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生物多様性条約締約国会議(CBD COP16)閉幕 残された課題多く

この記事のポイント
2024年11月2日、コロンビアのカリで開催されていた、国連の生物多様性条約第16回締約国会議(CBD COP16)が閉幕しました。会期は予定よりも1日延長され、各国による生態系保全の取り組みを評価する指標や、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)から得られる利益を配分する基金の設置が合意されるなど、一部進展は見られたものの、重要な課題が多く残されたまま終了。2030年までに生物多様性の回復(ネイチャー・ポジティブ)を実現する上で、懸念が残る結果となりました。
目次

問われた「生物多様性を回復」への道筋

2024年10月21日から11月1日までの予定で、コロンビアのカリにて開催されていた、国連の生物多様性条約第16回締約国会議(CBD COP16)が、会期を一日延長した11月2日、閉幕しました。

今回の会合には、196カ国の政府関係者が参加。さらに、生物多様性条約の会議では初となるグリーンゾーンが設けられ、一般市民の参加も見られました。

また、議長国であるコロンビアの意向により、世界各地から先住民や女性、若者、地域など多様なコミュニティの声が集められ、その主張が強く訴えられたCOPとなりました。

今回の会合では、前回のCOP15で課題として残されていた、世界の生物多様性保全の国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)」の達成度を評価する、具体的な指標についておおむね合意ができたほか、生物の遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の利用によって生じる利益配分を目的とした新たな基金の設立も合意されるなど、いくつかの進展が見られました。

しかし、より広範なDSI以外の分野をカバーする基金の設立や、その他の重要な決定に関する合意は会期内に完了せず、COP16での議論を別途、特別会合、もしくはCOP16-2という形で実施する必要が出てきました。

この結果は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」を達成し、2030年までに生物多様性を回復傾向に向けること(ネイチャー・ポジティブ)を実現する、その進展を阻む大きなリスクになると考えられます。

COP16の成果

各国の生物多様性行動計画とその評価

生物多様性条約の締約国は、条約の国際目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」を達成するため、それぞれ行動計画(National Biodiversity Strategies and Action Plan:NBSAP)を策定し、条約事務局に提出しています。

日本政府も2023年3月、法定計画である「生物多様性国家戦略2023-2030」を策定。これを、国としての環境政策の指針に定めると同時に、生物多様性条約で求められるNBSAPに位置づけています。

今回のCOP16の開幕時点で、このNBSAPを提出していた国は、全体の半分以下でしたが、会議の終了までに44カ国から改訂された行動計画が提出されました。

これにより、119の締約国が、KMGBFの達成に貢献するNBSAPを提出したことになります。

さらに、COP16では、各国によるNBSAPの進捗を確認するための交渉も進展しました。

これには、「ギャップ」を埋める上で、重要な意味があります。

現状では、各国がそれぞれのNBSAPを実現したとしても、KMGBFが達成できるとは限りません。NBSAPの積み上げと、KMGBFの目標の間にはまだ「ギャップ」があるのです。

このギャップを埋めるためには、各国のNBSAPを定期的に評価し、より野心的なものに改善していくプロセス「ストックテイク」が必要となります。

そこで、今回のCOP16では、2026年と2030年に、この「ストックテイク」のための見直しを行なうこととし、その具体的なプロセスについて議論が行なわれました。

これにより、各国は、KMGBFの達成に責任を持つ形で、NBSAPに取り組むことを求められます。

しかし、その道筋は見えたものの、正式に合意される前にCOP16は閉幕。交渉は引き続き、次の場へと持ち越されることになりました。これは、大きな課題として今後に残された懸念です。

DSIの利用から得られる利益配分のための基金

COP16で成果として注目された大きな進展の一つに、「カリ基金」の設立があります。

これは、生物の遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の利用によって得られた利益を、衡平に分配するための新たな仕組みで、「カリ基金」と呼ばれます。

この仕組みでは、DSIを製品やサービスに利用する企業が、利益または収益の一部を基金に支払うことを規定しています。

配分の詳細はまだ最終的に決まっていませんが、基金の50%は、直接または政府を通じて、先住民と地域コミュニティに配分されることが合意されました。

これにより、女性や若者を含むこれらのコミュニティが、利益を共有できるようになります。

「カリ基金」はまだ完全なものにはなっておらず、多くの詳細が未定ですが、自然から利益を得ている企業が生物多様性保全に貢献し、最も支援を必要とする人や地域に、貴重な資金を提供する上での、重要な一歩といえるでしょう。

先住民および地域コミュニティの参加

COP16では、議長国コロンビアの意向もあり、アフロ系住民(アフリカにルーツを持ち、世界の各地で暮らす人々)のコミュニティが、特にラテンアメリカなどの地域では、生物多様性の保全や自然との共生において、大きな役割を果たしてきたことが強調されました。

実際、こうしたコミュニティの多くで続く、伝統的なライフスタイルや自然資源の持続可能な利用の在り方は、地域の生態系保全に大きく寄与しています。

そこで今回、関連条文である生物多様性条約第8条(j)項の作業計画と補助機関が採択され、生物多様性条約の下で行なわれる作業に先住民や地域コミュニティの参加が保証されることが決定されました。

