奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産登録に対する声明
2021/07/26
2021年7月16日から30日にかけて開催されている、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産委員会において、7月26日、日本の奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島が、世界自然遺産に正式に登録されました。
この登録は、世界的にも貴重かつ希少な南西諸島の生物多様性の価値と、その保全のため、これまでに傾けられてきた、長年にわたる多くの関係者の努力を、広く明らかにするものであり、今後の景観の保全においても、重要な一歩となるものです。
しかしその一方で、世界自然遺産への登録は、より多くの観光需要の喚起や、土地・資源の利用増加につながる可能性があるため、登録後もより一層の保全の取り組みの促進が求められます。
さまざまな分野の研究者の方々や、地域の皆さまと共に、1980年代から南西諸島の保全に取り組んできたWWFジャパンでは、今回の南西諸島の世界自然遺産登録を受け、今後、環境保全上の大きな課題になると考えられる4つの点を指摘し、その解決を目指すとともに、政府や自治体、地域関係者に対し、取り組みの実現を呼びかけていきます。
世界自然遺産登録後の南西諸島における4つの課題
【1】 登録地周辺や水域における開発や利用の増加
登録地の中核にあたる「推薦区域」以外の「緩衝地帯」や「周辺管理地域」は、今後観光などを目的とした開発の対象となる可能性があります。また、今回の登録地は森林が中心であり、重要な水域や海域がもれています。南西諸島全体の生物多様性の価値を保全する上では、周辺島嶼部の保全も重要となります。登録地に隣接するこうした環境についても、利用の管理や保全の強化が求められます。
参考「南西諸島のサンゴ礁生態系の開発と利用に関するポジション」(WWFジャパン)
【2】 希少野生生物の密猟・持ち出し・違法取引
南西諸島固有の希少な動植物を狙った違法であったり過剰な採集や取引が後を絶ちません。今回の世界遺産への登録が、南西諸島全体の注目度を高め、より多くの人が訪れるようになることで、違法行為を増長させてしまう可能性があります。島々の生物多様性を保全する上で、官民連携による実効性のある対策と法執行の強化を通じた、違法行為の抑止は重要な取り組みとなります。
【3】 外来種の固有種への影響
家畜やペットとして飼育していた動物が野生化したり、半野生の状態で屋外で飼育されることで、自然環境への影響が生じています。今回の登録地に生息する、在来かつ固有種のヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどは、肉食の外来種に捕食される例が多数確認されているほか、草食の外来種は希少な植物種や地域の植生を食い荒らし、生態系そのものを改変してしまいます。マングースのように防除に成功しつつある例もありますが、水域を含めた他の多くエリアでは、今も外来種が環境を脅かす大きな要因となっています。
【4】 島内外での自然の価値の共有
今回の世界自然遺産の登録は、南西諸島の生物多様性の価値を、広く知らしめる機会となりましたが、微妙なバランスで成り立っている生態系の成り立ちや、固有の野生動植物の希少性については、まだ十分に理解されていません。地域が主体となって、永続的にこの環境を保全していくため、また野生生物の違法な採集などをゼロにしていくためにも、次世代への教育を含めた普及と学びの機会を作っていくことが重要です。
WWFジャパンは以上の課題を踏まえ、2021年より新たな5か年の保全プロジェクトを開始。南西諸島の自然と生物多様性の価値を守るための活動を行なってゆきます。
また、今回の南西諸島4か所の世界自然遺産登録が、日本の宝であるこの地域の自然や生物多様性を守る好機となるように、各分野の研究者や行政・自治体、地域の方々との連携、協働を強化していきます。