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【参加報告】SBSTTA26/SBI4 ~CBD COP前哨戦! 意欲的な生物多様性世界目標の達成のために

この記事のポイント
2024年5月12日から29日、ケニアのナイロビで、生物多様性条約の準備会合SBSTTA26およびSBI4が開催されました。これは10月に開催予定の同条約の締約国会議「CBD COP16」に向け、「昆明モントリオール生物多様性枠組」(KMGBF)実施のための、重要な論点整理を行なう会合です。今回の議論では、KMGBFの進捗をはかる「指標」の一つ「バイナリー指標」について、一定の成果があったものの、「資源動員」についての課題点も多く浮き彫りになりました。現地で会議に参加したWWFジャパンのスタッフが、議論の様子を報告いたします。
目次

生物多様性条約会議「CBD COP16」の前哨戦

2024年5月12日から29日まで、ケニアのナイロビにある国連環境計画(UNEP)本部で、生物多様性条約の2つの準備会合が開催されました。

  • SBSTTA26(第26回科学技術助言補助機関会合:5月12日~18日)
  • SBI4(第4回実施補助機関会合:5月21日~29日)

これら二つの会議は、2024年10月にコロンビアで開催される、第16回生物多様性条約締約国会議(CBD COP16)に向けた事前の国際交渉です。

CBD COP16において議論が円滑に進み、より意義のある合意が実現できるように、事前に論点を整理することが、その目的です。

今回の会合には、日本を含む生物多様性条約の締約国や、WWFを含むNGOをはじめ、各関係機関や団体の関係者、およそ1,000人が参加登録をし、毎日長時間にわたる議論を繰り広げました。

SBSTTAおよびSBI。本会議の様子
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SBSTTAおよびSBIの本会議の様子

昆明・モントリオール生物多様性枠組をどう達成するか

生物多様性に関する近年の際立った進捗として、2022年12月のCBD COP15で合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(KMGBF:Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)があります。

KMGBFは、日本を含む生物多様性条約の加盟国が、生物多様性保全のため達成すべき、2030年までの23個の短期目標と、2050年までの4個の長期目標を定めたものです。

そして、2024年10月のCBD COP16は、KMGBFが合意されてから最初となる締約国会議です。

当然、論点は「どのようにしたらKMGBFの目標を確実に達成できるか」という点、言ってみれば「フォローアップ方法」に集中します。

今回開催されたSBSTTA26とSBI4でも、そのフォローアップ方法における論点の洗い出しや深堀がなされました。

過去の国際目標の失敗を繰り返さないために

この会議での議論が重要な理由は、過去に繰り返されてきた、生物多様性保全の国際目標が、大きな成果を挙げてこなかった過去にあります。

最初は、2002年にオランダのハーグで開催されたCBD COP6において、2010年までの目標「戦略計画」が合意されました。

その次は、2010年に愛知県で開催されたCBD COP10において2020年までの目標「愛知目標」が合意されました。

しかし、この過去二度の国際目標は、残念ながら十分に達成されませんでした。

愛知目標について言えば、国連の生物多様性条約事務局が発行している「地球規模生物多様性概況第5版」で、「ほとんどの愛知目標についてかなりの進捗が見られたものの、20の個別目標で完全に達成できたものはない」と評価されています。

こうした経緯もあり、新しい国際目標であるKMGBFについては、確実に達成できるようなフォローアップ方法を確立する必要があります。

SBSTTA26およびSBI4での成果と課題

成果:バイナリー指標に関する議論

過去の国際目標が失敗した理由の一つに、その達成度の確認や評価を、各国任せにしていた点があります。

KMGBFではこれを改善するため、23個の目標ごとに「指標」を設定することとしています。

指標と言っても、例えば「環境中に流出する過剰な栄養素を少なくとも半減する:目標7(a)」など、数値目標を含んでいて達成の成否が客観的に判断できるものもあれば、「すべての地域が…生物多様性に配慮した空間計画及び/又は効果的な管理プロセスの下にある:目標1」など、数値目標がなく達成の成否が客観的に判断できないものもあります。

こうした指標については、「バイナリー指標(Binary indicator)」を設け、国別報告書の中で各国が報告する際の基準とすることを目指しています。

このバイナリー指標は、数値などで成果や進捗が示しにくい目標の達成をはかるためのもので、「はい」「いいえ」「一部該当」といった選択肢で評価するものです。

今回の会合では、これまでの会議ではまとまらなかったバイナリー指標の案について具体的な議論がなされ、CBD COP16での合意に向けたステップを固めることができました。

数ある議題の中で、これはSBSTTA26およびSBI4が手にした成果の一つといえます。

課題:資金の問題「資源動員」

一方で、紛糾した議論もありました。その一つが、「資源動員(Resource mobilization)」、すなわち「資金」の話です。

開発途上国や島しょ国では、生物多様性保全の取り組みに必要な資金が不足している例が多くあります。

そこで、生物多様性条約では、先進国側がこれに資金援助して、活動を支援することが合意されています。

KMGBFの達成に向けては、計画的な資金援助が実現できるように「世界生物多様性枠組み基金」(GBFファンド)が設置され、2023年8月より運用が開始されています。

