「KUMON EIC 第4回海外スタディーツアー」がWWFの活動現場を訪問しました
2019/07/09
日本の子どもたちがスマトラ島にやってきた!
公文教育研究会は2014年よりWWFジャパンの実施している森林保全活動にご支援くださっていると同時に、WWFジャパンの法人会員でもあります。そのご縁もあり、WWFジャパンは、2017年および2018年に、公文教育研究会主催の夏の英語キャンプ「English Immersion Camp(EIC)」で講演の機会をいただき、子どもたちにWWFが行っている活動や、持続可能な自然資源の利用の大切さについてお話しをさせていただきました。
2019年は、両者のコラボレーションの発展形として、「English Immersion Camp」参加者を対象に実施されている「KUMON EIC 第四回海外スタディーツアー」一行がWWFの活動現場を訪問しました。参加者は小学生から大学生までの子どもたち30名およびスタッフの皆さんです。既に何らかの形で海外渡航や海外居住経験がある子もいるものの、みんな、スマトラ島への訪問は初めてのこと。一行は、インドネシアの首都ジャカルタから飛行機で約45分、スマトラ島南部のランプン空港に元気いっぱいで到着しました。
持続可能なコーヒー生産者を訪問
一行がはじめに訪問したのは、空港から車で約3時間の場所にある山の奥深く、ウルベルという地域にある村でした。ここは、WWFが長年活動しているブキ・バリサン・セラタン国立公園の周辺地域です。この公園は絶滅の恐れが高いスマトラサイ、スマトラトラ、そしてスマトラゾウが共存する貴重な場所ですが、豊かな熱帯林の中では、長年、違法な農園経営が深刻な問題とされてきました。
2007年当時、この国立公園内で違法栽培されている農作物の約50%がコーヒーで、日本を含む世界各国に輸出されている可能性もありました。国立公園内での違法な土地の占拠は、野生動物の生息域の減少に直結する問題ですが、貧困が原因で違法なコーヒー栽培に携わる人々もおり地域の生活の維持や向上の伴う対策が必要な状況でした。
そこでWWFは2009年に「ファーマーズ・フィールド・スクール」をスタート。国立公園周辺で農作物の生産性向上や有機農業を促進し、そこで生産された農作物に高い付加価値をつけて販売できるように技術指導を行ないました。2017年までの8年間で卒業生は23村、合計1,990人。コーヒー農園拡大による森林減少が特に激しいとされたウルベル地域では、1ha当たり500~800kg だった収量が最大1.5トンとなったのです。
2015年には、ウルベル地域内の卒業生から、女性による環境にやさしいコーヒー生産と加工、販売を行うグループ「SriKandi(スリカンディ)」が誕生しました。16人の女性で始まったこのグループは、現在は120人にまで増え、粉コーヒーの商品化に成功しています。
コーヒー生産を子どもたちが疑似体験
スリカンディに到着した子どもたちは、グループごとにさまざまな体験を行いました。あいにく現地は雨季の真っただ中、一行が着いてからほどなくして激しいスコールが来てしまいました。このため、残念ながら実際にコーヒー農園で収穫作業を行うことはできませんでしたが、サンプルで用意されたコーヒーの枝や摘みたての実に子どもたちは興味津々。匂いや味を確かめたり、専用の器具を使っての皮むきや、豆挽き、袋詰めと、コーヒー作りの一連の流れを体験したりしました。
現在、スリカンディのコーヒーは地域でしか流通していません。需要はあるそうですが、生産が追い付かないそうです。スリカンディの女性たちは口々に、「以前と比べて収入が上がり、子供たちにも教育が受けさせられるようになった」と言います。そんな女性たちの話を聞いて、環境にやさしいコーヒー豆の背景にあるストーリーを理解した子どもたちの何人かは、日本のご家族へのお土産にスリカンディのコーヒー豆を選んでくれました。
現地の小学校を訪問
その翌日は、同じくウルベル地区にあるダタラジャン小学校を訪問しました。森林の違法伐採や野生動物の密猟、国立公園内での違法耕作などの課題を解決するには、地域住民の理解が欠かせません。このため、WWFジャパンはWWFインドネシアと協力して、2014年からこの地域の小学校で「持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)」プログラムを実施してきました。ダタラジャン小学校はその対象校のひとつです。
朝一番で学校についた日本の子どもたちを迎えてくれたのは、地元の伝統舞踊でした。楽器の演奏も踊りもすべて子どもたちによるものです。日本の子どもたちは、初めのうちは遠巻きに眺めていたものの、「一緒に踊ろう」の声かけに、ひとり、またひとりと輪に加わり、最後はみんなで一緒に踊る楽しい一日の幕開けとなりました。
