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ペット利用される野生生物のオンライン取引の課題~両生類のスナップショット分析から考える~

この記事のポイント
野生生物を野生から捕獲し、取引することは生物多様性を損なう大きな要因の一つです。近年は、インターネットを使ったオンライン取引も拡大。しかし、その全容は明らかになっていません。そこでWWFジャパンでは2024年、ペット取引される両生類に焦点をあてた取引調査を実施。野生生物のオンライン取引には、どのような課題があるのかをまとめた報告書を発表しました。また、オンラインプラットフォームを運営する企業には、どのような対策が求められるのか。報告書ではこれらの点を考察し、野生生物の取引のあり方を見直すよう提案しています。
目次

【報告書】
両生類のスナップショット分析から考える
ペット利用される野生生物の
オンライン取引の課題
~問われるプラットフォームの責任~


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オンライン取引が野生生物を脅かす

日本のインターネットの普及率は2022年時点で84.9%にのぼり、また世帯あたりのスマートフォン普及率は90%を超え、オンラインでの取引もますます気軽に行なわれるようになりました。

しかし、これに伴い、ペット利用される野生生物もオンライン上で活発に取引されるようになりました。

こうした事態は、絶滅が心配される野生生物種や生態系に、深刻な影響を及ぼすおそれがあります。

なぜなら、オンラインでの取引が活発になれば、野生動物の捕獲圧を高め、直接的に絶滅に追い込む脅威となるからです。

さらに、その野生動物が生息する地域で、特定の種(しゅ)だけがいなくなったり、減少すれば、その生きものを食べたり、食べられたりしている他の野生生物も影響を受けます。

食物連鎖のつながりを通じて、生態系全体にも、大きな影響を及ぼすことが懸念されるのです。

特に、法的な保護の対象となっていない絶滅危機種の取引には注意が必要です。

レッドリストで、絶滅危機種に選定されていても、法的な保護下に置かれていない野生生物は、数多くいるためです。

そして、こうした保護の対象となっていない野生生物が、日本では現在、オンラインで制限なく取引されているのです。

ファイアサラマンダー(Salamandra salamandra)。IUCN レッドリストで危急種(VU)。「捕獲」が種の存続の脅威の一つ。
© Wild Wonders of Europe / Maurizio Biancarelli / WWF

ファイアサラマンダー(Salamandra salamandra)。IUCN レッドリストで危急種(VU)。「捕獲」が種の存続の脅威の一つ。

これまでのオンラインプラットフォームの取り組みと現状

しかし、こうしたオンラインでの野生生物取引の実態は、これまで明らかにされてきませんでした。

特に、店舗や企業によるネット販売といった「BtoCプラットフォーム(事業者と一般消費者(個人)間の取引プラットフォーム)」については、対策が不十分な状況です。

これまで、ネットオークションのような「CtoCプラットフォーム(一般消費者(個人)間の取引プラットフォーム)」については、生きた野生生物取引の課題が顕在化していたことから、一部の企業が対策を実施。

たとえば、LINE ヤフー株式会社の運営するYahoo! オークション(旧:ヤフオク)では、環境省のレッドリストに掲載されている野生動物の個人による出品禁止や、野生から捕獲された両生類の出品禁止をルール化するなど、法律の規制以上の対策を行なっています。

一方、国内の大手BtoCプラットフォームである楽天市場やYahoo!ショッピングでは、依然「法律に違反しない限り」野生生物の生体取引が可能な状況にあります。

また、BtoC プラットフォームの取引は、事業者が主体となるため、取扱量が多く、種や生態系に与える影響も大きくなると考えられる上、取引の全体像をつかむことも難しい状況にあります。

そこでWWFジャパンでは、BtoCプラットフォームにおける野生生物の取引の実態を把握するため、2024年8月、楽天市場とYahoo!ショッピングを対象に「スナップショット分析」を実施しました。

これは、ある一時点でプラットフォーム上に掲載されている出品を確認し、実際にどのような商品が販売されているかを分析するものです。

この分析では、これまでにも活発なオンライン取引が確認され、その影響が懸念されている、カエルやイモリなどの両生類の生体に焦点をあてました。

両生類のスナップショット分析から見えてきた課題

実施した両生類のスナップショット分析の結果、大きく2つの課題が浮き彫りとなりました。
・課題1 取引の影響を受けやすい野生生物の活発な取引
・課題2 由来や捕獲地といった情報が不十分な取引

