【WWF声明】10年で再エネ2~14ポイントの増加のみ? 脱炭素化に背を向ける日本のエネルギー基本計画案に抗議する


 2024年12月17日、政府は日本のエネルギーのあり方を方向付けるエネルギー基本計画の改定原案を公表した。その中では再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとしつつも、2040年度の電源構成として、再生可能エネルギーは4~5割に留まり、一方で火力は3~4割、原子力は2割程度を提示している。

 WWFジャパンは、2030年に「再エネ36~38%」の次の10年の間に、2~14ポイントしか増やさないという2040年のエネルギー基本計画案の野心の乏しさに大いに失望する。世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えるためには、化石燃料の利用に伴う温室効果ガスの排出を急速に減らすエネルギーの脱炭素化を描くべきである。
 IPCCによれば、1.5度目標の達成に向けて世界全体で許されるCO2の累積排出量は残り500 Gtである一方、既存の火力発電所等が耐用年数を終えるまでに排出するCO2は660 Gtであり、それに依存し続ける余地はない。また、2023年の国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)のグローバルストックテイク成果文書では、1.5度目標の達成に向けて2030年までに世界全体で再エネ設備容量を3倍にすることや、化石燃料からの転換に向けた取り組みを加速させることが国際的に合意されている。
 こうした科学的知見や国際社会の要請に応えて、能力と責任を有する先進国として世界の脱炭素化をリードするために、日本は第7次エネルギー基本計画の原案について次の3点を改善するべきである。

(1)2040年電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を大幅に引き上げること

 今回の原案では、2040年に再生可能エネルギーを最大電源とする方向性を示しつつも、電源構成に占める割合は多くても5割程度に留まっている。これは、原案の策定に先立ってヒアリングに呼ばれた団体のシナリオ分析では、2040年の再生可能エネルギーの発電割合を40~60%程度とするものがほとんどだったことが背景にあると考えられる。
 他方、それ以上の割合が可能であることを根拠とともに示している独立系研究機関のシナリオ分析が複数存在している。本来は複数の科学的根拠のあるシナリオ研究を参酌するべきではないか。同ヒアリングでも地球環境戦略研究機関(IGES)は70%代と高い数値を提示していた。また、WWFジャパンのエネルギーシナリオでも、2030年までに国内で再生可能エネルギーを3倍に増やし、2040年の発電割合を90%とすることが可能だと示している。Climate Integrateや自然エネルギー財団なども100%に近い値を提示しており、こうした分析に鑑みれば電源構成での再生可能エネルギーの割合をいっそう引き上げる余地は大いにあると言える。
 加えて、そうした野心的な方向性は、日本の企業からも強く求められていることを認識するべきである。気候変動対策に積極的な非国家アクターから成る気候変動イニシアティブ(JCI)では、1.5度に整合する形で再生可能エネルギーの導入加速や化石燃料からの早期脱却を求めるメッセージに、プライム上場企業77社を含む236団体が賛同した。こうした経済界・社会の幅広い声にも応える形で、再生可能エネルギーの導入拡大に道筋をつけることが求められる。

(2)化石燃料からの転換に明確な道筋をつけること

 前述のとおり、1.5度目標の達成には化石燃料からの転換を早期に進めていくことが不可欠である。しかし、今回の原案は2040年の時点ですら火力発電を3~4割としており、この方向性に合致しない。とりわけ、石炭火力の扱いが不明確なことは大きな問題を残す。
 石炭火力は最も効率的な方式であっても、ガス火力よりも2倍程度もの温室効果ガスを排出する。そのため、化石燃料の中でも最優先に転換が図られるべきであり、遅くとも2030年までには段階的に廃止されている必要がある。現に2024年のG7首脳宣言でも、2030年代前半までの廃止に初めて合意しており、国際的な要請も強まっている。WWFジャパンのエネルギーシナリオでは、石炭火力を2030年までに段階的に廃止しても、再生可能エネルギー導入を3倍に増やしつつ、省エネ努力の追求とガス火力の稼働率向上によって電力供給には問題が生じないことが判明している。
 また、LNGもトランジション期の燃料として一定の役割は確かにあるが、温室効果ガスを排出する化石燃料であることには変わりなく、その使用から脱却する時期を明確に決めることが必須である。いたずらに量の確保に走るのではなく、出口戦略を含めた戦略的な調達と利用が求められる。
 なお、火力発電ではCO2対策費用がかかるところ、今回併せて実施された発電コストの試算では既存の政策や国際公約に基づいたIEAのシナリオ(STEPS・APS)での炭素価格が参照されている。しかし、本来であれば1.5度に整合したネットゼロシナリオ(NZE)の炭素価格が踏まえられるべきであり、その場合はいっそう発電コストも上振れし得る点は留意するべきである。

(3)再エネ・省エネ技術の実装に向けた研究開発を支援すること

 原案では、これまでのエネルギー基本計画で言及されていた原子力への依存度低減の記載を削除し、必要な規模を持続的に活用していく方向性へと転換することが示された。その上で2040年の電源構成では原子力を2割程度としている。また、ゼロエミッション火力の実現に向けて水素・アンモニア、CCSの研究開発投資も支援することも盛り込まれている。
 しかし、原子力発電所の再稼働・新増設や次世代革新炉の開発が2040年までに想定した形で進むかは不確実性が大きく、バックエンド問題に至っては長年決着がついておらず、その見通しもない。また、水素・アンモニア、CCSも1.5度に整合するタイムラインと規模で社会実装できるか見通しは難しく、火力発電の延命にもつながる懸念が大きい。
 限られた政府の資金は、このように実現可能性で不安の残る技術に総花的に振り向けるのではなく、再エネ・省エネの既に確立した技術の普及に集中させるべきである。例えば、今回の原案作成に伴う発電コストの算定では、再エネについて統合コストの大きさが強調されている。再エネの調整力として化石燃料火力のコストを加味することが適切かはさておき、当該コストの試算は前提条件によって大きく左右され、その計算の妥当性は広く議論されるべきだが、仮にそうしたコストが必要だとしても、その克服にこそ資金が割り当てられることが望ましい。費用効率的な排出削減につながる支援が追求されるべきである。

 この第7次エネルギー基本計画の議論と並行して、政府では2035年NDCの議論も進められている。今回の原案が、NDCで掲げられる温室効果ガスの排出削減目標の議論を制約してはならない。本来であれば、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるという大目標を達成するために、IPCCの示す2035年66%減(2013年比)以上の温室効果ガス排出量の削減を目指して、エネルギーのあり方が議論されるべきである。上記を改善し、真の意味でS+3Eを全て満たすエネルギーの将来像が描かれることをWWFジャパンは期待する。

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