「パリ協定に基づく成長戦略としての 長期戦略策定に向けた懇談会」への提言を発表
2018/08/03
提言 2018年8月3日
WWFジャパン「パリ協定に基づく成長戦略としての 長期戦略策定に向けた懇談会」への提言
本日3日、政府は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」を発足させた。おりしも2018年の夏は、気象庁によって「災害」とまで認識されるほどの猛暑や豪雨による甚大な洪水被害など、温暖化によってかさ上げされたとみられる災害が相次いでいる。さらなる温暖化の進展に対する危機感は国民の間で共通認識となってきた。
世界的に災害が拡大する中、パリ協定下の世界では、最も重要な視点は、長期的に脱炭素化していくための明確な戦略を持ち、バックキャスティングで中短期的な目標をもったうえで、温暖化対策を進めていくことである。世界全体が脱炭素社会を目指す中では、今後の経済成長の原動力も脱炭素技術の拡大普及にある。それを誘導する政策を策定していくことこそが、政治のリーダーシップである。それを実現するために、WWFジャパンは、以下の6つの方針で日本の長期低炭素戦略を策定することを提言する。
1) ゴールを明確にした議論を進める。具体的には少なくとも「2050年温室効果ガス80%削減をいかに実現するか」にする
有識者や業界団体代表者を集めた懇談会や審議会などの、これまでの長期戦略の議論は議論の前提となるゴールが共有されず、往々にして議論が迷走してきた。パリ協定の締約国である日本は、脱炭素化へ向けた途上として、すでに国内で閣議決定されている2050年80%削減を、長期戦略の明確なゴールとして、議論を進めることが求められる。2050年までに少なくとも80%削減し、その後速やかに脱炭素化を実現するためには、あらゆる政策手段を総動員する必要がある。そのための実効力のある政策・施策のポリシーミックスを検討する必要がある。
脱炭素化の実現には「イノベーション」が必要であるが、これまでのような技術偏重のイノベーションのみならず、「社会的な」イノベーションが求められる。なぜならば座して技術イノベーションが起きることは望めず、そのためには技術革新を促す政策の導入など社会的なイノベーションが不可欠であるからである。たとえば、過去25年にもわたって単に検討してきたカーボンプライシングなどの実効力のある政策を導入することなくして、革新的な省エネの進展などのイノベーションは望むべくもない。
2) 具体的な省エネ・脱炭素化を産業ごとに検討すること。特に高排出型の産業の検討を優先すること
まずは高排出産業、エネルギー転換部門や産業部門など部門ごとに脱炭素化へ向けた2050年80%削減の道程を検討すること。
電力部門の脱炭素化は必須事項であるが、日本全体のエネルギーでは電力需要は4割であり、より低炭素化の難しい熱・燃料需要が残りを占める。そのため2050年の検討に当たっては、電力だけではなく、熱や燃料需要も含めたエネルギーの在り方を検討し、脱炭素化する途上としての2050年80%削減の道筋を具体的に検討することが重要である。
なお、これまでのように家庭や業務など自らの努力では大きくは削減できない部門(電力からの排出を削減できるのはエネルギー転換部門しかない)に責任転嫁をはかるのは建設的な検討とは言えない。エネルギー転換部門の責任として脱炭素化をはかるのが当然である。
3) 化石燃料依存からの脱却を明確にしてその方策を検討すること
エネルギー基本計画の議論においては、2030年のエネルギーミックスについて思考停止状態を脱せず、各エネルギーの数値はそのままとなった。しかし2050年80%削減、その近い先に脱炭素化するためには、化石燃料依存からの脱却は必須である。よって、思考停止におちいることなく、明確に化石燃料依存からの脱却、あるいは化石燃料からの無排出を前提とした具体的な実施策を検討することが必要である。
化石燃料脱却を見据えるならば、たとえば現状進められている石炭火力の新増設などはあり得ないことが明白となる。
4) 原子力依存からの脱却
東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から7年がたっても、事態は収束に向かっていないこと、核廃棄物の処理に目処が立っていないことなどを考えると、原子力というエネルギーからは脱却していく必要がある。原発の段階的廃止の方針を明確にするべきである。
5) 再生可能エネルギーを主力とするエネルギー構成の実現
2050年に向けた長期戦略においては、安全な国産エネルギーである再生可能エネルギーを最大限活用すべきことは自明の理である。経産省の有識者会合「エネルギー情勢懇談会」がまとめた提言によって、はじめて再エネの「主力電源化」を目指すことが位置づけられたが、すでに世界から周回遅れとなっている日本の再エネの導入は、国を挙げて加速していく必要がある。
早くから再エネに取り組んできた先進国のみならず、中国やインドなどの新興国においても再エネが大量導入されてきた結果、再エネは他のエネルギーに比較してもコスト競争力は増すばかりである。日本においてもコストのとらえ方を刷新し、国内産業活動と雇用を活性化する再エネの大量導入の道筋を明確化することが求められる。特に旧態依然とした系統の運用を抜本的に改めることは急務であり、現状ある設備を最大限に活用しながら現実的に大量導入する道筋を描いていかなければならない。
6) 国際貢献の責任
パリ協定に定められた途上国の温暖化対策に対する支援として、日本の国際貢献の方針も明確にすること。日本には今後のパリ協定の実効力を高めていく役割として、途上国の緩和や適応に対する支援が期待されている。
パリ協定の下で、途上国は自国に目標の中で、どのような支援が必要かという情報を提示している例もある。そうした情報を手がかりに、真に求められる支援を提供しつつ、日本が国際貢献を果たしていくための指針を、国内の脱炭素化目標とは別に示すことが求められる。
今後の議論の進め方について
1)~6)までいずれも、2050年を見据えた明確な方針と可能な限り定量的な目標を定めるべきである。そして、その長期戦略からバックキャスティングして、温室効果ガス削減目標から部門ごとの省エネ・脱炭素化目標、再エネ目標など2040年、2030年、さらには2020年の目標見直しを含めて、道程表を具体的に決めていくことが求められる。
また、議論に際しては、多様なステークホルダーの関与を経る議論の実現が肝心である。政府系や産業界系の研究だけではなく、独立した研究も参照し、国際的な動向にも目を配って、国内目線のみの議論に終始することは避けるべきである。特に産業界においてもグローバル企業を中心にパリ協定に沿った先進的な温暖化対策を推進する企業が主流化している中、旧態依然のままの産業界の声をもって、日本全体の産業界の代表とすることは避けなければならない。
WWFシナリオの紹介
WWFジャパンでは、日本が脱炭素社会をけん引する経済を実現するエネルギーシナリオを2011年から2017年にかけて5回に分けて提案している。特に2017年に発表した『脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017』においては、100%自然エネルギーシナリオおよび2050年80%温室効果ガス削減のシナリオ(脱炭素社会に向けたブリッジという意味でブリッジシナリオと呼ぶ)を発表し、長期戦略の議論に貢献することを願っている。その中では、部門ごとに、今ある技術の延長線上で可能となる省エネを定量的に算定し、さらに熱燃料需要を含むエネルギーの脱炭素化を図る道筋を具体的に描いている。
建設的な長期戦略の議論に資することを願ってやまない。