課題1 取引の影響を受けやすい野生生物の活発な取引

絶滅危機種や近危急種のオンライン販売の対象に

世界各地に生息している動植物の絶滅の危機についてはIUCN(国際自然保護連合)の レッドリストが、日本に生息する動植物の絶滅の危機については環境省・地方自治体のレッドリストが、危機の高さを評価しています。

しかし、レッドリストに掲載されても、法的な保護が約束されるわけではありません。
こうした法的な保護の対象となっていない絶滅危機種が、現在の日本では「合法的に」捕獲され、オンライン上でも制限なく取引されているのです。

IUCN レッドリスト掲載状況

IUCN レッドリスト掲載状況

今回実施した両生類のスナップショット分析からは、販売されていたおよそ4分の1に及ぶ種が、IUCNのレッドリストの絶滅危機種(CR、EN、VU)または、近危急種(NT)であったことがわかりました。

また、日本に生息する在来種だけでみると、36%が環境省のレッドリストで準絶滅危惧種(近危急種相当,NT)に選定されている種でした。

このように絶滅のおそれの懸念のある種の活発な取引が確認され、オンライン上の取引が、種や生態系に影響を及ぼす可能性がある実態が明らかとなりました。

キンイロアデガエル(Mantella aurantiaca )。IUCN レッドリストでは絶滅危惧種(EN)、ワシントン条約附属書Ⅱ。個体数が減少傾向にある。今回のBtoCプラットフォームの実態調査の中でも販売広告を確認している。
© Martin Harvey / WWF

キンイロアデガエル(Mantella aurantiaca )。IUCN レッドリストでは絶滅危惧種(EN)、ワシントン条約附属書Ⅱ。個体数が減少傾向にある。今回のBtoCプラットフォームの実態調査の中でも販売広告を確認している。

「捕獲」が脅威と特定された野生生物の活発な取引

現在はまだ絶滅危機種と評価されていない野生生物であっても、「捕獲」されることが種の存続の脅威となっている野生生物にとっては、活発な取引によって引き起こされる過剰な捕獲は種への重大な脅威となります。

シリケンイモリ(Cynops ensicauda)。IUCN のレッドリストで危急種(VU)、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種(NT)。環境省のレッドリストにおいて「成熟個体の乱獲」が脅威の一つであることが指摘されている中、イモリブームをきっかけにオンライン取引が増加したと考えられる。その生息地の一つである奄美大島では、生息地の池からシリケンイモリがある日忽然と姿を消すといった例や、島外へ輸送される貨物として数百頭単位で持ち出される事例も確認されている。
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シリケンイモリ(Cynops ensicauda)。IUCN のレッドリストで危急種(VU)、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種(NT)。環境省のレッドリストにおいて「成熟個体の乱獲」が脅威の一つであることが指摘されている中、イモリブームをきっかけにオンライン取引が増加したと考えられる。その生息地の一つである奄美大島では、生息地の池からシリケンイモリがある日忽然と姿を消すといった例や、島外へ輸送される貨物として数百頭単位で持ち出される事例も確認されている。

IUCNのレッドリストは、野生生物の絶滅危機の要因を、大きく12の項目に分けており、ペット目的などの捕獲による影響も危機の要因として挙げられています。
今回の調査では、これに相当する種の出品が、出品のどのくらいの割合を占めたのかも確認しました。

「捕獲」が種の脅威と特定されている種の出品の割合

「捕獲」が種の脅威と特定されている種の出品の割合

その結果、既に捕獲による影響が、大きな脅威として特定されている両生類の販売事例が、70%にのぼることが明らかになりました。

こうした実態も、活発な取引が捕獲に拍車をかけ、種や生態系に影響を及ぼす懸念の大きさを示しています。

課題2 由来や捕獲地といった情報が不十分な取引

どこからやってきたのか分からない野生生物

野生生物の生体取引の対象は、大きく下記の3つに分けられます。

  1. 野生から捕獲された個体の取引
  2. 野生から捕獲された個体を飼育下で繁殖させた個体の取引
  3. 飼育下で繁殖させた個体を、さらに繁殖させた個体の取引

