力の積極活用に向けた前のめりの姿勢を真摯に反省しなければならない。その上で、GX脱炭素電源法・GX推進法に基づき施策を実際に進める前に、次の3点をまず行なうべきである。

(1)国民全体での徹底した熟議を優先的に確保

原子力利用に関する議論に広く国民全体が参加できる機会を保障し、その熟議に基づいて方向性を決めることを、原子力基本法などの法律で定めるべきである。原子力災害が万が一生じれば、国民の生命・身体・財産、そして自然環境に甚大な被害をもたらす。すなわち国民全体がステークホルダーであり、その熟議が徹底されなければならない。

そのためには形式的なパブリックコメントに留まらず、実質において国民の意見を反映できるプロセスが必要だ。例えば、経済産業省と資源エネルギー庁だけでなく、環境省・原子力規制委員会も対等に関与する国民の議論の場を設けること、参加者を国民から無作為に抽出すること、合意の条件を法定すること、などが考えられる。結論ありきで原子力産業の支援を原子力基本法に盛り込む前に、こうした丁寧な議論のベースを整備するのが本来の順序である。支援の実行に先んじて、まずは議論のプロセスの法定に向けた検討を開始するべきである。

(2)運転期間の算定除外規定の運用を凍結

現状では、GX脱炭素電源法、特に現行の上限である60年を超えた原発の運転を巡って、社会全体での合意が形成されたと言えない。当面は60年を超えた運転を求める申請があっても認可を留保できるように審査基準を定め、この制度の運用を停止すべきである。

そもそも老朽化した原発の運転は安定的に稼働できるとは限らず、電力の安定供給や発電コストの改善に寄与できるか疑問が拭えない。イギリスやフランスでは老朽化原発が相次いで停止する事態が生じていることから、追加的なメンテナンス費用が発生することも大いに予想できる。更に、放射性廃棄物の最終処分の目途は立っていない。こうした事情も踏まえて、60年超の運転を可能とする本制度の必要性を、改めてゼロベースで検討・熟議するべきである。

(3)革新炉ではなく再エネ・省エネ技術を集中的に支援

パリ協定が掲げる1.5度目標の達成には、既に確立している再エネ・省エネ技術の最大限導入に向けて、集中的に投資支援を行なうべきである。しかし、GX推進法の支援基準の策定では、経済産業省に大きな裁量があり、革新炉も含む様々な領域に支援が行なわれていく。

IPCC第6次評価報告書・統合報告書は、今世紀末までの気温上昇を1.5度に抑えるために、世界全体で温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに半減させ、2035年までに60%削減させるべきことを示す。他方で、革新炉は商用運転開始まで長期間を要し、このタイムラインに整合しない。更に、炉型によっては放射性廃棄物も発生し、その最終処分に目途が立たない中では妥当性を欠く。

前述のIPCCは、2030年排出量半減が1トン当たり100ドル以下の方法で可能であり、その大半は再エネ・省エネ技術などの20ドル以下の方法によるとする。これに照らせば、端的にこれら技術の普及拡大に資金を集中して投下すべきである。GX推進法の支援基準では対象を絞り、革新炉の開発・建設は除外する必要がある。

2023年5月20日に取りまとめられたG7広島サミットの首脳宣言で、脱炭素化に向けた原子力の利用の推進がG7全体で支持されたわけではない。一方で、太陽光や風力を拡充する数値目標とその実現策はG7としてのコミットが示された。このことからも、1.5度目標の達成に向けた政策の本流は、再エネ・省エネ技術の最大限の導入であることが明らかである。重要な節目である2030年まで残された時間はわずかだ。国民の幅広い声や国際社会の動向、科学的知見を虚心坦懐に参考にし、まずは上記3つの政策を急ぎ導入するべきである。

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