東京オリパラ大会の持続可能性の取り組みは不十分 大会前報告書に対するWWF意見
2020/05/15
持続可能とはいえない「調達コード」
東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、環境や社会に配慮した「持続可能な大会」として実施されることになっています。
しかし、その実現のカギとなる、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が作成した「調達コード」には多くの課題があることを、WWFジャパンは繰り返し指摘してきました。
東京大会は2021年に延期されることになりましたが、大会前に発表される持続可能性の取り組みの報告書として最も重要である「大会前報告書」が、2020年4月30日に公表されました。
残念ながら、その大会前報告書に掲げられた持続可能性の取り組みにおいても、それらの課題は解決されないままです。
そもそも掲げられた持続可能性の原則自体は、おおむね適切といえるものになっていますが、具体的に基準を確認する方法が不適切であるため、実際かつ根本的に持続可能性を担保することができない内容になっているのです。
特に、重大な欠陥が認められるのは、大会で使用される木材、紙、水産物、パーム油の個別の調達基準です。
この問題となる物品の調達は、いずれも国内のみならず海外の森林や海洋の自然環境の保全に深くかかわるものであり、日本が国際的な責任を問われる重要な点になります。
真に持続可能な大会にするために必要なこと
WWFジャパンは、公表された「大会前報告書」について、意見を提出し、改めて改善を訴えました。
その主な内容は以下の通りです。
「持続可能性に配慮した調達コード」に関して
策定された木材と紙の調達コードは、第三者認証を取得していない木材や紙であっても事業者によるデューデリジェンスや外部監査は必須とされておらず、持続可能性を担保する上で不十分である。こうした調達コードでは、自然林破壊や人権侵害のリスクを低減することは困難である。
コンクリート型枠合板の現地モニタリングに関して
現地調査の設計(対象地域、対象企業、聞き取り調査を行う相手、視察場所などの選定方法)が不透明であり、この調査をもって、「持続可能な森林管理に取り組んでいることが確認」できたとする客観的根拠とすることは適切ではない。
容器包装等削減の取り組みに関して
調達物品の再使用(レンタル・リースの活用、使用後の再使用)・再生利用について、数ページにわたり詳細に具体策が提示されているのに対し、より優先されるべき絶対的削減について具体的な内容が皆無なのは問題である。
使い捨てプラスチックの使用を削減するために、紙製に切り替えるというのはベストのオプションではない。
最優先すべき絶対的に減らすことについては、全く触れられていない。再生可能な代替資源への切替を考慮する以前に、使用される容器包装の絶対量を、来場者と事業者が協力して減らしていくことこそ優先して取り組むべきである。
持続可能性に配慮した水産物の調達について
「水産エコラベル認証品など、水産物の調達基準に合致した食材を使用することを前提に、選手村のメニューを作成」とあるが、別途示されている「持続可能性に配慮した水産物の調達基準」では、水産エコラベル認証品ではなくても、広く認められている。
特に水産エコラベル認証品ではない水産物については、生態系への配慮などが不十分なものが含まれており、実態を反映していない。
日本発の水産エコラベルであるMELの言及に関して
MELの漁業認証Ver.2.0がMSCやASCと同様、「GSSI(世界水産物持続可能性イニシアチブ)の承認を受け」たことを根拠に、MELが、国際的に通用する水産エコラベルに基づいて認証された水産物であるとしている。
そうであれば、GSSIの承認を受けていないMELの漁業認証Ver.1.0は、国際的に通用する水産エコラベルに基づいて認証された水産物とは言えないのではないか。
持続可能性に配慮したパーム油の調達に関して
3つの認証スキームの動向をフォローアップしている、としてそれぞれの認証農園面積等が記載されているものの、問題は基準が強化されているか、認証農園が拡大しているか、ではない。それぞれの基準が現場(特に農園)において機能しているか、東京大会の調達基準を満たす実践が現場でなされているかを見なければ何の意味も無い。フォローアップというのであれば、それらに対する評価をすべきである。
価値ある「オリンピック・レガシー」を残すために
水産物や紙・木材・パーム油調達の取り組みは不十分ですが、その一方でWWFジャパンは東京2020大会の脱炭素化(地球温暖化対策)の取り組みについては、高く評価しています。
省エネルギー対策や、再生可能エネルギーの100%使用、オフセットのガイドラインの採用などは、近年のオリンピック・パラリンピック大会でもトップレベルの水準にあるといえるものです。
とりわけ、「鉄リサイクル」を具体的な二酸化炭素(CO2)の削減策として位置づけたことは、大会の持続可能性を追求する取り組みでは史上初の事例であり、高い評価に値します。
WWFジャパンは世界の中で大消費国のひとつである日本が、社会全体として責任ある調達を実施していくべきと考えています。
ですが、その指針となる東京2020大会の調達方針が現状の内容のままでは、持続可能な社会に向けた変革を導く「オリンピック・レガシー」を未来に向けて残すことができません。
東京大会が延期になったことを受けて、食料や消費財関連の調達基準の改善はもう少し進められるはずであるとWWFジャパンは考えます。特に水産やパーム油・紙などの調達基準は見直しを前提に議論を進めるべきです。
また、木材の調達コードに関しては、当初の基準に対して大きな批判があり、多数のNGOからIOCに公開レターが送られ、改定されたという経緯がありました。どのような課題があり、それらをどのように解決していくのか、という方向性を報告書の中で示すべきです。
木材はもちろんのこと、水産物や紙、パーム油も含めて、実際に調達されたものの原産地や認証の有無・種類などを、調達実績として公開することは、持続可能性を担保するために必須です。
2021年に延期された東京大会が、真に未来に貢献する大会とするためにも、今後の改善に向けた取り組みの実施が求められます。