近年は、ラテンアメリカ諸国にかぎらず、先住民および地域コミュニティ(IP/LC)は保全活動の最前線に立つ人々として、その役割と参画が非常に重要されるようになってきています。

逆にたとえ保全活動であっても、そうした人々の権利をないがしろにするような行為は避けられなければならないとの認識も広がっています。今回の議論も、そうした背景を反映しています。

生物多様性の主流化に向けて

COP16では、世界の経済、社会の全体で、生物多様性の主流化を進めるため、18の締約国の主導による「主流化チャンピオングループ」が新たに発足しました。

これは、生物多様性を各国の経済政策や開発計画の一部として位置づけ、生物多様性損失を防ぐための具体的な行動をとるため、協力を促進するものです。

環境分野だけでなく農業、エネルギー、インフラ、観光、金融などの主要な経済分野で生物多様性保全を考慮し、自然資源の持続可能な利用を促進するため、各国が自国の政策を強化し、企業やコミュニティとも協力した取り組みを加速させることが期待されます。

EBSAの手続きの採択

生物多様性と健康に関連した取り組みや、海洋の生態学的および生物学的に重要な区域(EBSA)の記述手続きについての採択も、COP16における重要な進展となりました。

これは、2030年までに海洋面積の30%を保全する、というKMGBFの達成に向けた大きな一歩となるものです。

気候変動と生物多様性の取り組みの統合に向けて

2024年11月11日から、アゼルバイジャンのバクーで開催される国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)を前に、自然と気候の取り組みを統合する動きも見られました。

今回のCOP16では、締約国がNBSAPと国別の温室効果ガスの削減目標(NDC)の整合性を強化することを誓約。

気候条約と生物多様性条約の間での協力関係の強化や、資金源の追跡を改善し、自然と気候の資金の二重計上を防ぐ取り組みを行なうこととしました。

残されたCOP16の課題

いくつかの進展が見られた一方、COP16では複数の重要な決定が延期され、KMGBFの実施が危うくなっています。

難航する資金をめぐる議論と補助金の問題

遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の利用をめぐる利益配分のための基金は設立されることになりましたが、より広い分野をカバーする基金、および資金についての議論は難航しています。

大きな注目点であった、発展途上国を対象とした新たな生物多様性基金の設立に関する交渉は、結局会期中に決着がつかず、一時停止となりました。

交渉が停止する直前には、支援する先進国と発展途上国の間で、対立も生じ、各国が何年も続けてきた問題が再発する形となりました。

先進国としては資金支援に慎重な姿勢を取り続けています。

2025年までに年間200億米ドルの国際生物多様性資金の提供を行なう、という約束もいまだ果たされていません。

また、暫定的な資金メカニズムであるグローバル生物多様性枠組み基金(GBFF)についても、今回の会合では十分な議論がなされず、現在の基金総額は4億700万米ドルに留まっています。

さらに、自然に有害な補助金の特定とその抑止のための行動についても、前回のCOP15でのKMGBF採択以降ほとんど進展がありません。

有効な解決策が見つけられないまま、これらの重要な決定を、さらに先送りにすることは、2030年に向けたKMGBFの達成を脅かすものといえます。

カリでのCOP16に続く議論の必要

これらの他にも、各国のNBSAPの定期的に見直し(ストックテイク)の詳細についての合意などをはじめ、COP16では決まらなかったことが多数、次の国際交渉の機会へと持ち越されることになりました。

しかし、次回の会議であるCOP17が開催されるのは、2026年の後半。これを待っていては、2030年までの生物多様性の回復傾向の実現は、不可能なものとなってしまいます。

これを解決するには、今回のCOP16を継承する、特別会合か、前回のCOP15の時と同様に、第二部のCOP16(COP16-2)を開催しなくてはなりません。

こうした進捗全体の深刻な遅れも、今後に残された大きな懸念です。

今後の国際社会に求められること

今回のCOP16の開催に先立ち、WWFは地球環境の現状を示す「生きている地球レポート(Living Planet Report:LPR)」を発表。

世界の生物多様性の豊かさが、過去半世紀の間に73%も失われたことを明らかにしました。

また、COP16の会期中、IUCN(国際自然保護連合)も、絶滅のおそれのある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」の更新を発表。

世界の野生生物の4万6,337種が、深刻な絶滅の危機にあることを指摘しました。

特に、樹種については、4万7,000余りのうち、3分の1以上にあたる約1万6,000種が、高い絶滅の危機にさらされていると指摘しています。

こうした現状を鑑みるに、国際社会が一致して、世界の生物多様性の保全に取り組むことの必要性は明らかです。

それにもかかわらず、カリでのCOP16は、十分な成果を出すことはできませんでした。

WWFは、COP16で得られた一部の進展を歓迎する一方、必要な合意を延期することはKMGBFの達成を妨げる可能性があることに警鐘を鳴らしています。

今回のCOP16に続く国際交渉の場で、どれだけこの遅れを取り戻せるか。

そして、各国政府だけでなく、ビジネス界や自治体、地域社会、さらには若者や学術機関などの非国家アクターが、この問題にどれだけ主体的に関り、取り組みを推進していけるかが、今後の交渉に向け、問われています。

WWFは引き続き、各国政府に対しNBSAPの改善と、国際協力の強化を求めながら、企業や金融機関に対し、生物多様性に配慮したビジネスの推進を働きかけていきます。

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