この基金には、2024年5月時点で、カナダ、ドイツ、日本、ルクセンブルク、スペイン、イギリスが、計2.25億米ドルの資金を拠出。すでに24か国に対し、計1.1億米ドルの資金援助をしてきました。

しかしながら、生物多様性条約加盟国の中からは、「真にKMGBFの目標達成に沿った運用がなされていない」と、GBFファンドを非難し、新しい基金の設置を求める声が出ています。

これに対し、「新基金の設置は混乱を生み時間もかかるので、GBFファンドを上手に使うべき」という反対意見も出ており、議論の収束が見通せない状況です。

適切で迅速な資金援助を通じ、いかに地球規模の生物多様性保全の取り組みを進めていくか。

資金の問題は引き続き、CBD COP16に向けた大きな課題となる見込みです。

課題:生物多様性に有害な補助金

SBSTTA26およびSBI4では具体的な議論の時間がありませんでしたが、忘れてはならない論点として、世界の生物多様性を損なうことにつながる有害な補助金を減らすことがあります。

KMGBFには、「補助金を含む生物多様性に有害なインセンティブを2025年までに特定し、廃止、段階的廃止又は改革する」という目標があります。

生物多様性条約の文脈では有害なインセンティブの明確な国際的定義はまだありませんが、近年の議論では、農業補助金が多く該当するだろう、と指摘されています。

農業補助金が生物多様性に有害と見なされる理由は、農業のコスト低減、あるいは生産性向上のために、大規模化や農業資材購入に充てられる補助金が、生態系に配慮のない農業の大規模化を促進し、動植物の生息地を破壊することにつながるためです。

さらに、同じく農業補助金による過度な肥料や農薬の投入は、土地や付近の流域を汚染する可能性があります。

また、温室ハウスや漁船で使用する燃油に対する補助も、気候変動を助長するため、生物多様性の破壊につながることが指摘されています。

こうした理由から、生物多様性金融イニシアチブ(BIOFIN)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関が、農業補助金の生物多様性への有害性を指摘してきました。

とはいえ、この補助金で生計を立てている人も世界には多いため、打ち切るには代替案が必要です。しかし、その代替案は生物多様性に配慮したものである必要があるため、科学的根拠に基づいて検討される必要があります。

しかし一方で、生物多様性に配慮した新しい農業支援を全世界で確立するには、当然時間がかかります。有害な補助金を「2025年までに特定し、廃止、段階的廃止又は改革」することの達成は、技術的に厳しいと見る向きもあります。

そうした中でKMGBFの目標達成を優先するならば、旧来の農業支援を、いずれかの段階で政治的判断で打ち切る必要がある可能性があります。

会議中、ある研究者の方が、次のような主旨の発言をされていました。

「有害補助金の問題は非常に政治的だ。できれば完全な科学的根拠を待ちたいが、それだけの時間はもう残されていない。私たちは、いずれかの段階で、政治的判断を求められることになるだろう」

この発言は、非常に正鵠を射たものです。

日本を含む生物多様性条約の各締約国は、CBD COP16に向けて、こうした課題にも向き合っていくことになります。

CBD COP16に向けて:WWFの取り組み

今回の会議では、「バイナリー指標」の設定や「資源動員」の他にも、「生物多様性の観点から重要度の高い海域(EBSA)」の抽出方法や、KMGBFの実施状況をフォローする「グローバルレビュー」の具体的方法など、多くの主要議題がありました。

WWFは、今回のSBSTTA26およびSBI4に、日本を含む世界各国の事務局から合計24名のスタッフを派遣しました。

議論の行方を追いつつ、KMGBFの確実な目標達成に向けて、情報の収集と各国政府代表への働きかけを行ないました。

しかし、バイナリー指標などで成果が得られた一方、その他の多くの議題では、序論に時間を取られ、本来議論すべき本質的な課題に踏み込めませんでした。

その結果、会議の成果文書には、議論をCBD COP16に委ねるためのカギ括弧が多く付けられています。

KMGBFを達成するためには、一刻も早く、全世界が一丸となった取り組みを進めていく必要があります。

WWFは今後、CBD COP16に向け、残された問題点を整理しながら、より確実なKMGBFの実施を可能にするための政策提言に取り組んでいきます。

また、現在、日本国内においても、ネイチャー・ポジティブの実現に向けた官民の取り組みが多く見られます。こうした取り組みの一つ一つがKMGBFの達成に確実に資するよう、政府や国会議員への働きかけに取り組んでいきます。

【6月12日】報告会開催のお知らせ

2024年5月に開催された、生物多様性条約のSBSTTA26およびSBI4のオンライン報告会を、国際自然保護連合日本委員会と共催します。ご関心のある方はぜひご参加ください。

▼ご案内・参加お申し込みはこちら

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