この中で、1)の「野生から捕獲された個体の取引」は、より直接的に種や生態系に影響を与える可能性があります。

そのため、野生生物の生体取引では、取引される個体の由来(どこで、どのように入手されたか)に関する情報を把握し、取引による影響を判断できる状況にすることが重要です。

また、同じ「種」でも、生息地や地域個体群ごとに絶滅のおそれの度合いが異なります。捕獲する場所によっては、その種は存続する上で、大きな影響を受ける可能性があるのです。

こうした個体群を守るため、地域によっては条例などにより、捕獲規制が設けられている場合もあります。
しかし、販売に際しては、これらの情報を明記する法的義務がないため、個体の情報が不十分な状態で取引される例も確認されています。

今回のスナップショット分析の結果からは、確認したすべての出品件数585件のうち、3分の1以上(40%)については、由来の記載がありませんでした。

さらに、野生捕獲と明記して販売している例であっても、捕獲地の記載が無く、合法性の判断ができない例も確認されています。

このような状況のまま、野生生物取引が継続・拡大すれば、生態系や地域個体群が影響を被るが懸念されます。

アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)。IUCN のレッドリスト及び環境省のレッドリストでそれぞれNT(近危急種、準絶滅危惧種)に選定されている。分析の結果、在来種で一番多くの出品が確認され、そのうち34%には由来の記載が欠如していた。
© Taichiro Oda

アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)。IUCN のレッドリスト及び環境省のレッドリストでそれぞれNT(近危急種、準絶滅危惧種)に選定されている。分析の結果、在来種で一番多くの出品が確認され、そのうち34%には由来の記載が欠如していた。

今回の分析は、対象を両生類の生体に絞って実施しましたが、実際には他の分類群(魚類や節足動物)も、ペット利用などを目的としたオンライン取引の対象となっています。
そしてこうした野生生物についても、両生類と共通した課題がすでに確認されています。

オンラインプラットフォームの担う責任

今回実施したスナップショット分析では、BtoCプラットフォームにおける野生生物取引のあり方について見直しをする必要があることが明らかになりました。

今後もますます拡大・複雑化することが予測されるオンライン市場においては、野生生物の取引の実態を早急に把握し、生物多様性に及ぼす影響を認識する必要があります。

そのためには、オンラインプラットフォームを運営する企業が、種や生態系に影響を及ぼさない、健全なプラットフォームをサービスとして提供することが欠かせません。

具体的な施策を実行するにあたって重要なことは、企業方針の中にまず、野生生物の取引に関する事項を組み込むなど、社として取り組むべき課題に、これを位置づけることです。

WWFジャパンは、そのために企業が以下のプロセスを取るべきであると考えます。

1 理解し、把握する

担当部署やその関連部署において、プラットフォーム上での制限のない野生生物の取引が種や生態系にとって脅威になりえることを理解し、種や生態系に影響を及ぼす懸念のある自社プラットフォーム上の野生生物取引を抽出し、課題を把握する。


2 対処すべきものとして位置付ける
各課題がプラットフォーム運営側/者の責任であることを認識し、自社が取り組むべき課題として位置づけ、広く社内で認知、社内方針やポリシーを策定するなど対応に向けた体制を整備する。


3 適切に運営する・取引環境を整備する
種や生態系に影響を及ぼす懸念のある野生生物取引を削減するため、オンライン取引への課題について事業者や消費者への理解を促し、プラットフォームの環境を整備する施策を積極的に行なう。

  • プラットフォームを利用する事業者、消費者に対しても野生生物取引の課題が理解されるように積極的な情報提供・発信を行なう。
  • 事業者に対し、取引対象となっている野生生物の情報(種名、由来や捕獲地を含め、個体に関する具体的な情報)を明確にするように求めるなど、自社のプラットフォーム上での野生生物取引の状況を把握する。
  • 野生生物の生体取引について、自主的な取引ルール(取り扱い可能な野生生物の範囲の限定/野生生物の情報の明示)を策定する。

生物多様性の豊かさが1970年と比較して73%も劣化したと推定されるほど「待ったなし」の危機的な状況の下、関連企業にはオンラインプラットフォームの改善を通じた、積極的な取り組みが求められています。

【報告書】
両生類のスナップショット分析から考える
ペット利用される野生生物の
オンライン取引の課題
~問われるプラットフォームの責任~


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