© Joseph Gray / WWF-UK

生物多様性スクール2023第1回「生物多様性と人類」開催報告 人間というサルは、なぜ自然を破壊し続けるのか?解決のためのヒントは?

この記事のポイント
世界の生物多様性は過去50年で69%損失し、また地球の平均気温は産業革命前よりすでに1度以上上昇したと報告され、地球環境はいま、危機的な状況にあります*。WWFジャパンは、生物多様性の劣化を食い止め、回復に転じさせる「ネイチャー・ポジティブ」に向けて、著名な有識者を招いて身近な切り口で生物多様性について考えるオンラインセミナー「生物多様性スクール」を開催。2023年シリーズでは、気候(Climate)と自然・生物多様性(Nature)2つの危機の同時解決や双方への配慮をテーマにしています。3月10日に行なった第1回「生物多様性と人類」のポイントをお届けします。
目次

生物多様性と人類

第1回には、WWFジャパン理事で、総合地球環境学研究所所長、前京都大学総長の山極壽一氏を迎え、「生物多様性と人類」について考えました。山極氏は、ゴリラ研究の第一人者として霊長類学の進展に貢献し、霊長類学の観点からの現代社会の課題や環境問題への鋭い洞察が、幅広い層に支持されています。

「人間というサルは、なぜ自然を破壊し続けるのか?解決のためのヒントは?」という難しいテーマを掲げ、WWF事務局長の東梅貞義、モデレーターの井田徹治氏(WWFジャパン理事、共同通信編集委員)とともに考えました。スクールのポイントをグラフィックレコーディング(グラレコ)を使ってお伝えします。(グラレコ制作:aini 出口未由羽さん)

開催概要: 生物多様性スクール2023 第1回「生物多様性と人類」
日時 2023年3月10日(金) 16:00 ~ 18:00
場所・形式 Zoomによるオンラインセミナー
参加登録者数 1477名

人間は弱い存在、弱みを強みに変えて生き延びてきた

(山極氏の講演パート)
地球の限界を示す「プラネタリーバウンダリー」という考え方では、地球環境は人間活動によって生物多様性などの3つの指標で限界値を超えています*。このままでは人間も地球も滅んでしまう危機的な状況。人間とは一体何者か?なぜこのような事態を引き起こしたのか?人間の進化の歴史から考えてみました。山極氏は、人間は身体的にとても弱い存在であったと言います。その弱みを、生き残るためになんとか強みに変え、仲間との関係性「共感力」「社会力」を発達させてきました。
*プラネタリーバウンダリーについて(環境省)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html

言語による人間の影響力拡大と、負の影響

(山極氏の講演パート)
そのうち人間は「言語」という重要な道具を手に入れ、知性を向上させます。それによって、農耕・牧畜社会から、引いては、産業革命、農業の工業化、通信情報革命など人間社会は大きく発展しました。しかし、言語の持つ特性により、集団間の争いや人の管理、自然の改変など、さまざまな負の影響や現象も生まれました。行き過ぎた人間活動の結果、近年象徴的に起こったことが新型コロナウイルスによるパンデミックであると言います。移動や、集まること、対話の自由があってこそつくられてきた人間社会が、このパンデミックにより大きく制限されました。山極氏は、今こそ新しい人間の暮らしを考え直す必要があるとし、コロナ後の社会に求められる自然と人間との関係性を提示しています。

自然や生物多様性の豊かさ、身体で感じる体験が大切!

(ディスカッションパート)
山極氏の講演を受け、東梅は「環境保全活動の中で言葉を使って自然を語ることも多いが、それをどう捉えたらいいか?」と山極氏に問いかけました。山極氏は、自然の価値や自然との付き合い方は言葉では表現しきれないことも多く、人々が自然を「身体で感じる」大切さを指摘。豊かな自然や生物多様性を楽しんだり、味わったりする体験、そうした自然を残しておくことが大切だと語りました。今回のテーマ「人間というサルは、なぜ自然を破壊し続けるのか?解決のためのヒントは?」に関連して、人間はもともとは弱い存在であるのに、世界を支配できるという思い込みが間違いの原因と指摘。科学技術を使わず豊かな世界を築く方法もあるとし、過去から学ぶ大切さを語りました。

地域が鍵、食を通じて自分に関係する自然を取り戻す

(ディスカッションパート)
山極氏は、大企業が食の供給網(サプライチェーン)を担う現代の課題として、「規格」と「価格」について指摘。規格に合わない作物は廃棄され、価格が大企業によって決められてしまいます。それに対して、道の駅に代表されるような生産者と消費者が直接つながる流通のあり方や豊かな暮らしのあり方を紹介。また、これまでの環境保全がうまくいかなかった原因をトップダウン型の政策とし、代わりに地域のイニシアティブを大切にして、地元の特質にあった最善の方法を考える「Think locally, Act glocally」という考え方を紹介しました。古来より「食」は、人と人、人と自然をつなぐ重要な役割を果たしていたことにも触れました。最後に、食を通じて自分に関係する自然を取り戻す努力が大切と登壇者は合意して、会は締めくくられました。

今後の生物多様性スクール

■第3回 生物多様性と防災・減災 
日時:6月2日(金)16時~18時(オンライン)
登壇者:大正大学教授 古田尚也氏 
お申込み受付中

■第4回 生物多様性と金融 
日時:6月21日(水)16時~18時(オンライン)
登壇者:TNFDタスクフォースメンバー原口真氏

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