日本ブリ類養殖イニシアティブ(Japan Seriola Initiative:JSI)が発足
2019/01/29
日本が参加したブリ類養殖の国際スタンダード
日本を代表する養殖魚ブリ
ブリ(ハマチ)養殖は日本の海産魚類養殖の歴史の中で最も古く、1927年までさかのぼります。現在、ブリ類(ブリ、カンパチ、ヒラマサ)の養殖生産量は国内の魚類養殖の56%を占め、これは世界のブリ類養殖の85%に相当します。まさにブリ類日本を代表する養殖魚と言えます。
近年ではアメリカや中国市場を中心に輸出も行なわれており、その量は年々増加。、これに伴い、日本の養殖ブリが自然環境と社会に責任をもって生産されているかの関心も高まっています。
海洋環境を汚染していないか、飼料原料を調達するため魚を乱獲していないか、また労働者の人権を侵害していないかなど。実際、養殖に限らず、世界各地の漁業の現場では、さまざまな課題が指摘されており、その改善と対策が、強く求められています。
日本が大きく寄与したASCブリ類基準
自然環境への負荷を最小限に抑えるとともに、労働者や周辺地域への社会的課題についても十分な配慮を行なった養殖場だけが取得できる国際認証、それがASC(水産養殖管理協議会)認証です。WWFは現在、拡大する養殖業に伴う環境・社会の問題を解決するべく、ASC認証を推進しています。
ASC基準は魚種ごとの生産方法と環境・社会への影響の違いを考慮して、魚種ごとに策定が進められてきました。
そして、ブリ類の基準となる「ASCブリ・スギ類基準」の策定が始まったのは2009年のこと。当時はASC認証を取得した養殖場は存在せず、情報も英語中心だったため、日本での認知度はほぼ皆無でした。
そこでWWFジャパンが日本語で情報を発信するとともに、2013年に東京と鹿児島で基準策定のための円卓会議を誘致し、日本のブリ生産者や関係者と、ASC認証が目指す「環境と社会に責任あるブリ類養殖」についての意見交換・情報提供が行なわれました。
また基準の妥当性を評価するための養殖現場での検証作業も、国内5か所の養殖場で実施。日本が養殖の国際基準作りに大きく貢献したのです。
さらなるブリ類養殖の改善を目指して
ASC認証ブリの誕生と内在する課題
ASCブリ・スギ類基準が発効されてから現在までに、3件のブリ養殖場と1件のスギ養殖場が認証を取得しています。ブリはすべて日本の養殖場ですが、そのASC認証ブリの出荷量はまだごくわずかです。
その理由は、養殖に際して使われる、主として飼料の持続可能性と医薬品について、課題が指摘されているためです。
ASC基準では使用するほぼすべての飼料原料について、トレーサビリティと高い持続可能性を求めており、また養殖魚に投与される医薬品の使用についても厳しい制限を設けています。
現在の日本の一般的な養殖工程でこれらの要件を遵守しようとすると、原料費が高騰するだけでなく、薬が使えないことで死んでしまうブリも増えて生残率が低下するため、採算が合わなくなると言われています。
日本ブリ類養殖イニシアティブの発足へ
ASC認証を拡大し、認証製品の安定的供給をはかるためには、これらの課題を改善していくことが必要ですが、個別の生産者の自助努力では非常に厳しいのが実情です。
そこで2017年2月、WWFジャパンは、環境と社会に対し責任あるブリ養殖を目指す生産者と関連企業に対し、協働して課題解決にあたるイニシアティブの設立を呼びかけました。
およそ2年の検討と協議を重ね、生産者5団体、関連企業8社が参加し発足したのが、日本ブリ類養殖イニシアティブ(Japan Seriola Initiative:JSI)です。今回、JSIに参加した生産者のブリ類総生産量は国内生産量の約2割を占めるとされ、国内のブリ類養殖全体への波及効果が期待されます。
JSIは、養殖ブリの健康管理技術の開発、飼料の持続可能性とトレーサビリティの確保、国際認証基準を満たした養殖生産の推進、養殖生産情報の公開を目的として活動を展開していく予定です。
国内はもとより、海外で消費されるブリの生産で、大きなシェアを占める日本のブリ養殖において、一般には競合関係にある複数の生産者が連携のもと、海洋環境にも配慮した持続可能な漁業として確立されれば、それは国際的にも大きな意味を持つものとなります。
WWFジャパンは、JSIの協力団体として、JSIの責任あるブリ養殖における課題解決を推進していきたいと考えています。