WWFは、政府の石炭火力発電の輸出は「支援しないことを原則」とする 方針転換を歓迎する


~ただし、抜け穴を防ぎ、新規のみならず、既存の石炭火力輸出案件も撤退すべきである~

7月9日に発表された政府のインフラシステム輸出戦略において、石炭火力発電の輸出は「支援しないことを原則とする」とした日本政府の方針転換を、WWFは歓迎する。

パリ協定の脱炭素化への流れに逆行し、海外現地住民の強い反対にも関わらず、石炭火力発電の輸出を公的資金で支援してきた日本の姿勢は、長らく激しい国際批判にさらされてきた。気候変動に関する国連COP会議などの場においても、脱石炭戦略を明確にする欧州やカナダなどの先進国の中にあって、唯一石炭火力輸出を含む石炭推進に固執してきた日本が、ようやく「原則支援しない」方針に転換したことを、WWFジャパンは評価したい。

一方で、輸出に関する政策方針として、我が国が「相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉」していれば例外にもなりえると読めること、当該相手国が「パリ協定の目標達成に向けた政策強化」の実施や「脱炭素化向けた移行の一環」であることなどの要件が、脱炭素化に沿って厳格化されてはいるものの、いまだ輸出を可能とする含みが残っていることには強い懸念を示す。これらの要件が事実上の抜け穴となることを避けるため、審査のフレームワークを速やかに立ち上げ、厳格に適用していかねばならない。

さらにこの方針転換は、新規の石炭火力輸出にのみ適用されるために、既存の案件は継続されることになる。パリ協定実施のためには新規の石炭火力は、どこであっても建設する選択肢はない。日本の歴史的な方針転換は、既存の石炭火力輸出案件にも当てはめてこそ、国際社会の評価が得られるであろう。

さらに国内における石炭火力については、7/3に発表された経産省の「再エネの主力電源化に向けて、2030年までに非効率な石炭火力発電のフェードアウトを確実にする」方針は、第一歩ではあるが、規模の大きい高効率の石炭火力を温存し、さらに新規増設分を合わせると、少なくとも2030年の石炭比率はいまだ20%以上残す。石炭脱却路線とはいまだ程遠く、パリ協定時代の脱炭素化に向けてはさらに踏み込んだ行動が必要である。

梶山大臣の「声も届かないような川の両岸で議論しているよりも、一つの俎上に置いて議論を」のコメントのように、石炭推進派と脱却派の平行線の議論ではなく、少なくともエネルギーミックスの具体策が示され、非効率のみといえども石炭火力の休廃止方針が出されたことは、歴史的な第一歩ではあると評価する。
しかし激甚化する気象災害に見舞われている日本として、脱炭素化へ向けた歩みは足踏みを許されない状況にあり、日本の取り組みは遅きに失する。今後始まるはずの政府の「エネルギー基本計画」見直しの議論に向けて、WWFジャパンは以下の4点を強く求める。

1.高効率の石炭火力発電も早期の廃止時期を明確にし、計画的に現状すべての石炭火力撤退を進めること。

高効率の石炭火力は60万~100万kWと大規模であり、現状の国内の全発電量においても13%も占める。効率な石炭火力の発電量(同16%)を100基程度(9割)削減したとしても、現在建設中の最新鋭石炭火力を加えれば、発電比率は20%を下らない。石炭火力発電はいかに高効率であっても、二酸化炭素の排出量は天然ガスの2倍に上る。石炭火力が残る限り、日本の排出量をパリ協定の長期目標であるゼロにしていくことは不可能となる。高効率であっても高排出である石炭火力発電は早期にすべて計画的に脱却するべきである。

2.長期に高排出体制が続くロックインを防ぐために、石炭火力の新増設は行わないこと。

巨額の初期投資が必要な石炭火力は、いったん建設されれば40年以上にわたって使用されることになる。今から新増設されれば2050年を超える期間にわたって大量の二酸化炭素を排出する構造が日本で継続されることになる。これではそもそもパリ協定の目標である2度未満は達成不可能である。
ましてや新増設した石炭火力発電保有事業者は、座礁資産となることを防ごうとして、日本の温暖化対策推進のさらなる反対勢力となってしまう。排出量取引制度を含むカーボンプライシング等の有効な温暖化政策が、旧型の産業の反対によっていまだ導入されていない日本において、パリ協定時代の産業構造へ転換する機会をさらに遠ざけるべきではない。
CCSやCCUなどの技術イノベーションを頼るならば、新増設される石炭火力に対しては、即時CCUSなど温室効果ガスを排出しない技術を義務化するべきである。期限を決めることなく将来的なイノベーションに依存する、という姿勢は温暖化対策の放棄といっても過言ではない。

3.2030年のエネルギーミックスについては、2021年のエネルギー基本計画見直しに向けて、一から議論するべきである。

梶山大臣は、2015年に制定し、2018年の基本計画改定でも踏襲されたエネルギーミックスの数値である、石炭26%の数値は「今の時点では変わりはない」としたが、そもそもこれは2021年に向けて見直される予定である。見直す議論の前に、前回の数値を所与のものとするのは厳に慎むべきである。ましてや非効率石炭火力をフェードアウトしても2030年に高効率の石炭火力が20%程度見込まれるとしていることから、26%まで更に石炭火力発電を積み増せる、といった誤ったシグナルを事業者に与えることになってはならない。

前回2018年に改定された「第5次エネルギー基本計画」では、国民的議論を経ないまま、前々回の数値が維持された。現状のエネルギーミックスから見て非現実的な想定数値となる原発(20~22%)、はるかに余力のある再エネ(22~24%)、そして石炭を「安定供給性や経済性に優れたベースロード電源」と定めての26%など、現状とかけ離れているだけではなく、パリ協定と極端に乖離している。ゼロベースで議論し直し、将来の日本の産業構造の転換につながる源泉となる数値目標に変えていくべきである。

4.エネルギーミックスの議論に国民参加の場を必ず作ること。特に若者の声を聞くこと。

そもそもエネルギーミックスの数値は、国民生活に大きな影響を及ぼすエネルギーの計画であり、ひいては将来社会の選択である。賛否の大きく分かれる原発も含めて、これまで思考停止の状態できたが、2021年に向けた見直しでは、現状と将来社会の姿を見据えて、十分な国民的議論のプロセスを経るべきである。

特に若い世代は、石炭火力のロックイン、原発の核廃棄物問題など、現状の問題先送りの影響を被る世代であり、深刻化する温暖化の悪影響を最も受けてしまう。グレタ・トゥンベリ氏に代表される若者たちの声が世界的に拡大する中、日本の若者世代の声も十分に反映される議論のプロセスとなるべきである。

ESG投資の潮流が世界的に強まり、石炭事業に注力する日本企業から投資を引き揚げる動きも広がる中、第一歩として非効率な石炭火力廃止の方針を具体化し、石炭火力輸出を原則支援しないとした方針を、WWFジャパンは歓迎する。この第一歩に留まることなく、国内外で全面的に石炭火力発電を廃止する方向へ早期に転換するべきである。

2020年、パリ協定の実施年に入った現在、パリ協定に沿った世界の潮流はもはや抗いようのない勢いがある。欧州ではすでに石炭火力脱却論は収束しつつあり、ガス火力発電の継続に厳しい目が向けられている。世界の動きにこれ以上遅れるのではなく、日本の産業が将来的に国際競争力をもつためにこそ、石炭の議論は早期に収束させるべきである。

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