見せかけの環境配慮「グリーンウォッシュ」にNo!強まる取り締まりの動き
2024/10/03
- この記事のポイント
- 自社の環境配慮を謳った、さまざまな宣伝文句。今や、SDGs(持続可能な開発目標)に関連した活動や、気候変動対策としてのSBT認定の取得といった、さまざまな環境保全の取り組みが、企業のブランドイメージを大きく左右する重要な要素となっています。しかし、その実態はどうなのか。見せかけだけの環境配慮、いわゆる「グリーンウォッシュ」を志向し、見た目のイメージだけで終わっている企業も、実は少なくありません。2024年10月、南米のコロンビアで開催される、第16回生物多様性条約締約国会議(CBD COP16)を前に、グリーンウォッシュの問題と、その取り締まりに向けた世界の動きを紹介します。
グリーンウォッシュはなぜ問題?
環境保全や環境配慮が、ビジネスやさまざまなサービスの一部として、定着し始めています。
それは、かつてのように、危機感を持った一部の人たちの取り組みや努力にとどまるものではなく、世界的な経済活動の一部として、実質的に機能し始めているといってよいでしょう。
経済活動の根幹を担う、さまざまな産業分野の企業もまた、世界の生物多様性の保全や、気候変動の抑止といった取り組みに、大きな役割と責任を負っています。
実際、産業界のサステナビリティの確立は、さまざまな産品の生産、加工、流通、消費を改善し、持続可能なライフスタイルの確立につなげる、強力な要素となっています。
しかし、こうした企業の動きが、全て「実」を伴う形で進んでいるわけではありません。
中には、環境に配慮していると「見せかけ」ながら、その裏で環境や人権への悪影響を伴うビジネスを改めていない企業は、まだ数多くあります。
このように、企業や組織が実際以上に環境に配慮していると主張・訴求する慣行を「グリーンウォッシュ」と呼びます。
世界全体が一つになって、生物多様性の回復、すなわち「ネイチャー・ポジティブ」や、2050年までの温室効果ガスの排出ゼロを指す「ネットゼロ」を実現する上で、こうした企業のグリーンウォッシュは、真に効果のある取り組みを阻害し、誤解を広げ、国際目標の達成を危うくさせる、深刻な足かせとなるものです。
特に、安易なグリーンウォッシュによるサービスや商品が出回ることは、次の点で大きな問題といえます。
- 環境に配慮した他のサービスや商品の市場評価を下げ、結果として環境リスクを増大させてしまう。
- 消費者が本当に環境に良い商品を選択したりアクセスしたりすることを妨げてしまう。
- 何が本当に環境に配慮した選択、行動なのか、誤解を与え、社会全体としての取り組みを阻害してしまう。
- その企業が行なっている、あるいは関与しているさまざまな環境破壊の実態を、よいイメージで覆い隠してしまう。
これを放置することは、これからの地球環境をさらなる危機に追い込む、深刻な要因となります。
「グリーンウォッシュ」を取り締まる時代に
グリーンウォッシュという言葉自体は、決して新しいものではなく、以前から企業が自社のブランドイメージを向上させる悪質な手立てとして、今と変わらず知られてきました。
しかし、現在の国際社会では、「グリーンウォッシュ」に対する受け止め方や、その問題性の捉え方は、大きく変わり始めています。
たとえば欧州では、グリーンウォッシュはすでに、法的な取り締まりの対象となりました。
これは、欧州理事会が2024年2月に採択した、グリーンウォッシュを禁止する指令案「環境訴求に関する共通基準を設定する指令案1」です。
この環境訴求指令案では、企業が実態の不明確な、あるいは根拠の乏しい環境配慮の取り組みを、自社の宣伝訴求すること、さらにはこうしたあいまいな環境訴求に消費者を直面させるようなマーケティング方法を規制しています。
具体的には、たとえば次のようなマーケティング方法は原則として禁止されます。
- 「環境にやさしい」、「エコフレンドリー」、「グリーン」、「エコロジカル」、「環境的に正しい」、「自然にやさしい」、「エネルギー効率が高い」、「生分解性」、「バイオベース」など、優れた環境性能を示唆したり、そのような印象を与えたりする表現を、その効果が実証できないのに広告などで謳ってはいけません。
- 温室効果ガス排出のオフセットに基づき、製品が温室効果ガス排出の面で環境に与える影響 が中立、低減、またはプラスであると主張すること
- 環境配慮をPRする訴求内容は、法律で課された要件を超えるものになっているか(つまり法律を守っているだけなのに商品の特徴として主張することは不可)
同指令案は今後、EU官報への掲載を経て施行され、EU加盟国による国内法化の後に、順次適用開始となります。
そして、これが実施された国では、日本企業もまた国内でのPRに際して、こうした観点での評価を受けることになります。
1) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/TXT/?uri=CELEX%3A32024L0825
問われる日本企業の「グリーンウォッシュ」
日本には現時点で「グリーンウォッシュ」を取り締まる法律は存在しません。
しかし今後、グリーンウォッシュを用いたマーケティングの在り方については、国際社会の一員として、日本も何らかの規制や指針が必要とされることになります。
とりわけ、このような規制や指針がない状態が続くことは、環境関連のリスクが市場で適切に評価されていないことを意味します。
そしてさらに、真に環境負荷の少ない事業や製品を実施・提供する企業の努力を無駄にしてしまう、大きな問題を呼び、これが悪循環なって、グリーンウォッシュのスパイラルを呼ぶことになるでしょう。
このスパイラルを止めるためには、企業に対する規制を強化することで、不適切な謳い文句のついた製品が市場に出回るのを防止し、同時に消費者に対する十分な情報提供により、「本物」と「グリーンウォッシュされたもの」を見極める重要性を、周知していく必要があります。
2024年10月には、南米のコロンビアで、第16回生物多様性条約締約国会議(CBD COP16)が開催されます。
この国連会議では、これからの世界の生物多様性の保全と回復に向けた、各国の意思が示されます。そうした動きの中、各国がグリーンウォッシュの問題をどう取り締まり、解決していくのか。
企業の動きと共に、注目していかねばなりません。
「グリーンウォッシュ」を見極める、WWFのガイドライン
WWFでは「WWF Guide to Green Washing」の中で、主に消費者が、企業の製品や事業が本当に環境に配慮したものか、それともグリーンウォッシュかを見極める上で重要な視点を提示しています。
それは「バズワード」、「根拠」、「検証」、そして「持続可能性」の4つで、これに注目することが有効であることを訴えています。
たとえば、企業やブランドが「バズワード」(環境にやさしい、エコ、グリーン、植物性、生分解性、カーボンニュートラルなどなど)を使って環境配慮をテーマに訴求をしている場合、実際にそれらの謳い文句が何を意味しているのか、慎重に確認する必要があります。
具体的には、裏付けとなる「根拠」が提供されているか、また、それらの訴求は、外部の第三者によって「検証」されているか、といった視点も重要です。
さらに、ビジネスや製品が「持続可能(サステナブル)」であると主張するのであれば、持続可能性の3つの柱(環境、社会、経済)のすべてが考慮されているか、という点も併せてチェックしていく必要があります。