【WWF声明】遅く実効性の乏しいカーボンプライシング導入を定めるGX推進法に抗議する


2023年5月12日、第211回通常国会で「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下、「GX推進法」)が成立した。これは、同2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」を実施するための法案として、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」とともに岸田政権が提出していたものだ。
WWFジャパンは、GX推進法が実効性に乏しい形でカーボンプライシング導入を定める結果に終わったことに深く失望し、改めて抗議する。パリ協定が掲げる1.5度目標の達成には、2030年までに世界全体で温室効果ガス排出量を半減させるべきことは言うまでもない。更に、2023年3月20日に公表されたIPCC第6次評価報告書・統合報告書では、2035年までに2019年比で60%削減すべきと示された。先進国である日本にはそれを上回る形で排出削減の加速が求められ、中でも排出削減効果の高いカーボンプライシングの早期導入は必須である。今後の制度詳細の検討では、GX推進法の定める枠組みを一から見直すこともいとわずに、次の3つの改善点が踏まえられるべきである。

(1)導入時期を早期化し、総排出量上限や制度参加などに法的拘束力を持たせること

GX推進法では、化石燃料賦課金を2028年度から、特定事業者負担金を2033年度から導入することを定める。このように遅いペースでの導入は、2030年までに排出半減というパリ協定のタイムラインに整合しないことは明白である。審議過程における附則の修正により、導入時期を前倒しする余地が残された。この主旨に基づき、排出量取引制度と化石燃料賦課金の導入を可能な限り早期化させるべきである。
同時に、排出量取引制度において、現状のごとく削減目標や参加を企業の自主性に委ねていては十分な排出削減効果を期待できず、企業間に不公平も生じさせる。総排出量の上限(キャップ)を設定した上で、制度参加や排出枠の遵守などを法的に課す、キャップ&トレード型排出量取引制度にするべきである。

(2)2030年半減を可能とする賦課金単価を設定すること

化石燃料賦課金・特定事業者負担金の単価は石油石炭税や再エネ納付金が減少した額を上限とする。これでは、2030年に46%削減を実現するには到底足りない低い炭素価格となる。IEAは、2030年に半減させるには、先進国では1トン当たり130ドルの炭素価格が必要と予測している。また、欧州では、炭素国境調整措置(CBAM)が2023年から導入されることになっており、日本の炭素価格がこのように低いままならば、今後日本企業がCBAMの対象となってしまう恐れもある。2030年排出量半減に必要な炭素価格からバックキャストする形で化石燃料賦課金の単価を設定するべきである。
また、脱炭素成長型経済構造移行推進機構が投資支援の際に準拠する支援基準では、法定の要件が無く、経済産業省の裁量の余地が大きい。そのため、水素・アンモニア混焼や革新炉開発・建設など、2030年排出量半減に貢献しがたい技術も支援対象となり得る。IPCCは2030年排出半減の大半は再エネ・省エネの既存技術で達成可能とする。その最大限導入に限りある投資原資を集中的に投下できるように、支援基準の法定要件に2030年までの排出削減効果を明示するべきである。

(3)GX推進に係るガバナンスを整備すること

脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(以下、「GX推進戦略」)には、本戦略の目標を定めることとなっているがその内容は不明確である。カーボンプライシングや投資支援は本来、2050年カーボンニュートラル、2030年に2013年比46%削減、更に50%の高みを目指すという目標の達成に向けた政策であることから、この排出削減目標を本戦略の目標の中で明記すべきである。また、目標の達成状況の評価や見直しも時期・頻度が明らかでない。目標達成には科学的知見の更新やパリ協定下での野心の継続的な向上を踏まえて、不断に政策を強化する必要があることから、地球温暖化対策計画やエネルギー基本計画と同じく定期的な評価・見直しを行なうことを法的に担保すべきである。
加えて、GX推進戦略の策定の過程では有識者や国民の意見を反映させるプロセスがとられるか明確でない。温暖化の影響は社会全体に及ぶことから、対策も全てのアクターが連携して行なう必要があり、審議会への諮問やパブリックコメントの実施を法に定めるべきである。
さらに、緩和策であるカーボンプライシングに関する事項の決定において、環境大臣がどのように関与できるのかも定めは無い。環境大臣が意見を述べる機会を具体的に法律で確保するべきである。

2023年4月15・16日に開催されたG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合では、ホスト国たる日本が、国内政策の遅れを背景に、G7、そして世界の脱炭素化の進展を妨げる結果となった。他方、既に日本企業からは、実効性のあるカーボンプライシングの早期導入など、温暖化対策の更なる加速を求める声が上がっている。これ以上の遅れは競争力を損なうとの危機感の証拠であり、産業界への過度な配慮はもはや不要である。2050年・2030年排出削減目標の達成と、産業構造の新陳代謝による競争力の強化とを真に両立できるように、上記改善策が早急に取り入れられることを求める。

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