WWFインドネシア「APP(エイピーピー)社とのビジネスを終了させるべき」と発表
2020/06/26
200万ヘクタール以上の熱帯林が消失 影響は計り知れず
インドネシアのスマトラ島とカリマンタン島(ボルネオ島)で、過去30年以上にわたり200万ヘクタール以上の熱帯林を紙の原料調達のため、そしてアカシアなどの製紙原料を植える植林地(プランテーション)として開発するために破壊してきたシナルマス・グループの製紙メーカー、アジア・パルプ・アンド・ペーパー社(以下、APP社)。
WWFインドネシアによれば、その操業による自然林破壊とそれにともなう野生生物への影響、土地の利用権をめぐる地域住民との紛争、大量の温室効果ガス排出の原因となる泥炭地開発とそれに起因する火災と煙害など、この地域の環境や社会、そして地球規模の気候変動問題に及ぼしてきた影響は甚大です。
大規模な植林地開発により指摘されてきた問題点
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インドネシアの泥炭湿地林。枯れた植物の死骸が、水中で分解されずに泥炭となって蓄積され、その上に森林が形成される(インドネシア、スマトラ島)。
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多種多様な木が混在する自然の熱帯林。こうした森は、ゾウやトラ、オランウータンなど今では絶滅危惧種となった豊かな生態系を象徴する動物たちの命をはぐくむ(インドネシア、スマトラ島)。
適切な森林管理、責任ある調達の推進を
このようなインドネシアの熱帯林をめぐる問題と日本の消費には深いつながりがあります。
2019年、日本に輸入されたコピー用紙の63%はインドネシア産でした。国内で製造される分も含めると、日本市場に流通するインドネシア産コピー用紙の割合は23%となります。
またティッシュ・トイレットペーパー類でも輸入量の24%がインドネシア産で、インドネシアの最大の木材輸出国であり、またAPP社も工場を持つ中国から日本への輸入比率は61%となっており、近年、輸入の量・割合とも増加の傾向にあります。
このためWWFジャパンは、WWFインドネシアと協力し、購入企業に対して責任ある林産物の調達を、そして消費者に対しても、このような問題に関与しないための具体的な選択肢として、国際的な森林認証制度であるFSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)の認証紙や再生紙の選択などを呼びかける活動に取り組んできました。
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FSC、最も信頼される森林認証制度として
「森を守るマーク」として知られるFSCは、2007年にAPP社とその関連企業に対し、認証取得を許可しないことを決定、その後「FSCと組織の関係に関する指針」を定めています。
これは、管理する森林の一部の区画や工場ではFSCの認証基準を満たしていたとしても、その事業者全体の操業をみてみれば、違法伐採や人権侵害といったFSCの定める「許容できない活動」に関与がある場合にとられる措置です。
FSCが定める許容できない活動
FSCジャパンのサイト「FSCと組織の関係に関する指針」(https://jp.fsc.org/jp-jp/2-new/2-5)より
a) 違法伐採、または違法な木材または林産物の取引
b) 森林施業における伝統的権利及び人権の侵害
c) 森林施業における高い保護価値(HCV)の破壊
d) 森林から人工林または森林以外への土地利用への重大な転換
e) 森林施業における遺伝子組換え生物の導入
f) 国際労働機関(ILO)中核的労働基準 への違反
APP社は、「森林保護方針」を発表した2013年頃から断絶状態の修復をFSCに求めてきました。
そして2017年、FSCはAPP社の要請に応じ、断絶関係の修復のために同社が何をすべきかをまとめるロードマップを構築するため、NGOや企業からなるワーキング・グループを設置。WWFインドネシアもこのワーキング・グループに参加してきました。
しかし2018年8月、FSCはこのプロセスを中断することを発表。その理由として「APP社の企業構造と、同社に関係すると考えられる企業による、許容できない森林管理に関する申し立てについて、APP社からの追加情報」が得られなかったことを挙げました。
この決定は、APP社が自然林破壊に継続的に関与していること、また修復する必要のある環境的・社会的影響の全容を隠蔽するため、全ての関係会社についての情報を公開するという責任を果たしていない可能性が、WWFを含む複数のNGOの報告で明らかになったことを受けたものでした。
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
自然林皆伐後につくられた植林地。このような植林地に植えられる製紙原料となる木は、アカシアやユーカリといった5~6年で収穫が可能なとても成長の速い樹種。植林地はそうした同じの種類の木ばかりが人工的に植えられた、多種多様な木々の混在する熱帯の森とは全く異なる環境となる。(インドネシア、スマトラ島)
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泥炭地を開発してつくられた製紙用植林地。海や川につながる水路からの排水を続けることで、水分の多く含んだ土地を乾燥させる。これにより地中の炭素が空気中に放出され、大量の温室効果ガス排出の要因となる(インドネシア、スマトラ島)。
購入企業・投資家へ「SMG/APP社及びその関連会社とのビジネスを終了させるよう強く勧告」
それでも、インターネット通信販売、スーパーやホームセンターなどの量販店などでは、現在もこうした製品の取り扱いが継続されているのが現状です。
2019年3月、前回のWWFインドネシアからのAPP社についてのアドバイザリー(勧告)が、発表されてからおよそ1年。残念ながら、今回新たに発信されたアドバイザリー(勧告)に、期待された進展は記されていません。
具体的には、まず2013年に森林破壊ゼロを達成という誓約は、APP社が森林破壊を引き起こした複数の問題企業から調達を行なっていたことが、現地で活動するNGOの調査により指摘されており、遵守されてないことが明らかです。
次に2014年に同社が公表した100万ヘクタールの森林と泥炭地の再生を行なうというコミットメントについては、この6年間でわずか1万2000ヘクタールでの活動が発表されたのみで、目標の1.2%にしか達していません。
大規模な土地取引により生じた地域住民との争いでは、APP社は木材サプライヤーと地域住民との間に数百もの紛争があることを認めながらも、その場所や解決に向けた進捗についての情報を開示していません。
その一方で2019年、現地のNGOは、土地の権利、強制退去、補償の不履行をめぐる進行中の社会紛争で、APP社が対処していない事案を100件特定したと発表しています。
さらに2020年5月には、WWFインドネシアと複数のNGOが協力して実施している森林モニタリングプロジェクト「アイズ・オン・ザ・フォレスト」を含め、約90のインドネシアと世界の団体が共同声明を発表。
これはAPP社の関連会社が土地の利用権をめぐって争う地域コミュニティの農地に毒薬を撒いたこと対するものでした。
インドネシアにおいても新型コロナウィルスの拡大により、人々の協力や協調が重視される最中で起きたこの出来事に、多くのNGOが強く抗議しています。
こうした状況から「企業と投資家に対しSMG/APP社及びその関連会社とのビジネスを終了させるよう強く勧告する」との厳しいメッセージを継続して示しています。