© David Bebber / WWF-UK

生物多様性スクール第5回「生物多様性と国際社会」開催報告 グローバルとローカルの両輪が大切!

この記事のポイント
国連の生物多様性条約第15回締約国会議(第二部)が開催される2022年は、生物多様性の保全に向けた、世界の新しい枠組みが作られる、重要な1年になります。ビジネスの世界においても、すでに無視できない重要な要素、キーワードとなっている、この「生物多様性」について、日本でもさらに理解を拡げ、環境破壊を回復に転じる「ネイチャー・ポジティブ」な流れを創造していくため、 WWFジャパンは2022年1月より、全6回のオンラインセミナー「生物多様性スクール」を開始。7月28日に、第5回「生物多様性と国際社会」を開催しました。
目次

注目される「生物多様性」の今

ゲストには、東京大学農学生命科学研究科教授の香坂玲(こうさか・りょう)氏をお招きしました。生物多様性の国際交渉の最新状況や展望、注目される生物多様性保全の動きなど、スクール当日の講演概要をお伝えします。

開催概要: 生物多様性スクール 第5回「生物多様性と国際社会」

日時 2022年7月28日(木) 16:00 ~ 18:00
場所・形式 Zoomによるオンラインセミナー
主催 WWFジャパン
参加登録者数 920名

世界の転換点となりうる2022年12月のCOP15


冒頭の挨拶として、WWFジャパン事務局長の東梅貞義は、2022年12月カナダ・モントリオールで開催される国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)パート2は、経済や社会の仕組みの大きな転換点となる可能性があると語りました。例に出したのは、パリ協定が採択された2015年の気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)。この会議を境に、世界は脱炭素「カーボンニュートラル」に向けて大きく舵を切りました。COP15を機に、世界が「ネイチャー・ポジティブ」に向けて変革する可能性があると期待を示しました。

生物多様性条約の主眼は、生物多様性保全と経済をどう両立するか

長年、生物多様性の国際交渉に尽力している香坂玲氏は、生物多様性条約では、生物多様性の保全だけでなく、生物多様性の利用、そして利益配分の3つを議論しているといいます。保全だけでなく、経済の側面も議論している点がポイントです。生物多様性を持続可能な方法でうまく利用して、その利益をきちんと関係者に配分することで、さらに保全への意欲が高まる。生物多様性条約は、このサイクルを目指して設計されています。例えば、豊かな熱帯林を持続可能な方法で利用し、有用な微生物を活用した化粧品を開発・製造し、その利益を熱帯林を守る人々にきちんと還元し、さらに人々が熱帯林保全につながる行動をとる、といったサイクルです。

測りにくいものをどう測るか?

新型コロナウイルス感染症を背景に、何度も延期された国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)。2022年12月、COP15のパート2が、中国を議長国としてカナダ・モントリオールで開催され、2030年までの国際的な生物多様性保全目標(GBF)の採択を目指しています。締約国会議(COP)とは、何をする場なのか? 香坂氏は、生物多様性のためにコミット(約束)することを盛り込んだ文書を作成して、それを採択する、これだけだと言います。

しかし、生物多様性の場合、「どう測るか」が非常に難しく、そこがCOP15の議論のポイントとなっていると言います。生物多様性の2030年目標には、達成度を測るための、明確な「指標」が入ることが重要です。世界で一体どういうことが起こっているのか現状を見える化したり、目標を測ったり、成果をフィードバックしたりすること、つまり「具体的、計測可能、達成可能、関連性のある、期限付き」といったSMARTの法則に則った目標を立てて、取り組んでいくことが重要です。

このように、指標についての議論は進んでいると言えます。一方、測れないけれど、ひとまずやってみる、足元の取り組みから始める、ということも重要なことだと香坂氏は言います。国際的な議論やグローバルスタンダードの行方に目配りしつつ、地域で地に足の着いた取り組みから始める、グローバルとローカルの両軸が重要だと強調しました。

生物地多様性を生かした、地域ならではの取り組みが鍵

香坂氏は、少子高齢化により人口が減少する日本でも、地域の生物多様性を生かした作物や商品は、需要が落ち込んでいないものが多いと言います。海外に向けてもアピールできる強さがあるようです。兵庫県丹波地方の生きものとの共生を目指す農法によるお米やその派生商品、石川県能登半島の農家民宿、沖縄県恩納村でのサンゴの植樹取り組み等の事例を紹介しました。

沖縄県恩納村でのサンゴの植樹の様子。香坂氏プレゼン資料より

沖縄県恩納村でのサンゴの植樹の様子。香坂氏プレゼン資料より

新聞でいえばトップ面だけではなく、地域面、あるいはテレビの地方ニュースで紹介されるような取り組みも大事になってきます。言い換えれば、生物多様性の取り組みは、その土地ならではのストーリーがつくれる、やり方によっては地域ごとの工夫しがいのあるとても楽しい取り組みとも言えます。

民間・市民社会の役割が増大

マイナスをプラスに転換する発想は、ビジネスチャンスにもつながります。東京都の中越パルプ工業は、各地の里山が荒廃して拡大する竹林を有効活用し、竹を使った紙を作っています。

実は、国の対応だけではなかなか取り組みが進まないので、企業や自治体、市民の役割がますます重要になってきています。

国際的には、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する目標「30 by 30」が合意されています。そのような中、国が指定する保護区域以外の民間の土地を「保護地域以外の生物多様性保全に貢献している場所」(OECM)として認定する制度が注目されており、さまざまな主体が力を合わせて、2030年までに30%以上の保護区をつくっていくことが求められています。

COP15に向けて気運を盛り上げてきた複数の国際会議

続いて、WWFジャパン生物多様性グループ長の松田英美子より、国際環境NGOが考える生物多様性の国際目標について、お話しました。

生物多様性条約交渉において、WWFとして目指すところは、ネイチャー・ポジティブを確保したい、その一言に尽きます。ネイチャー・ポジティブとは何か? 2020年を起点として生物多様性が減少しているところを回復に向かわせること、そしてできれば2050 年までに完全復活させることです。

実はこれまで様々な国際会議が、COP15に向けて生物多様性の議論を盛り上げる役割を果たしてきました。例えば、2019年9月にジョンソン前英国首相がリードした世界海洋連盟の会議で、2030年までに保護区を30%確保という話が最初に登場しました。また、2020年9月の国連サミットで、2030年までの生物多様性減少の反転を目指す「自然への誓約」に各国首脳が賛同し、日本も2021年5月に菅元首相が参加表明をしました。さらに特に重要な出来事として、2021年7月のG7 の合意文書の中で、気候変動だけでなく自然にプラスになる活動を我々はやっていかなければいけないということが、「自然協約」という形で約束されました。

このように、一連の国際会議が生物多様性の議論に影響を与え、COP15を目指して気運を醸成していると言えます。

「目標」をさらに野心的なものに

WWFは、生物多様性条約の交渉において、生息地の保全、生産と消費のフットプリント半減、確固たる実施策の確立、ネイチャー・ポジティブにつながる資金の流れ、自然を基盤とした解決策、といった5つのポイントを目標として盛り込むことを求めています。

ただし、生物多様性条約の交渉テキスト(第一草案)には、それらの目標は十分には盛り込まれていません。他の国際公約と比較しても、さらなる野心的な内容の向上が求められます。

絵で分かる、スクールのポイント!

グラレコ(グラフィックレコーディング)アーティストのainiさんに、今回のスクールのポイントを絵にまとめてもらいました!

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