お互いの文化をまなび、体験しあう
WWFの支援対象となった3つの小学校では、その地域の特産品である一方、森林破壊の原因にもなってきたコーヒーやコショウなどの農産物について、算数の問題や、国語の作文、図工の工作など、幅広い教科の中で取り上げてきました。さらに、学校菜園などの校内緑化の実習や、廃棄物の3R(リサイクル、リユース、リデュース)の取り組みも実践されています。
日本の子どもたちは、まずは学校菜園を体験。ピーナッツやサツマイモを収穫したり、アボカドやキャッサバを植えたり、植樹も行いました。
そして教室に場を移し、お互いの学校や日常生活で行っている環境への取り組みをプレゼンテーションで紹介しあいました。更に、廃棄プラスティックを利用したクッション作りや、地元の植物を材料にしたブレスレット作りのESD活動を地元の子どもと一緒に行いました。
日本の子どもたちは、グループごとに歌やダンス、着物や折り紙、書道などの日本文化を紹介してくれました。日本の子どもたちは英語で会話ができますが、地元の子どもたちは英語を話せません。しかし、見よう見まねで一緒に折り紙の兜を作ったり、日本の着物を着てもらったり、少し前に日本でも現地でも一大ブームを巻き起こした「PPAP」を一緒に歌って踊ったりと、教室のあちこちから笑い声が聞こえる賑やかな時間を過ごしました。
こんなに大勢の子どもたちが外国からやって来るのは、スリカンディでも、ダタラジャン小学校でも初めての経験です。現地では、大人も子どもも、できる限りのおもてなしをしてくれました。村の女性たちは、コーヒーやお茶、地元の伝統的な手作り菓子やインドネシア料理をたくさん用意してくれました。見慣れない色合いや形をした食べ物を前に、はじめこそおっかなびっくりの日本の子どもたちでしたが、最後の方では「あっ、これおいしい」の声もあちこちから聞こえてきました。
この日もあいにく、午後からどしゃぶりのスコールでしたが、廊下にずらりと並んだたくさんのお菓子やお料理をつまみながら、興味深そうに校内を見て回ったり、地元の子どもとセルフィ―で撮影してみたりと、忙しいスケジュールの中でもパワフルに楽しむ様子が見られました。
楽しい思い出を胸に帰国の途へ
長いようで短いスマトラ島での2泊3日。WWFの活動現場はいずれも都市部を離れた僻地のため、連日バスでの長時間移動が続きましたが、一行は特に事故やケガ、病気などもなく、無事に旅程を終えてランプン空港を後にされました。
WWFジャパンでは、パートナー企業などの方々をインドネシアなどの現地にご案内することはありますが、今回のように、海外の現場に子どもたちをお迎えするのは初めての経験でした。無事にご一行のご案内を終えて一安心でしたが、参加した子どもたちは一体どんな感想を持ったのかが気になるところでもありました。
そんな私達の元に、後日、公文教育研究会の方からブログ記事のご案内をいただきました。参加者の子どもたちが、自らの経験や感想を英語で綴ったものです。その内容を拝読して、子どもたちがインドネシアやスマトラ島での体験を楽しんでくれたことが分かり、とても温かい気持ちになりました。
子どもたちのブログ(公文教育研究会のサイトへ)
- https://www.immersioncamp.com/blog/ost-blog1/
- https://www.immersioncamp.com/blog/ost-blog2/
- https://www.immersioncamp.com/blog/ost-blog3/
- https://www.immersioncamp.com/blog/ost-blog4/
- https://www.immersioncamp.com/blog/ost-blog5/
- https://www.immersioncamp.com/blog/ost-blog6/
環境問題は、時に日本から遠い場所で起きているためなかなか身近に感じられず、知識として情報を知っていても「自分事化」するのは大人でも難しいものです。まだ若い内から異文化に身を置き、日本とは違う世界があることを肌身で知ることは、長い人生においてよい財産になり得ると思います。子どもたちがスマトラ島で見聞きした事や、触れ合った人々の存在が、何かを考えたり行動を変えたりするきっかけとなれば幸いです。
今回のツアーを主催し、スマトラ島を訪問してくださった公文教育研究会のスタッフ、および参加者の皆さまに心からお礼を申し上げます。環境問題の実践は非常に地味な日々の活動の積み重ねとなりますが、自分たちの環境への取り組みを海外からのお客さまに知っていただけたことは、きっと現地の人々にとっても一つのやりがいに繋がったと思います。本当にありがとうございました。