©Shuhei Uematsu / WWF Japan

北太平洋漁業委員会2023閉幕 IUU漁業対策は進捗するもサンマ資源回復への道のりは暗雲が

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2023年3月22日から3日間にわたり開催されていた、サンマやマサバなどの漁業資源の管理について話し合う国際会議、北太平洋漁業委員会(NPFC)年次会合が閉幕しました。2年ぶりの開催となった年次会合では、転載時のオブザーバー(監視員)義務化といったIUU(違法、無報告、無規制)漁業対策が大きく進捗した一方、漁獲量が激減しているサンマの漁獲枠は、直近の漁獲量の約2.5倍と過大であり、サンマ資源回復実効性には疑問が残る結果となりました。
目次

サンマの管理強化に合意もその効果には疑問

2023年3月22日から24日まで、札幌で北太平洋漁業委員会(NPFC)の第7回年次会合が開催されました。

9の加盟国・地域(*)が参加したこの会議では、サンマやマサバなど北太平洋の魚種を中心とした漁業資源の保全と利用について話し合いが行なわれました。

*日本、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、韓国、バヌアツ、EU、台湾

今回2023年の年次会合では、過去最低の漁獲量を更新し続けているサンマについて、さらなる漁獲規制が導入されるかが注目されていました。

秋の風物詩でもあるサンマですが、日本以外にも台湾、中国、韓国、ロシア、バヌアツによって漁獲されており、かつて世界一であった日本の漁獲量は1990年代後半以降低下。

現在の漁獲量は台湾、中国に続く第3位となっています。

日本のサンマ漁は日本の排他的経済水域(EEZ)内で行われているのに対し、台湾、中国などの外国船は公海上で操業していますが、近年、この公海上での漁獲量が急増。

NPFCの科学委員会は、2023年最新の資源評価結果の中で、サンマ資源は「枯渇状態」としたうえで、サンマの資源回復のためには、漁獲量の削減が必要であり、より予防的な観点では漁獲量を約50%削減することが必要であると提案していました。

日本代表団は、この科学委員会の提案に従い、漁獲量を50%削減させるとともに、小型魚を対象とした漁業を制限することを提案。

それに対し公海上で漁業を行う台湾、中国、韓国は、急激な漁獲枠減少は船員の雇用維持にも影響があるなど理由により大きく反発。一時は管理強化の合意も危ぶまれましたが、度重なる交渉の結果、漁獲枠を25%削減(25万トン)するとともに、「小型魚が多く漁獲される東経170°以東の6-7月の操業禁止」または「実操業隻数の削減(2018年から10%減)」または「操業期間の制限(180日以内)による漁獲努力量の削減措置」を実施することに合意されました。

しかし、最新の2021年の世界のサンマ漁獲量はわずか9.3万トン。今回合意された漁獲枠はこの2.5倍以上であることから、複数の加盟国からは、この措置がサンマの資源回復つながらないのではないかとの懸念の声が上がるなど、実効性に疑問を持たざるを得ない結果となりました。

NPFC会場風景。対面による会議とオンライン会議のハイブリッドでの開催となりました。
©Shuhei Uematsu / WWF Japan

NPFC会場風景。対面による会議とオンライン会議のハイブリッドでの開催となりました。

来年サンマに導入予定の漁獲制御ルール(HCR)に期待

持続可能な漁業管理のためには、資源の動向にあわせていち早く漁獲量の制限を行うことが必須であり、そのためには漁獲制御ルールが有効とされています。

漁獲制御ルールとは、資源の変動に対して自動的に管理措置を改定するための事前に合意したルールのことです。
通常は、資源量低下が明らかになった後、各国で対策を議論し、漁獲圧や漁獲量の削減に合意するというプロセスとなります。しかし、これだと各国の利権が複雑に絡み合うため、漁獲量削減などには合意できず、何の対策もなされないまま資源量が低下していくことが多く見られます。
一方、漁獲制御ルールを事前に合意しておけば、資源低下時にいち早く対策を打つことができるため、持続可能な漁業管理には必須とされており、すでに大西洋クロマグロや、ミナミマグロ、中西部太平洋のカツオなどに導入され、その他魚種でも導入が検討されています。

計画では、来年2024年にサンマについても漁獲制御ルールを導入する予定ですが、他の地域漁業管理機関(RFMO)のように導入が延期される可能性も十分にあります。

サンマの早期資源回復実現のため、NPFC加盟各国は、次回の年次会合までにしっかりと事前の準備・交渉を行い、計画通り来年に漁獲制御ルールを導入し適切な漁獲枠を再設定することが重要です。

IUU漁業対策は大きく進捗

2023年の年時会合では、IUU(違法、無報告、無規制)漁業対策についても、積極的な議論が行われました。

その中で最も大きな課題であったことが、洋上転載です。

洋上転載とは、洋上で魚を漁獲した漁船から大型の冷凍運搬船へ漁獲物を移動させることですが、この時、複数の漁船から漁獲物が持ち込まれるため、違法なものが混ざってしまうリスクが指摘されています。

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)など他のRFMOでは、基本的には洋上転載は禁止されており、オブザーバー(監視員)が乗船している場合にのみ、洋上転載が例外的に認められています。しかしNPFCについては、オブザーバーによる監視がなくても洋上転載が可能であり、大きなIUUリスクがあると考えられていました。

そのような状況を改善すべく、以前より日本などの加盟国から、洋上転載時のオブザーバー乗船の義務化をすべきとの提案が行われていました。

交渉は難航しましたが、長時間の交渉の結果、この提案は無事合意されました。

長期的視野に立った予防原則に従った管理が必要

今回のNPFC年次会合の結果に対し、オブザーバーとして会合に参加したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、次のように述べました。

「今回の年次会合は、4年ぶりの対面による開催ということもあり、例年以上の活発で密接な議論・交渉が行われました。その結果、長年の懸念であった洋上転載時のオブザーバー乗船義務化にようやく合意できたことは、IUU漁業廃絶のための大きな一歩となりました。

一方、壊滅的な漁獲状況であるサンマの規制強化については、一時は交渉決裂の危機に陥りましたが、日本など加盟各国の粘り強い交渉により、新たに未成魚の漁獲削減や漁獲努力量の削減といった措置が導入に成功しました。

しかし、現状の漁獲量の2.5倍という過大な漁獲枠が設定されたことにより、早期のサンマ資源回復は絶望的な状況であり、これは、一部の漁獲国による目先の利益を優先した結果の現れでもあります。

すべての加盟各国・地域は、長期的かつ予防的な視点を持つことが必要であり、来年2024年には、確実に漁獲制御ルールを導入し、予防的な漁獲枠が再設定されることに期待します。

また、2023年よりEUがNPFCに正式加盟し、EUによるマサバの漁獲について検討されました。
しかし、まだマサバの資源評価が完了していないこと、近年は不漁であること、EU漁船が巨大なトロール船であり資源へのインパクトが懸念されることなどの理由により、漁獲は認められませんでした。

日本人が最も多く消費しているマサバについても、漁獲制御ルールなどの管理措置を早期に導入し、サンマのように、各国の競争による資源低下してしまわないよう、予防的な観点で漁業を管理する必要があります」。

WWFは、北太平洋の持続可能な漁業の確立とIUU漁業廃絶のため、引き続き各国政府に働きかけをおこなっていきます。

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