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「レッドリスト」更新 世界の樹種の3分の1が絶滅の危機に

この記事のポイント
2024年10月28日、コロンビアで開催されている生物多様性条約の第16回締約国会議(CBD-COP16)において、IUCN(国際自然保護連合)は絶滅の危機にある野生生物の「レッドリスト」の更新を発表。その中で、特に世界の樹種の危機的な現状を明らかにしました。これは、IUCNが今回初めて実施した、世界の樹種評価(Global Tree Assessment)に基づくもので、その結果は、実に地球上の樹種の3分の1以上が、絶滅の危機にさらされているという、衝撃的なものでした。森林の生物多様性と、人の暮らしにも欠かせないその恵みを守るため、緊急の取り組みが必要とされています。
目次

4万6,000種が絶滅危機種に 特に深刻な樹種の危機

2024年10月28日、コロンビアで開催されている生物多様性条約の第16回締約国会議(CBD-COP16)において、IUCN(国際自然保護連合)は「レッドリスト」の更新を発表。

世界の野生生物の4万6,337種が、絶滅のおそれが高い状況にあることを指摘しました。

この種数は、前回の更新と比較して、1,300種あまりの増加となり、世界の生物多様性の危機が深刻な規模で進行していることを物語るものです。

今回のレッドリストの更新で特に注目されたのが、世界の樹種の危機です。

これは、同じくIUCNが初めて実施し、発表した、世界の全ての樹種評価「Global Tree Assessment」に基づいたものです。

その結果は衝撃的な内容でした。

対象となった世界の4万7,000余りの樹種のうち、実に3分の1以上にあたる約1万6,000種(38%)が、高い絶滅の危機にあると評価されたのです。

この種数は、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類の全ての絶滅危機種を合わせた総数よりも多いものでした。

自然環境の基盤に危機が迫る

樹木は、熱帯林のような森林を含む、多様な自然環境の基盤であり、その生態系の中で、さまざまな役割を果たしています。

二酸化炭素の吸収・固定、水源涵養や土壌の形成と保護など、良く知られている働きだけではありません。

木々は、果物や種など、人や動物の食べ物を生産し、蒸発散を通じて地中と大気中の水循環を担っているほか、人のメンタルヘルスにも効果があると言われています。

また、成長の早い種や、乾燥に強い種、高山でも生育できる種など、異なる環境に適応できる種が存在するからこそ、木々は世界中のさまざまな場所で森林を形成し、生態系の根幹を形づくってきました。



地球上の生物種の約8割が、森林に生息しているというデータもあり、ある一種の樹木に、完全に依存して生きる野生動物も数多く知られています。

こうした樹種の危機は、そのまま多数の他の野生生物の危機にも直結するものです。

樹種の保全は、人類にとって地球温暖化対策の要であり、生物多様性の源を守る上で、欠かせない取り組みでもあります。

インドネシアなどに生育するウリン(VU – 危急種)。クスノキ科の樹木で、森林の開発や木材としての利用により、絶滅が懸念されています。
© Tsubasa Iwabuchi / WWF Japan

インドネシアなどに生育するウリン(VU – 危急種)。クスノキ科の樹木で、森林の開発や木材としての利用により、絶滅が懸念されています。

求められる世界の樹種の保全

今回明らかにされた樹種の危機は、これまでの世界の生物多様性保全の取り組みが不十分であり、より一層強化していかなければならないことを示しています。

WWFは2024年10月10日に「生きている地球レポート2024」を発表し、世界の生物多様性の豊かさを示す「生きている地球指数(Living Planet Index: LPI)※」が1970年から2020年までのわずか50年の間に73%減少も減少したことを指摘。

自然の再生には、後戻りのきかない転換点(ティッピング・ポイント)があり、世界の生物多様性にこの危機が迫っていることを訴えました。


▼関連記事:ボール(地球)が元の場所に戻れるうちに
https://www.wwf.or.jp/staffblog/diary/4343.html


これは、あるレベル以上の変化が自然環境に加わると、元の姿に回復する力を失い、下り坂を転がるように以前とは異なる状態に変化し、元の状態に戻すのが不可能(できたとしても非常に困難)になることです。
今回、絶滅の危機にあると評価された樹種は、土地利用の変化(森林の農地への転換など)や、違法伐採、外来生物の害虫、気候変動などの脅威にさらされています。

世界の自然が転換点を超えないよう、これらの脅威を急速に低減させなければなりません。

何より、一度絶滅してしまった野生生物種は、二度と復活させることはできません。

それは、世界の自然が健全性を保ち、迫りくる気候変動に対応し、人々に恵み(生態系サービス)をもたらす力を一つ、失うことに他なりません。

まだ、転換点を超えたわけではありません。

今後5年の間にどのような決断を下し、行動するのかが非常に重要です。

一種でも多くの生き物を絶滅から救い、経済や社会システムをより持続可能なものに変えていくチャンスは、まだ残っています。

※LPI:生きている地球指数= 5,495種の脊椎動物(両生類、鳥類、魚類、哺乳類、爬虫類)における、約3万5,000の個体群の規模の変化を基に、生物多様性の豊かさを示す指数。

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