©Tania Curry / WWF-US

ワシントン条約CoP19-課題を抱える日本の象牙取引

この記事のポイント
2022年11月14日よりワシントン条約の第19回締約国会議がパナマ共和国にて開幕しました。世界の野生生物取引について締約国が一同に会し議論が交わされています。特に日本がかかわりの深い議題の中でも、アフリカゾウの象牙について、国内象牙市場を維持する日本に注目が集まっています。そのような中、インターネットでの象牙取引について最新の調査に基づいた問題提起がされています。トラ・ゾウ保護基金が実施した調査結果から見えてきた今の日本の象牙取引について考えます。
目次

国際的な象牙取引規制の動向

象牙を目的としたアフリカゾウの密猟を阻止するために、いま国際社会は一丸となって取り組みを進めています。

野生生物を過度な取引から守るために1973年に制定された「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)」では、この象牙の国際的な取引規制について長年議論を続けています。

ワシントン条約は、国際取引のルールを定めるものですが、2016年、各国・地域が有する国内象牙市場、つまり国内取引についても厳しい目を向け、厳格な措置を取ることを求める決議を採択しました。

「決議10.10:ゾウの標本の取引」の中で言及された、「ゾウの密猟や、象牙の違法取引に寄与する国内市場を閉鎖するよう勧告する」という内容です。

この決議が採択された前後に、国内象牙市場を有する主要な国・地域(中国、香港、アメリカ、イギリスなど)が、国・域内での象牙取引を禁止とする措置を講じています。

インターネットでの象牙取引

日本では、現在でも国内の象牙取引を合法的に行なうことができますが、対策強化の機運が高まる中、企業による取り組みが進んでいます。

特にインターネットでの象牙取引については、匿名性が高いことなどから、無規制に行われる取引が横行していることが課題として指摘されていました。

そうしたことから2017年以降、インターネットでの取引の場を提供する楽天株式会社や株式会社メルカリ、ヤフー株式会社などeコマース企業が、自社プラットフォーム内での象牙販売を、自主的に禁止する措置を導入しています。

特に販売量の多かったヤフオク!とヤフーショッピングにおいて象牙販売が禁止されたことは、市場に大きなインパクトを与えました。

象牙の販売量の削減に繋がっただけでなく、企業として、国際情勢を鑑みた取り組みの一つとして、違法取引撲滅に向けた強いメッセージとして社会に伝わりました。

企業による自主規制の限界 -解決されない国内課題

一方で、NPO法人トラ・ゾウ保護基金が実施した、ヤフオク!に対する最新の落札状況の調査結果によると、象牙販売禁止措置後、象牙類似素材が、「象牙風」「象牙調」または「象牙様」等の表示で、多数落札されている傾向が明らかになりました。

ヤフオク!における象牙販売を禁止する前の1年間(2018年11月1日~2019年10月31日)と最近1年間(2021年7月1日~2022年6月30日)それぞれの、類似素材(「本象牙」「象牙風」「象牙調」「象牙様」等)の落札状況の比較(上:カットピース、下:製品)

ヤフオク!における象牙販売を禁止する前の1年間(2018年11月1日~2019年10月31日)と最近1年間(2021年7月1日~2022年6月30日)それぞれの、類似素材(「本象牙」「象牙風」「象牙調」「象牙様」等)の落札状況の比較(上:カットピース、下:製品)
出典)日本の違法な象牙輸出に関する中国の判例分析(2022年11月、認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金)より

これらは、本物の象牙と同等の金額または、それ以上で落札されていることから、本物の象牙を象牙ではないように謳って出品している可能性があると、報告書は結論づけています。

また、調査の結果は、禁止に抵触するアルゴリズムと表示の仕方を避けることで、象牙・象牙製品を未だに高額で販売できる状況にあることを示すと共に、企業側の自主的禁止に基づく監視と取り締まりだけに、問題解決のすべてを委ねることには、困難があることを示していると言及しています。

▼関連資料
NPO法人トラ・ゾウ保護基金『象牙密輸業者の入手先:日本の違法な象牙輸出に関する中国判例の分析』(2022年)[外部サイト]

この傾向は、2020年にWWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICが行なった調査結果でも示唆されていた内容に一致しており、今回の調査によって、日本の象牙の国内取引の問題が、今も解決していないことが示されました。

改善には、企業の自主的な取り組みだけでなく、政策を通じた国内規制の強化が必要です。

▼関連資料:
『TEETERING ON THE BRINK:日本のオンライン象牙取引』

©WWF / Mike Goldwater

国際交渉で注目される日本の象牙

このような取り組みについての国の方針を定め、実際の政策に影響を及ぼすのが、各国が参加する国際条約の決議です。

2022年11月14日よりパナマ共和国で開幕した第19回ワシントン条約締約国会議(CoP19)も、そうした場の一つです。

今回の会議では、日本の国内象牙市場の現状を疑問視し、国の対策が不十分であると指摘する文書が提出されています。

近年、日本にある在庫象牙が、中国を中心とした海外へ違法に流出する事件が発生しているためです。

ワシントン条約のCoP19の関連する審議の中では、日本の国内象牙市場は閉鎖すべき、という強い声も締約国から上がりました。

今回明らかになったようなインターネットでの不適切な売買は、違法輸出にかかわる象牙の調達ルートとして活用される可能性も考えられます。

企業による自主的な取り組みは、法的拘束力がありません。
日本政府が、法的な枠組みによって対処することが早急に必要です。

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