【WWF 声明】WWF は、G7環境大臣会合「2035 年温室効果ガス 60%削減」必要性の表明を歓迎するも、日本の電力脱炭素化へのリーダーシップ欠如を憂う

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G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合発表のコミュニケ(4/16)に対し、WWFジャパンは、世界全体の温室効果ガス排出量を「2035 年までに 60%削減(2019年比)」の必要性を明示したことを歓迎します。一方、本来議論をリードするべきホスト国の日本が、電力部門を 2035年までに脱炭素化すること等に強く反対して、世界の脱炭素化を妨げていることに、強く抗議し、国内政策の改善策を提案します。

2023年4月16日、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合において、共同声明(コミュニケ)が発表された。WWFジャパンは、当該共同声明で特に、世界全体の温室効果ガス排出量について2035年までに2019年比60%削減することの緊急性が高まっていると言及されたことを歓迎する。

これは、2023年3月20日に発表されたIPCC第6次評価報告書・統合報告書の知見に基づく。世界の平均気温は産業革命前に比べて既に1.1度上昇しており、このままでは2030年代に1.5度の上昇幅に達する。同報告書は、今世紀末までの気温上昇を1.5度に抑えるために、前述の水準での排出削減が必要とする。今回の共同声明で、60%削減の必要性を明示したG7は、先進国としてそれぞれ2035年60%以上の削減目標が必須であり、次年度にはそれらが国際公約されねばならない。

しかし同時に、WWFジャパンは、本来議論をリードするべきホスト国たる日本が、逆にG7、ひいては世界の脱炭素化の進展を妨げる結果となったことに強く抗議する。特にそれは、電力部門及び運輸部門に関して顕著であった。

共同声明の問題点①:電力部門の脱炭素化へのコミットが強化されなかった

電力部門については2035年までに「完全又は大宗」の脱炭素化とするに留まった。これはすでに2022年の同会合コミュニケで示されたものを繰り返したに過ぎない。電力部門については、本来は「大宗(predominantly)」という表現を削除して、「完全」な脱炭素化とすべきであった。更に、排出削減対策のとられていない石炭火力発電の段階的廃止について、年限を明確にできなかったのは問題が大きい。報道ではG7のほとんどの国の要請に反して、あろうことかホスト国たる日本がこれらに強く反対し実現しなかったとされる。

電力部門の脱炭素化は、運輸部門の燃料需要を電化することなど既存の技術で脱炭素化を進めるために必須となる最初の重要なステップである。IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書は、気温上昇を1.5度に抑える上で今後許容される二酸化炭素排出量を510 Gt と示す。他方、排出削減対策のとられていない既存の火力発電所などからは660 Gtも今後排出される。すなわち既存の火力発電所も速やかに廃止していかねば、1.5度は達成できない中、化石燃料の中で最も排出の多い石炭火力の削減はその筆頭である。G7が世界に範を示す必要があった。

共同声明の問題点②:EV等の導入に関する数値目標が明示されなかった

運輸部門については2035年までにG7の自動車ストックから排出される二酸化炭素を2000年比で半減させる機会を認識しているとしか示されていない。EVその他のゼロエミッション車(ZEV)の販売台数などに関する数値目標は明示に至らなかった。この点は欧米各国から提案があったとされるが、ホスト国日本の反対で実現しなかったという。

IPCCは、EVがライフサイクル全体を通じて、陸上輸送からの温室効果ガス排出量を効率よく大幅に削減し得るとする。世界がEVシフトを鮮明にする中、既存のガソリン車の延命に汲々とし、EV化に出遅れた日本が、世界の運輸業界の効率的な脱炭素化手段であるEV化の進展にブレーキをかけるのは恥ずべきことである。ホスト国として日本が世界の脱炭素化においてもリードするべきところ、ブレーキをかける側に回ったことは遺憾である。

このように、日本が脱炭素化に向けたリーダーシップを取れなかった背景には、国内政策の整備の遅れがある。今回の反省を活かし、次の3点について早急な改善が求められる。

(1)再エネ・省エネ技術の最大限導入に向けた取組みの加速

ロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機の中で、欧州の主要国はむしろエネルギーの安定供給に優れる再エネの導入を加速した。他方、日本では化石燃料回帰ともとれる動きが生じている。例えば、「GX実現に向けた基本方針」(以下、「GX基本方針」)では石炭火力発電の実質的な延命策であるアンモニア混焼も政府支援の対象とされた。アンモニア混焼などは2035年電力部門の脱炭素化には到底間に合わないことが明白である。G7コミュニケにもアンモニア混焼を念頭に置いた表現がねじ込まれているが、それも少なくとも「2035年までに電源の完全又は大宗の脱炭素化と一致する場合」という条件が付けられている。IPCCは2030年までに世界全体で排出量を半減させることは既存の再エネ・省エネ技術でその大半が可能とする。日本も世界に逆行する産業政策を持つよりも、2035年には電力部門を脱炭素化できるようなタイムラインを持つ実装可能な施策にこそ舵を切るべきではないか。

(2)実効性のあるカーボンプライシングの早期導入

世界中では70の制度が既に導入されている一方で、日本でのカーボンプライシングの本格導入は遅れに遅れている。ようやくGX基本方針で、排出量取引制度は2026年度から、化石燃料賦課金が2028年度からの導入が示されたに過ぎない。2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させることに資するように、更なる前倒しが必要である。

排出量取引制度の現状案は、対象企業からの総排出量上限(キャップ)もなく、制度参加も義務づけられないため、排出削減効果が乏しい。確実な排出削減に向けてキャップの設定と制度参加の強制は必須である。他方、化石燃料賦課金も、政府案ではエネルギーに係る負担の総額が増えないように、単価に上限が設けられている。2030年に必要な炭素価格から逆算する形での設定を可能とするように修正すべきである。

(3)国民的な議論なく拙速に原発を活用する方針の撤回

2022年8月の岸田総理の指示を受けた後、わずか4か月の議論のみを経て、従来の政府方針を大きく転換するに至った。まずは広く社会全体での熟議が確保されるべきであり断固容認できない。また、GX基本方針では革新炉の開発も支援対象とすることが示される。しかし、2030年排出量半減というタイムラインには整合しない。前述のIPCC報告書の知見が述べるように、再エネ・省エネ技術の最大限導入に向けた支援へと、限られた原資を集中投下するべきである。


来る2023年5月19日から21日にG7広島サミットが開催される。日本は、今回のG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合と同じ轍を踏み、世界の脱炭素化の歩みを遅らせることにリーダーシップを発揮してはならない。まずは前述の3点を改善し、国内の脱炭素化を国際標準で実施してこそ、ホスト国として自信を持って議論を牽引できる。日本が真の自己変革を経て、世界の脱炭素化の主導役となることをWWFジャパンは要求する。

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