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ブルーエコノミーとブルーファインナンス

この記事のポイント
海洋環境の悪化と海洋資源の枯渇が深刻化する中、海洋環境や資源を保全しながら、持続可能な経済活動を行う「ブルーエコノミー(海洋経済)」と、そのための資金調達や金融機関による投融資である「ブルーファイナンス」の重要性が世界的に注目を集めています。海洋保全を加速化するための施策ですが、日本での取り組みはまだ始まったばかりです。
目次

悪化する海洋環境と海洋資源

失われる海洋の生物多様性

WWF(2015)によると、海洋の生物多様性はこの1970からの約40年間で49%が失われたといわれています。中でも人による消費が大きいサバ科魚類については74%も減少したといわれています(図1)。

図1:海洋生物の生物多様性指数 (WWF(2015)Living Blue Planet Report.) 人為的活動の影響が大きい生物ほど生物多様性指数の減少が大きい。

図1:海洋生物の生物多様性指数 (WWF(2015)Living Blue Planet Report.)
人為的活動の影響が大きい生物ほど生物多様性指数の減少が大きい。

陸と接する沿岸・河口域は特に人為的な影響が大きく、急速に環境の劣化、生物多様性の損失が起こっており、早急な対策と保全が必要です。

サンゴ礁は、過去30年間ですでに約50%が失われ1)、今後海水温の上昇等により、70~90%が消失するといわれています2)
干潟は、日本では戦後40%が埋め立て等により消失し3)、残された干潟も環境の悪化が続いています。
海草藻場は、世界中でこれまでに30%が消失しました4)
マングローブは、1940年以降、全世界のマングローブの50%が失われ、今もなお年間2万ヘクタールが失われています5)

© Lewis Jefferies / WWF-UK

こうした沿岸環境は多様な生態系サービス(自然の恵み)をもたらします。食用となる魚類等を含む多様な生物の生息場所、水質浄化、海岸線の保護、レジャー利用などです。
さらには、こうした沿岸の植生は、光合成を通じて二酸化炭素を吸収し有機物(炭素化合物)を合成していますが。近年、こうして合成された炭素化合物の相当数が、長い間分解されずに海底に保存(貯留)されることが明らかになりました。海水中への直接的な二酸化炭素の吸収だけではなく、このような沿岸生態系を主体とした海洋の二酸化炭素の吸収・固定能力は、森林生態系に匹敵すると言われており、従来のグリーンカーボンとは区別して、ブルーカーボンとして注目を集めています。

持続可能な水産業の必要性

海洋資源を利用する産業の代表が水産業です。しかしながら、世界の水産資源は約3分の1が過剰漁獲の状態で、漁獲枠に余力がある水産資源は1割にも満たないといわれています。日本周辺においても、過半数を超える資源が「漁獲圧が高い」もしくは「産卵親魚が少ない」状態と評価されています。かつて大衆魚といわれていた、サンマやスルメイカ、サケなどで資源の枯渇が続いています。

図2.世界の水産資源の現状。持続可能な水準を維持している水産資源の割合は減少傾向にある。

図2.世界の水産資源の現状。持続可能な水準を維持している水産資源の割合は減少傾向にある。

こうした水産資源の枯渇は、必ずしも過剰漁獲だけが要因ではありませんが、漁業・養殖業は、資源以外にも様々な環境や社会への影響が指摘されています。

一例をあげると、
・漁業による環境・社会への影響として、対象魚種以外の混獲、海底環境へのダメージ、流失漁具によるゴーストフィッシング、IUU漁業、乗組員への虐待・不当な待遇など。

・養殖業による環境・社会への影響として、水質や海底環境の悪化、餌原料の持続可能性とトレーサビリティ、稚魚や親魚の持続的利用、抗生物質の乱用による耐性菌の発生、異臭や騒音、児童労働を含む労働者の不当な待遇など、
があります。

© Martin Harvey / WWF

参考
・持続可能な漁業の推進
・IUU漁業について

海洋の保全と調和した経済活動:ブルーエコノミーとは

拡大するブルーファイナンスへの期待

ブルーエコノミーとは、単に海洋を利用した経済活動そのものを指す用語として用いられることもありますが、世界銀行では「海洋生態系の健全性を維持しながら、経済成長、生計の向上、雇用のために海洋資源を持続的に利用すること」と定義しています。

海洋に関連する経済活動は、水産業、港湾事業、運輸、海底資源採掘、観光レジャー、洋上風力発電など多岐にわたりますが、海洋環境が急速に悪化し、その資源の枯渇が深刻化する中、従前の経済活動は、様々な環境上・社会上のリスクを抱えており、経済的発展はおろか、事業の持続可能性そのものを危うくしています。

こうした中、海洋環境の保全に貢献し、かつ持続可能な海洋資源の利用を促進するブルーエコノミーの拡大が求められており、そのための資金調達とESG投融資(注2)であるブルーファイナンスが、今世界中の金融機関と投資家に求められています。

© Jürgen Freund / WWF

日本では、ブルーファイナンスに関連した動きも出始めていますが、海洋分野に関する投融資方針を打ち出した金融機関はまだなく(2023年4月現在)、出遅れているのが現状です。

四方を海に囲まれ、世界第6位の広さの排他的経済水域を持つ日本は、ブルーエコノミーの分野で大きな可能性があるとされているいっぽう、ブルーファイアナンスの積極的拡大も期待されています。
注2:環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に着目した投融資

参考:
・ABOVE BOARD: 2022 Baseline Assessment of Banks’ Seafood Sector Policies (SUSBA).
・GETTING UNDERWAY: 2022 Baseline Assessment of Asset Managers’ Approaches to Addressing Environmental and Social Risks in Seafood-Related Investments (RESPOND).

日本の金融機関に求められること

WWFはブルーファイナンス拡大のため、日本の金融機関に以下の点を求めています。

・ 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)の「持続可能なブルーエコノミー・ファイナンスの原則」に署名または参加する。
・ 持続可能な海洋および沿岸利用、水産業に関する投融資方針を策定し、投融資先の条件に組み入れる。
・ 海洋環境の保全や持続可能性を向上に寄与するプロジェクト・ビジネスへのインパクトファンドを設立する。
・ 投融資先に積極的に関与(エンゲージ)し、事業の持続可能性向上に寄与する。

さらに詳しく知りたい方は:
1. 資料集(準備中)
2. Eラーニング(準備中)
3. SASBA(https://www.wwf.or.jp/activities/lib/5260.html )とRESPOND(https://www.wwf.or.jp/activities/lib/4923.html )(WWFジャパン)

引用
1) WWF (2015) Reviving the Ocean Economy. The Case for Action -2015.
2) IPCC (2018) Global Warming of 1,5ºC.
3) 花輪伸一 (2006) 日本の干潟の現状と未来
4) Waycott et al. (2009) Accelerating loss of seagrasses across the globe threatens coastal ecosystems.
5) FAO (2020) Global Forest Resources Assessment 2020.

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